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視点 🐼
紫音の言葉が、ずっと頭から離れなかった。
——地面の血を見ろ。
だったら、見るしかない。
彼が生きてきた場所を。
彼が否定する理由を。
俺は誰にも言わず、第六セクター行きの列車にのった。
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第六セクター第七区画。
降りた瞬間、空気が違うと分かった。
湿って、重くて、鼻にこびりつくような匂い。
天井板の照明はほとんど割られ、
点いている灯りもチカチカと不規則に明滅している。
壁には何かを引きずったような跡。
乾いた血の色。
耳の奥で、どこかの怒鳴り声と笑い声が混じる。
……ひどい。
良いとか悪いとか以前に、
人が安心して立っていられる場所じゃなかった。
俺はようやく理解した。
第七セクターで「不便だ」とか「窮屈だ」とか言っていた自分が、
どれだけ守られていたかを。
その時だった。
「お、兄ちゃん。迷子?」
背後から、軽い声。
振り向いた瞬間、腕を掴まれた。
気づけば囲まれていた。
数は三人。
視線が、値踏みするみたいで嫌だった。
「……あの、ちょっと」
言い終わる前に、腹に衝撃が走る。
息が詰まり、膝が崩れた。
財布を引っ張られる感覚。
中身は、420円。
自販機用と、帰りの電車賃。
それすら、ここでは十分だった。
「ラッキーじゃん」
「ガキのくせに持ってんなぁ」
笑い声。
次に来た痛みを、俺はちゃんと覚えていない。
ただ——
紫音の言葉が、正しかったことだけは、はっきり分かった。
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次に目を開けた時、天井があった。
知らない部屋。
薄い布団と、薬の匂い。
「……起きた?」
少し間延びした声。
視線を向けると、黄色い髪の青年が立っていた。
「外で倒れてたからさ。放っとくのも後味悪くて」
そう言って、苦笑する。
敵意は、ない。
「……俺は、桐谷瀬斗。君は?」
「……中村祐希、です」
体を起こそうとすると、肩がズキリと痛んだ。
「いてっ……」
「あ、まだ痛み引かない?ちょっと動かないで」
そう言って手をかざしてきた瀬斗。
次の瞬間、温かい光が辺りを満たした。
「……どう、かな?もう痛くない?」
「あれ?痛みが引いた!凄い!回復魔法使えるん…だ」
思わず興奮してしまう。
しばらく沈黙が流れた後、
彼は静かに聞いてきた。
「どうして、こんな所に?」
俺は、嘘をつかなかった。
紫音の名前。
彼が見ている世界。
自分がどれだけ無知だったか。
全部、話した。
瀬斗は一度も笑わなかった。
否定もしなかった。
ただ、真剣に聞いてくれた。
「……そっか」
ぽつりと、そう言って。
「スマイル……紫音ってさ、無愛想だろ。でも、あいつさ、夢を嫌ってるわけじゃない」
瀬斗は窓の外を見た。
割れた光の向こう側を。
「俺のせいでさ。彼奴、自己評価低くて」
その言葉が、胸に落ちた。
「祐希。君、まだ来る気ある?」
「……あります」
即答だった。
もう、逃げる理由はなかった。
瀬斗は少し驚いた顔をして、それから笑った。
「じゃあさ」
彼は、俺の方を見て言った。
「俺も一緒に行っていい?」
「紫音のこと、心配なんだ。
それに……何かを求めるって嫌いじゃないしさ」
少し照れたように頭をかいて、
続ける。
「仲間に入れてよ」
俺は、思わず笑ってしまった。
「……もちろん!」
こうして。
第六セクターの闇を知った俺と、
紫音をよく知る青年が、
同じ場所を目指すことになった。
まだ空は見えない。
でも、確かに一歩、進んだ気がした。
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名前 桐谷 瀬斗(きりや せと)
年齢 14歳(20歳)
ポジション ヒーラー
武器 弓矢
魔法 光
身長 174cm