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(体調不良で投稿遅れましたm(_ _)m)
視点🐼
「うぅ~ん次は………第二区画?でもなぁ交通量が少ないから…」
地図を睨みながら、俺は唸っていた。
安全で、人がいて、なおかつ何か起きそうな場所。
条件が多すぎる。
「考えすぎじゃない?」
隣で肩をすくめたのは時也だった。
「最近、ずっと地図とにらめっこしてるじゃん。
今日は特訓と情報収集でいいと思うけど」
「情報収集……」
顔を上げると、きんときは少し楽しそうに笑った。
「図書館、行こうぜ」
「……図書館?」
「俺、前から気になってた魔術書があってさ
剣術の古文書も置いてあるらしいし」
その一言で、他の二人も反応する。
「それ、もっと早く言ってよぉ!」
「悩んでるよりよっぽど有意義じゃねぇかよ」
結局、満場一致で行き先は決まった。
__________________
図書館は、第七区画にあった。
古い石造りで、外観は半分廃墟のようだが、中は手入れが行き届いている。
「相変わらず静かだな……」
小声で言いながら、重い扉を押した。
中に入った瞬間、空気が変わる。
埃と紙の匂い。
それと――微かに、魔力。
(……?)
静かに足を止めた、その視線の先。
閲覧席の一角。
山のように積まれた本に囲まれて、ひとり座っている人物がいた。
黒に近い紫の髪。
机に肘をつき、分厚い魔術書をめくっている。
「……」
人が来ない図書館だったこともあり驚きつつきんときに話しかける。
「……あの人」
小さく呟くと、きんときも視線を向けた。
「あの魔術書、上級魔法の魔術書だよ。しかも原典だ。」
その瞬間。
ページをめくっていた手が、ぴたりと止まった。
「……そこの人」
低く、落ち着いた声。
「立ち読みなら静かにしてくれ」
顔を上げた少年と、視線がぶつかる。
彼の目は冷静で、感情が読めない。
「……あ、ごめんなさい」
反射的に謝罪の言葉が口に出る。
「邪魔するつもりは……」
「ならいい」
そう言って、また本に視線を落とす。
「図書館なんだから騒ぐなよ」
その言葉を最後にこちらに見向きもしない。
「……愛想のないやつ」
玲央が小声で吐き捨て、瑠久も「ちょっと怖いかも~」と苦笑いしながら書棚の奥へと消えていった。
きんときは目的の古文書を探しに、早足で魔術コーナーへ向かう。
俺は、どうしても彼が気になって仕方がない。
彼が読んでいるのは、きんときが言っていた通り難しい…それこそ国王の護衛などが習得する魔法だ。
そんな難しい本、どうやって読み解いてるんだ?
好奇心に勝てず、俺はそっと歩み寄った。
ピクリとも反応しない。
ただ、めくられるページの速度が一定で、迷いがないことだけがわかった。
ふと、視線が彼の手元に落ちる。
ずいぶんと使い古されたノート。
開いているページには、複雑な魔方陣と、古語で記された数式が並んでいた。
「……そこ、たぶん循環の定義の解読、間違ってる。」
「!」
彼の指が止まった。
冷ややかな視線がゆっくりと上がり、俺を射抜く。
「……何?」
「あ、いや……その魔法陣。始点と終点の魔力伝導率が合ってない気がして。」
「マナを、術者じゃなくて環境から吸収するなら、その右側の術式だとエネルギーが霧散しちゃうんじゃないかなって……あはは、お節介だったよね」
瑠久に教わった術式の変換。その知識を使いたくて周りが見えなくなっていた。
一歩下がろうとした、その時。
「…………いや」
初めて本を机に置いた。
彼は自分のノートと原典を見比べ、細い指先で数式をなぞる。
「……確かに。写本の段階で記述が歪んでいたのか。気づかなかった」
少しだけ、本当にわずかだけ眉間の力を抜いた。
そのまま羽根ペンを走らせ、数式を書き換えていく。
「……お前、名前は」
「え? あ、中村 祐希。一応、剣と魔法の両方をかじってるんだ」
「……中村か。俺は須磨 紫音」
紫音はぶっきらぼうに名乗ると、隣の空いた椅子を指す。
「そこ、座れば。……どうせお前の仲間たち、まだ戻ってこないだろ」
「いいの?」
「一人で読んでると、たまに解釈が偏る。さっきみたいな指摘ができるなら、隣にいても邪魔にはならない」
それは彼なりの、最大級の歩み寄りだったのかもしれない。
恐る恐る隣に座ると、紫音はまたすぐに本に没頭し始めた。
けれど、先ほどのような壁を作るような冷たさは、もうそこにはなかった。
「……この項、お前ならどう読む」
「えーっと、俺なら……こうかな」
静まり返った図書館の片隅。
埃の舞う光の中で、頭を突き合わせて一冊の本を覗き込む。
遠くで「nakamuどこ行ったー?」という瑠久ののんびりした声が聞こえたが、それに答えるのはもう少し先のことになりそうだった。
__________________
それから、俺は暇を見つけては第七セクターの図書館へ通うようになった。
隣に座って、紫音と難しい魔導書を読み解く。
彼は相変わらず無愛想で口も悪いけれど、俺が持っていく差し入れのクッキーには律儀に手を付けるし
俺の突飛な理論も「一理ある」と切り捨てずに聞いてくれるようになった。
ある日の午後。
窓から差し込む斜陽が、埃の粒を金色に照らしていた。
静寂の中で、俺はずっと迷っていた本題を切り出した。
「ねぇ、紫音。……俺と一緒に、空を見に行かない?」
ペンを動かしていた紫音の手が、止まる。
俺は一気に言葉を畳み掛けた。
「この地下帝国を抜けて、太陽の明かりを浴びたい。果てしない大地をみたい。Broooockもシャークんもきんときも……みんな、一緒に行くって言ってくれた。紫音の知識と魔力があれば、きっと――」
「……本気で言ってるのか」
彼はゆっくりと顔を上げ、氷のような瞳で俺を見据える。
「現世? 太陽が昇って、青い空が広がっている……そんなお伽話を信じて、仲間を募っているのか」
「お伽話じゃないよ。俺は信じてる。ここじゃないどこかに、もっと自由な場所があるって」
俺が身を乗り出すと、紫音は鼻で笑い、乱暴にノートを閉じた。
「お前は第七セクターの、恵まれた環境にいるからそんなことが言えるんだ。俺が住む第六セクター……第七区画がどんな場所か、知っていて言ってるのか?」
紫音の言葉に、一瞬言葉が詰まる。
第六セクター。治安が悪く、法よりも力が支配する場所。
「その理想、そこじゃ死ぬぞ」
突き放すような言葉。紫音は椅子を鳴らして立ち上がり、俺を完全に見下ろした。
「『夢』なんて言葉は、覚悟のないやつが一番安っぽく使う。お前、自分の剣で誰かの命を奪ったことがあるのか?その魔法で誰かを不幸にできるのか? 」
「それは……」
「ないだろうな。空を見る前に、地面の血を見ろ。お前の語る未来は、足元の現状を見ないふりをして描いた空想に過ぎない」
紫音の言葉は、鋭いナイフのように俺の胸に突き刺さった。
彼は荷物をまとめると、一度も振り返らずに出口へと歩き出す。
「同じ第七区画でも第六セクターは地獄だ。」
重い扉が閉まる音が、いつまでも耳に残っていた。
一人取り残された閲覧席。
さっきまで二人で読み耽っていた魔導書が、ポツンと置かれている。
拳を握りしめ、俺は唇を噛んだ。
彼を怒らせるつもりじゃなかった。でも、魔法が発展し簡単に人が死ぬ世界で安全な場所にいた自分が言っていい言葉じゃなかった。
「……nakamuー? 終わったー?」
遠くから、のんびりした瑠久の声が聞こえる。
玲央の瑠久に対して不機嫌そうな声と、なだめるきんときの足音。
俺は無理やり笑顔を作って、顔を上げた。
「……あはは、今行くよ!」
紫音が何を見て、何を背負ってここにきていたのか。
俺はまだ、その欠片も知らないのかもしれない。
でも、俺は信じたかった。
「……諦めてやんないから」
小さく呟いて、俺は仲間の待つ出口へと駆け出した。
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名前 須磨 紫音(すま しおん)
年齢 13歳(19歳)
ポジション デバッファー
魔法 闇
身長 174cm