会場の中に入ると私たちと精霊官の他に人の姿は無く、足音だけが響いた。
「で、では!始めさせていただきますね!」
少し緊張気味な精霊官だったが、ちゃんと儀式は始められたようで、ウォレアの周りに光が現れ光輝を放った。光が急に現れ、ウォレアは少しびっくりとしているようだったが、そこに、現れたのは、、、
「こんにちは。私は水の大精霊、スインと申します。」
スインという、縹色の短髪の水の大精霊と、氷と雪の上位精霊の合計3人の精霊が現れた。 大精霊と上位精霊3人という結果を知り、精霊官は目をかっぴらいて驚いている。
そしてウォレアの契約精霊は全員水属性だと考えると、ウォレアはどうやら水属性の才能があるらしい。
そう思っていると、どうやらスインとルーナスは知り合いのようで、なにか話しているみたいだ。
「あら、スインではありませんか。久しぶりですね。あなたが契約するのは数百年ぶりなのでは?」
「ルーナス様!まさか契約されているとは思いませんでした。ルーナス様こそ、契約したことなんてないのでは無いですか?」
そうなの?と私が聞くと、ルーナスはこちらを振り向いて、
「はい、実は結構昔に彩を名乗る大精霊様に頼まれたのです。」
「頼まれた?」
そうなんです。とルーナスは答えた。彩を名乗る大精霊様とは、メリアとともに旅をした大精霊のことだ。
その精霊は転生した私が前世のことを覚えていなかった場合ルーナスが私に前世のことを伝えて欲しいと言ったそうだ。転生したら自分たち自身もきっと前世のことを覚えていないだろうから。
ルーナスも転生することが出来たが、『今の私がメリア様にできることはこれくらいしかない。』と言い、転生するのをやめたらしい。
「じゃあ、転生した彩を名乗る大精霊様に会えても記憶が無いんだね、、、、。」
そう言って私が残念がると、
「いえ、実は記憶を思い出す方法が、一つだけあるんです。」
とルーナスは言った。それについてはスインも知らなかったようで、
「そんな方法が存在するのですか?」
と、ルーナスに聞いていた。ルーナスはこくりと頷き、こう言った。
「その方法は、キングフェアリーの精霊の遺物に本人が触れることです。」
ルーナスがそう言い終わると同時に、
「それは実在しないと言われているはずです!」
と、精霊官は言った。確かに、精霊官の言う通り精霊の書にはそう書かれている。精霊の書とは、この国に生まれた貴族は嫌でも覚えないといけない、精霊に関することがびっしりと書かれた本のことである。
その本の中に、『キングフェアリーの精霊の遺物は、この世に存在しない』という記述があるのだ。しかし、ルーナスは気まずそうに、
「実は、その精霊の書を書いたのは私なのです。彩を名乗る大精霊様の精霊の遺物があると知れ渡ってしまったら、本人たちに触れさせることが難しくなってしまいますから。」
それを聞いた途端、精霊官はバタッと倒れてしまった。
どうやら、精霊の書を書いた本人がルーナスだと思わなかったからだろう。にしても最初に見た時のあの堂々とした精霊官はどこへ行ったのだろうか?
「ちなみに、どうやって見分けるの?」
とルーナスに聞くと、
「見分けるには、精霊の遺物を見ない限りは見分けられません。転生した彩を名乗る大精霊様の精霊の遺物には、メリア様の従者の印である、共生を願う者がついているのでその印がある精霊の遺物の所持者が転生した彩を名乗る大精霊様だと考えられます。」
と、ルーナスは言った。そこでふと、私はウォレアの精霊の遺物は何なのか気になった。
「そういえばウォレアの精霊の遺物は何?」
「契約者様の精霊の遺物はピアスです。」
と、スインが答えた。そしてそのピアスを見せてもらうと、サファイアと銀で出来た雫型のイヤリングだった。そしてその宝石の中に不思議なマークがあった。それを見たルーナスは、驚いた顔をしてこう言った。
「このマークこそ、共生を願う者です。なので、少年は、彩を名乗る大精霊様の精霊の遺物を触る権利があります。」
そう言った瞬間、ウォレアは驚いた顔をした。
「で、では、俺は前世彩を名乗る大精霊様だった、ということですか?」
「そうですね。あなたの精霊の遺物に共生を願う者がついていたので、そうだと考えられます。ですが、今の力では、まだあそこに行くのは危ないですので魔法が自由自在に扱えるようになるまで待った方がいいですね。」
ルーナスがそう言った途端、ウォレアは少し不安気な顔をした。それまでの間どうすればいいのか分からないからだろう。だから私は、
「じゃあさ、ウォレアが彩を名乗る大精霊様の精霊の遺物を手に入れるまで、私の家で鍛えればいいんじゃない?」
「えっ!でも、迷惑じゃないですか?」
「全然大丈夫だよ。それに私のお父さんは、現役の皇帝に仕える近衛騎士だから鍛えるには十分な相手のはずだよ!」
私がそう言うと少年は、
「じゃあ、行きます、、、」
と言った。その時の瞳は最初に出会った時のような何もかも諦めたような瞳ではなく、生きる希望が持てたように見えた。精霊契約の会場を出た頃には、太陽が傾いてオレンジ色の優しい光が私たちを照らしていた。