キッチンへ向かってポットにスイッチを入れてから、ゆらゆらと揺れる水面を眺める。
元貴がどうして来たかは分かってる。
若井がいない寂しさを、埋めに来たんだろう。
僕は…どうしたい?
コトコトと水が沸騰する音がしても、まだ答えは出なかった。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
(ryk 目線)
「涼ちゃん…。」
考え事をしていて気付かなかったけど、名前を呼ばれて振り向くと、元貴がキッチンの入口に立っていた。
その顔は相変わらず不安げだ。
「どうしたの。」
「…なかなか、来ないから…。」
「今行くよ。何飲む?こんな時間だしノンカフェインが良いよね。」
元貴は答えなかったけど、ちょうどレモネードがあったのでマグに注ぎお湯で割ってやった。
「戻ろう。おいで。」
そう言って元貴の手を掴むと、その冷たさに驚いた。
マグを置いて元貴をソファに座らせる。
「手、冷えてるよ。ほら。」そういってブランケットをかけてやる。
「…うん…。」
と、元貴が少し驚いたような、ふしぎそうな。そんな目でこちらを見て言う。
僕の態度が予想外なんでしょう。
こないだみたいになっても、もう構わないって気持ちで来たんだろう。
元貴が来たとわかった時、ホントは玄関ですぐにキスして、ベッドでめちゃくちゃにしてやりたかったけど。
背から回されたその手に触れた時、何かが心の中にチリチリとくすぶり出して、そうする事ができなかった。
自分でもこれが何なのか分からないけど。
でも、無理矢理抱くのは違うって脳の奥からシグナルが響く。
少しの沈黙の後、元貴がマグを両手で持つと
「あったか…」と小さくつぶやいた。
両手で持ったカップに、ふうふうと息を吹きかけてる横顔を見つめる。
こんなに可愛いのに。
若井はバカだななんて思いながら。
「手も温っためたらいいよ。」
「うん…。ありがと」
礼を言われるような立場じゃないのに。
あの日の事が頭をよぎって、僕は小さくため息を吐き出した。
「元貴。」
「ん…。」
「泣くなら、胸貸せるよ。」
どんな顔で言って良いかわからなくて、元貴の両手に包まれたカップを見つめていると、それが小さく震えて水面に振動が伝わっているのがわかる。
「…ッ、う…っ。」
ぽたぽたと大きな涙の粒が頬を伝って顎先から落ちた。
「もとき。」
そっとカップを取り上げてコトリ、とテーブルにおくと、肩を引き寄せる。
「う…、りょ、ちゃん、
俺…ごめん。ここに来て。…ッ、」
「…うん。」
「どう…しても、わかいが、ッ…好きで、もぅ、くる、し…っ。」
「うん。知ってるよ。」
ねぇ元貴。
どれだけ苦しいか、知ってるに決まってる。
だって、同じように僕も元貴に恋焦がれて、ずっと苦しかったんだから。
「ぜんぶ、知ってたよ。もとき。」
僕の背中に回された手が温かくなってるのがわかる。
それが何だか愛おしくて、つよく強く、抱きしめた。
.
優しい涼ちゃんになれるか
(あんな事しといて)
コメント
3件
涼ちゃん🥲 どっちも辛すぎるー!! 本当最高です🥹
優しい…。やっぱり、優しい藤澤さん、好き✨
神です ! ✨️ ほんとに最高 、