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#すのあべ
どれくらいの間、二人でそこに居ただろうか。 ようやく涙の熱が引く頃には、辺りはすっかり深い夜の闇に包まれていた。
子供相手に、これ以上ないほどみっともない姿を見せてしまった。その自覚がじわじわと気恥ずかしさに変わり、理人は慌てて身体を離すと、バツの悪さを誤魔化すように小さく咳払いをした。
「……悪い。……見苦しいとこ見せた」
「大丈夫だよ。誰も見てないし」
秀一は気にする様子もなく、理人の隣にちょこんと腰を下ろした。 小学生にしては、妙に大人びている。落ち着き払ったその佇まいには、既に人生を何度か経験しているかのような、不思議な貫禄さえ漂っていた。自分が同じ年の頃は、もっと、ただのガキだったはずだ。
理人が呆然と見つめていることに気づいたのか、秀一はこちらを向き直ると、いたずらっぽく微笑んで言った。
「なんかお兄さんってさ、うちの近所にいる『ボス』に似てる」
「は……? ボス?」
突拍子もない単語に、間の抜けた声が出る。小学生の口から出る「ボス」という響きに、一瞬だけ物騒な組織の影を連想して混乱したが、すぐに自分の考えすぎだと気づき、心の中で苦笑した。
「ボスっていうのは、野良猫なんだけど。……普段は『近づくなオーラ』を出して威嚇してくるのに、本当に弱った時とお腹が空いた時だけ、すっごく甘えてくるんだ」
「……なんだ、猫かよ。って、おい。それ、喧嘩売ってんのか?」
思わず凄んでしまい、すぐに「しまった」と後悔した。相手は子供だというのに。 だが、秀一は怯えるどころか、困ったように肩をすくめて首を振った。
「まさか。……そうだ、お兄さんにも今度会わせてあげるよ。似てるから気が合うと思う」
「いや、別に俺は猫なんて……」
「いいから、約束。ね?」
有無を言わせぬ強引さで、理人の大きな手が小さな手に握り込まれた。 絡みつく小指。戸惑う理人の意思を置き去りにしたまま、秀一は満足そうに「指切り」を済ませると、軽やかに立ち上がった。
「じゃあ、またね! お兄さん!」
「あっ、おい……っ!」
駆け出していく背中の先には、先日と同じように、街灯の下で待つ姉らしき女性の影があった。 公園を去り際に、ちぎれんばかりに手を振る少年。理人は大きく息を吐き出すと、躊躇いがちに、けれど確かにその手を振り返した。
(……全く、変なガキだ)
けれど、不思議と嫌な気分ではなかった。 あの男に汚され、ズタズタに引き裂かれた自尊心の隙間を、少年の無邪気な笑顔が埋めてくれたような気がした。
「――約束、か。……って、時間も日にちも聞いてねぇのに、約束もクソもねぇだろ……」
静まり返った公園で、理人は呆れたような独り言をこぼした。 その頬は、ほんの僅かに、けれどあの日以来初めて、柔らかく緩んでいた。