僕は男子中学生、絹田悟。
今、入学式の途中だ。
ホントなら、今から始まる青春に胸が高鳴ってるはずだった。
が..
ここは、「男子校」だ。
僕は新入生代表、西谷航なんちゃらの話もそこそこに、あの日のことを思い出した。
僕の家は歯医者だ。「絹田歯科」とかいう、顔の主張が激しい広告看板を出してそうな名前だが、 東京の「きぬた歯科」とは全く関係ない、鹿児島にある地元じゃそこそこの知名度の歯科である。
どうやら、 父さんは僕に歯医者を継がせたいらし
く、小1の頃から塾に入れ、 地元の国立大学の付
属中学に入れて、 県下一番の公立高校、 鳥丸高校 に行かせる予定だった。
僕もそこそこ勉強は得意だったようで、塾ではい
つも、真ん中あたりの成績をキープしていた。
しかし、 小6の時、 事件は起きた。
塾で三者面談をしていたとき、 志望校の話になっ
た。当初通り、付属中学でいいと父さんが言った
とき、担任の先生が言った。
「悟くんの成績なら、 ラム・サール学園という選
択肢もありますが… お父さま、 いががです?」
ラム・サール学園は、県一番の難関校で、全国的
にも知名度が高い、中高一貫の男子校だ。
そう、男子校だ。 男子校なのだ。
僕は男子校なんて嫌だった。 当たり前じゃない
か。女子がいない生活なんて、耐えられるはずが
ない。だから、 最初から行くつもりもないし受け
るつもりもなかった。
それなのに、先生が余計なことを言ったことで、
人に乗せられやすい父さんが真に受けてしまい、
学歴主義の母さんももちろんOKしてしまい、 と
んとん拍子で受験までしてしまった。 手を抜きた
くはなかったから、 受験も真面目にした。 そした
ら、受かった。 受かってしまった。
塾の先生は、「やっぱり受かった! 悟くん、 良か
ったね!」と言っていたものの、顔に 「よっしゃ
あああ!!! 去年の奴より合格増えたああマウン
ト取りてぇぇ」と書いていた。 おい、お前のせ
いだぞ。 ふざけん n…
肩を叩かれ、我に返った。 どうやら寝ていたら
しい。ちょうど校長が話をしていた。 しまった。
叩かれた右側を見ると、 メガネを掛けた、いかに
もガリ勉っぽいやつがこっちを向いていた。そい
つは、
「寝ちゃだめだよ!」
小声でそう注意し、 また前を向いた。
意外といいやつなのかもしれない。
(こういうやつと友達になれたら、 けっこう楽し
い青春が過ごせるかもな)
そんな考えを、 すぐに頭から消した。
だって、ここは男子校だもの。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!