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#すのあべ
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「――はぁ」
憂鬱な重圧に押し潰されそうなまま、理人はあてもなく夜の街を彷徨っていた。 辿り着いたのは、かつて雨宿りをしたあの公園。昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、街灯だけが孤独に地面を照らしている。
まとわりつくような熱帯夜の湿気に顔を歪めながらベンチに腰を下ろし、コーラのペットボトルを開けた。喉を焼くような強烈な炭酸が鼻に抜け、刺激で目尻にじわりと涙が浮かぶ。
(信じられない……。あんなに、嫌で堪らなかったはずなのに)
自分から浅ましく、縋るように快楽を強請ってしまった。 認めたくないのに、白濁にまみれてはしたなく喘ぐ自分の姿が、呪いのように脳裏に焼き付いて離れない。理人は思わず、割れそうな頭を両手で抱え込んだ。
もう、薬のせいだなんて言い訳は通用しない。 おもちゃで中を抉られ、蓮の冷酷な視線に晒されながら、自分の肉体は確かにあの絶頂を「欲して」いたのだ。
(どうして……一体、俺が何をしたっていうんだ)
自問自答を繰り返しても、返ってくるのは虚しい反響だけだ。忸怩(じくじ)たる思いが胸を支配し、悔しさと情けなさが混じり合って、嗚咽混じりの溜息が漏れる。 泣きたくない。エリートとして、一人の男として、こんな無様な姿は許されないはずなのに。
頬を伝う雫を乱暴に拭い、空を見上げた。星一つ見えない曇天。まるで今の自分の心象風景そのもののような夜空に、理人は自嘲気味に口角を上げた。
「……またお兄さん、泣いてるの?」
不意に頭上に影が差し、幼い声が降ってきた。 ハッとして顔を上げると、いつの間に現れたのか、あの時の少年――秀一が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
「お前……」
「大丈夫? どこか痛いの?」
「……別に平気だ。それに、泣いてねぇし」
理人はぶっきらぼうに言い放ち、視線を逸らした。誤魔化すように腕でごしごしと目元を擦るが、声の震えまでは隠しきれない。
「お兄さんは、嘘つきだね」
少年は静かにそう告げると、突然、理人の身体をふわりと抱きしめた。
「なっ!? お、おいっ……」
驚いて身を引こうとした理人を制するように、秀一が柔らかな声を紡ぐ。
「大丈夫だよ。ここには、僕たちしかいないから。……泣きたい時は我慢しちゃ駄目だって、姉さんがいつも言ってるんだ」
背中をそっと撫でる小さな手のひら。そのあまりの優しさに、理人の胸の奥で、張り詰めていた何かが音を立てて決壊した。
「泣きたい時に泣けないと、心が壊れちゃうんだって。大丈夫。……誰にも言わないから」
あやすように、一定のリズムで背中をポンポンと叩く小さな手。 人前で弱みを見せることなど、理人のプライドが許さないはずだった。けれど、今の彼には、この小さな温もりを拒絶するだけの力は残っていなかった。
「っ、ふ……クソ……っ」
唇を噛み締め、俯いた肩が激しく震え出す。 堰を切ったように溢れ出したのは、蓮への憎しみ、自分への嫌悪、そして行き場のない孤独。 理人は秀一の小さな肩口に顔を押し当て、子供のように声を殺して泣き続けた。
その間、少年は何も言わなかった。 ただ、夜の静寂の中で、震える理人の背中をいつまでも、いつまでも、優しくさすり続けていた。