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そうして次の日、1泊だけの国内旅行へと旅立つ事になった。
シャインとレイニルの新婚夫婦に加えて、婚約中のヘリオスとローサも同行。
つまり『新婚旅行』の夫婦と『婚前旅行』の婚約者カップルという異色の組み合わせになった。
王城から2台の馬車が続けて出発する。先頭の馬車にはシャインとレイニルが乗っている。
急に決まった旅行なので、レイニルは行き先も予定も何も知らずに全てをシャインに任せている。
「あの、シャイン……」
「ん? 行き先か? それは着いてのお楽しみだ」
「いえ、そうではなくて……」
(なんで私はシャインの膝の上に座らされているの?)
車内の椅子は数人は余裕で並んで座れるはずなのだが、なぜかシャインはレイニルを膝の上に座らされている。
背中から逞しい両腕を回してレイニルの腰をガッチリと抱いている。到着まで離す気など全くない気合が伝わる。
そしてシャインは、わざとレイニルの耳元に唇を触れさせて囁く。
「レイニル……期限まであと20日もないぞ。どうだ、オレから離れたくないだろう?」
(いえ、今は離れてほしいです……恥ずかしいです……)
しかし、それを声に出して言えばシャインはさらに攻めてくる。一緒に暮らすようになって分かったが、やはりシャインはドSだ。
溺愛すれば雨が降るとでも思っているのだろうか。レイニルは全身に感じられる彼の期待と愛の重さに切なさを感じ始めていた。
なぜなら、今日もやっぱり快晴だからだ。
一方、シャインの馬車の後方を走るもう一台の馬車の中では、ヘリオスとローサが微妙な距離を開けて座っていた。それは心の距離感かもしれない。
「まったく不本意ですわ……なんで私があなたと婚前旅行なんか……」
「まぁ、そう言うなよ。逆を考えればチャンスじゃねーか。4人しかいねぇんだし」
確かに、これかならローサがシャインに、ヘリオスがレイニルに近付くチャンスはいくらでもある。
しかし、なぜかローサは気が乗らない。先日ヘリオスに押し倒されたせいか、彼が隣にいるだけで変に意識してしまう。
やがて外の景色は山や森などの自然が多くなり、人里離れた場所にある宿に馬車は辿り着いた。
王族が泊まるような豪華な宿ではなく、木造で風情のある佇まいは歴史を感じる建造物に見える。
先に到着した馬車から降りたシャインとレイニルが宿の前に立って、宿の外観を眺める。
「わぁ、素敵なお宿ですね」
地下牢暮らしのレイニルにとっては、どんな建物であっても立派に見えて素直に感動してしまう。
隣に立つシャインは腰に手を当てて、まるで自分の事を自慢するかのように誇らしげに胸を張った。
「そうだろう、ここは温泉宿だ」
「温泉ですか? 私、初めてです! ワクワクします!」
「ふふ、そうだろう。存分に楽しめるぞ」
……オレがな。という脳内の煩悩までは口にしなかった。混浴できる温泉を旅行先に選んだのは完全にシャインの下心である。
それに、シャインには他に確かめたい事もあった。そのために、ヘリオスの馬車はわざと到着の時間を遅らせた。
宿に入ると、従業員一同が並んで二人を出迎える。その中のリーダー的な中年の男性スタッフがシャインの前に立つ。
その男性は両手を前に重ねて申し訳なさそうな顔をしている。
「シャイン様。せっかくお越し頂いたのに申し訳ありません。今は温泉が……」
そこまで聞いてレイニルは察した。サンディ国は30日も雨が降らずに水不足で温泉も枯渇しているのだと。
雨女として急に申し訳なくなったレイニルは俯いてしまったが、シャインはなぜか笑顔で従業員に話しかける。
「ふむ。それでは自慢の温泉を見せてもらおうか」
「え、ですから、温泉は……」
「構わない。ありのままを見たい。案内しろ」
「は、はい……」
枯れた温泉を見せるなんて不本意だが、国王の望みならば案内するしかない。スタッフの男性は仕方なく温泉の場所へと案内する。
屋外にある一番大きな岩風呂へと辿り着くと、近付かなくてもその様子が分かる。辺り一面に湯気が立ち昇り視界を真っ白な世界に埋め尽くしている。
唖然とする宿の従業員たちを置いて、レイニルは嬉しそうに温泉の中を覗き込んでいる。
「わぁ、これが温泉……温かいし不思議な色と香り……」
温泉を見るのが初めてのレイニルには何もかも新鮮で不思議な光景に思える。
おそらく先ほどまでは温泉は枯れていたが、レイニルが宿に着いたと同時に源泉から温泉が湧き出た。原理は分からないが、これがレイニルの能力。
シャインは呆然とする従業員の男性に笑いかける。
「ふっ。どうだ、オレの妃は雨女だ」
これでシャインは確信した。レイニルは雨女であり、その能力を失っていない。温泉を湧き出させる力は雨女というより水の女神かもしれない。
それなのに雨が降らないのは、やはり自分が晴れ男のせいか……それともレイニルの心理的な要因かもしれない。
そう思うと燃え上がるのが太陽の化身とも言える男・シャイン。
「さぁ、レイニル。この温泉は貸し切りだ。思う存分楽しむぞ」
「はい!」
まさか混浴とは知らずに、レイニルはテンションが上がったままで明るく返事をした。
まだ初夜も迎えずにベッドで肌を合わせた事のない二人だが、新婚旅行の温泉で体を重ねてしまうのも一興。それがシャインの企みだった。
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