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うわぁーーーー!!めっちゃ気になるぅーーー
※このお話は、長編モノの途中になります。
※第一話の注意事項を熟読したうえ、内容に了承いただけた方のみ、先にお進みください。
※途中、気分が悪くなった方は、即座にブラウザバックなさることをオススメします。
【注意】
※年齢捏造
grem→大学生(20くらい)。zm→10歳くらい。tnrbr→10代後半かそれ以上。
※オリキャラ絡んでいます。
わんくっしょん
早めの夕食は、ゾムが見たことのないほど、豪勢なものばかりだった。食べ方の難しい蟹や海老は、尾上が丁寧に剥いてゾムの皿に盛っていた。ハンスもまた、ゾムが食べやすいようにと、大きな肉を食べやすい大きさにカットしていた。
「うまッ!どれもめっちゃウマいで、おっちゃん!」
「はっはー。そりゃよかった。いっぱいあるから、どんどん食えよ」
和気あいあいと食事を進めるゾムと尾上の対面では、ハンスとエーミールが険しい表情で話をしていた。次第に二人の議論はエスカレートし、エーミールの語気が荒くなっていく。
どうも外国語で話しているらしく、ゾムには彼らが何を言っているのかすら、わからない。
突如エーミールが声を荒げて叫ぶと、テーブルを強く叩いて席を立った。
場の空気が凍りつく。
すぐにそのことを察したエーミールは「すみません…」と謝罪する。
「すみません…。少し外で、頭冷やしてきます…」
エーミールはそう言うと席を立ち、松葉杖をついてベランダの方へと足早に向かっていった。
「おいおい、ハンスよぉ。昨日の今日で、坊にゆかりちゃんの話するのは、ナシだぜ?」
「今回のような騒ぎを起こさぬためにも、いい加減理解していただきたいだけでございます」
「にしたって、言い方あるんじゃねぇか?」
「あの方はわかっております。ですから、頭を冷やしに行ったのです。ただ、まだ感情的に、ついていけてないだけでしょう」
「まだまだガキってことか」
「あの方のゆかりさんへの依存は、根深いものがありましたからね」
「ところで尾上さん」
「なんだ?」
「ゾム様は、どちらに行かれました?」
ベランダに寄りかかって、エーミールはタバコを深く吸いこんだ。
エーミールの脳内で、ハンスの言葉が何度も繰り返される。
わかっている。わかっている。
けど。
縋りつかないと、自身を保てないほどに、思い出に依存していた。タバコやクスリと同じだ。
「……ッ!」
どうしようもない口惜しさに、エーミールは無意識に火が着いたままのタバコを強く握りしめた。熱さなど感じない。手よりも、足よりも、胸が痛い。
「熱(あつ)ないんか?」
焦げたエーミールのを覆う、小さな柔らかい手。その感触に、エーミールはハッとして目の前を見つめた。
「ゾム君……。何で…」
「じーちゃんと、えらい剣幕で怒鳴り合うとったからな。何言うてるかはわからんかったが、エーミールがガキみたいにゴネてたんはわかった」
「ガキて……」
自分よりずっと年下のマセガキに『ガキ』呼ばわりされ、エーミールは言葉を失った。だが同時に、あれこれ考えるのが、馬鹿馬鹿しくなってきた。
「ほれ」
エーミールの鼻先に、ゾムがサンドイッチを差し出した。
「タバコなんかより、全然うまいで?」
「……ありがとうございます」
エーミールがゾムが差し出したサンドイッチに手を伸ばそうとしたが、すんでのところでゾムがサンドイッチを引っ込めた。
「なん…?」
「ちゃうねん。おっちゃんもじーちゃんも、何かむず痒い喋りやねん。エーミールもなんやアイツらに引っ張られとるし」
「何かこう…ちゃうねん。エーミールは『コッチ』寄りやろ?」
「ああ…」
せやな。
エーミールの口から、小さく笑い声が漏れた。
「ゾム君、そのサンドイッチ、もろてもよろしか?」
「……ええで!」
満面の笑みを浮かべ、ゾムはエーミールにサンドイッチを手渡した。
「おおきにな、ゾム君」
サンドイッチを受け取ったエーミールは、勢いよくサンドイッチにかぶりついた。ローストビーフの肉汁と濃厚なグレイビーソースが染み込んだパンが、口の中でうまみをほとばしらせる。
「うまい!うまいわぁ!」
「せやろ?もっとうまいメシ、よーさんあるで!」
「せやから言うたやろ?尾上さんが作るメシはうまい、て!」
「ホンマやな!向こうにもっとうまいもんあるで!行こ!」
結局エーミールはゾムの勢いに押され、ゾムの手に引かれるがままに室内に戻った。
ゾムがエーミールを連れて室内に戻ってくると、まだ食事は終わっていないのに、ハンスと尾上が帰る準備をしていた。
「どしたん?じーちゃんたち」
エーミールの手を引くゾムの姿に、ハンスは嬉しそうに目を細めて二人を見つめた。
「おお、ゾム様。我々はこれからまだ用事がございまして、本日はお暇させていただきます」
「残りの食事は、パックに詰めておいたからな。余ったら、明日の朝にでも食っとけ。…まあ、余ったら、の話だな」
尾上はゾムを見直すと、少し言い澱んで言葉尻を訂正した。
「エーミール様」
ハンスはエーミールの傍に歩み寄ると、耳元に口を寄せ、小声で囁いた。
「ちゃんとご自身で、説明なさるのですよ?」
「……わかってます」
エーミールは眉間に皺を寄せ、絞り出すように返答をした。
「それとですね」
ハンスは踵を返し、先程より大きな声で話を続けた。
「エーミール様もゾム様も、何とか逃げ切れたとはいえ、彼らに狙われていることには、変わりはありません。準備にはあと二日かかりますので、それまでは決してここからお出になりませんよう」
「「えー」」
エーミールとゾムが、露骨に不満の言葉を漏らした。
「お二方とも、ご自身の立場と体調を、ご理解くださいませ」
ハンスが二人をたしなめるように、ピシャリと言い放つと、二人は頬を膨らませながらも黙るしかなかった。
「まあ、たまにはのんびり過ごすのも、悪かァないぜ。チビも、坊のお守り、しっかりしとけよ?」
「……おん」
ゾム自身納得はできなかったが、エーミールを守れと言われたら、それは承諾せねばと思って首を縦に振る。
「では改めまして後日、お迎えに参ります。差し入れなど、必要なものがございましたら、連絡いただければお届けいたします」
「では、失礼いたします」
ハンスが深くお辞儀をし、尾上が軽く手を振ると、二人は部屋を出ていった。
「……とりあえず、メシの続きすっか」
ゾムがそう言ってエーミールを見上げると、エーミールは小難しい顔をして何か考え事をしていた。
「エーミール?」
「ゾム君……」
顎に手を当てて思案していたエーミールの顔が、突如いたずら坊主のような悪い笑顔になった。
「USJとか、興味あらへんか?」
エーミールの笑みに釣られ、ゾムもまた悪戯好きそうな笑顔を浮かべた。
「……ええなぁ!!」
すぐにエーミールはコンシェルジュの女性に話を聞き、USJのチケットの手配を頼み、おすすめの遊び方などのメモをもらってきた。
早朝にホテルを出て、丸一日を遊んで過ごすことにした。
翌日の早朝、エーミールとゾムは電車を乗り継ぎ、やってきたのはユニバーサルスタジオジャパン。
「やったー!俺、遊園地とか、初めてやーッ!」
「はははっ!それはよかったです。実は、私もなんですわ」
「エーミールもなんか?」
明らかに自分より年上はずのエーミールも遊園地が初めてということに、ゾムは驚きが隠せなかった。
「はい!ずっと機会がのうて…!めっちゃ楽しみですッ!」
「……そっか。ほな、はよ行こ!いーーっぱい遊ぶでッ!」
「待ってくださいよ、ゾム君」
早く入場したくて仕方ないゾムは、受付口へと足早に走って行った。足を怪我しているエーミールも、心底楽しそうにゾムを追いかけた。
アトラクション、シアター、屋台、手当たり次第にとにかく走り回った。
エーミールとゾムは、本来の年齢の子供のように、立場も過去も状況も今は忘れ、ただひたすらに楽しむことに夢中になっていた。
途中で立ち寄ったポップコーンスタンドのクルーの女性に
「仲の良い父子ですねぇ」
と言われ、思わず顔を見合せ、そして同時に大声で笑ってしまった。クルーのお姉さんはキョトンとしていて、ゾムが説明しようとしたところ、エーミールがゾムを遮った。
「ええやないですか、ゾム君。もう、父子でええやん!なあ!あっはっはっ」
「ひゃっひゃっひゃっ!エーミールが父親か!ええなぁ!」
「おおきになぁ、お姉さん!も一個、ポップコーンもらおか?なあ、ゾム君」
「せやな!姉ちゃん、おおきに!」
変にハイテンションの父子(?)に絡まれたお姉さんだったが、追加でポップコーンが売れたので、ま、ええかと、心の中で呟いた。
「ゾムくーん。おとーさん、タバコ休憩したいねんけど、ええかな~w」
「アカンで~、おとーさんw タバコ吸う時間、もったいないやろ」
「あははー。ゾム君には、かなわんなぁw ほな、次どこ行く?」
「せやなー…。ほな、アッチの魔法使いっぽいエリアとか、どや?」
「ええなぁ。ほな、行こか……」
エーミールがそう言ってベンチから立ち上がると、電源を切ってあったはずのエーミールの携帯電話が、けたたましい音を立て鳴り始めた。
「ぅおわっ?!何や?」
「んふっ。ハックしてきましたか。ホテルに置いて行けば、よかったですねぇw」
そう言うとエーミールは、通話ボタンを押して電話に出た。
「もしも~しw」
『エーミール様ッ!!あれほど部屋で待機と申しましたのに、一体どちらに……ッ!』
電話越しでもゾムに聞こえるほどの、ハンスの怒鳴り声。老執事は、相当にお怒りのご様子だった。
「はて、何のことでしょかぁ?」
エーミールがすっとぼけ口調で返答すると、そばをアトラクションの轟音と人々の絶叫が通り過ぎた。
『……場所は把握いたしました。すぐに!お迎えに参りますので、大人しく!お待ちになっていてくださいませッ!』
ハンスがそう言って通話を切ると、エーミールもまた電話をスーツの胸ポケットにしまい込んだ。そして、楽しそうな悪戯っぽい笑顔でゾムに振り返る。
「ゾム君。今度のアトラクションは、鬼ごっこや」
「あっはー。なるほどぉw」
「おおよそ見積もって、開始は二…一時間後くらいやな…。それまで、魔法使いエリアで遊ぼか!」
「イェーイ!行こ行こーッ!」
そう言うとゾムは、エーミールの身体を横抱きに抱き上げ、魔法使いエリアへと走り出した。
「ちょッ!ゾム、君?」
「怪我人歩かすより、こうした方がはよ着けるやろ?」
「そらそやけど…」
「おっちゃんに『エーミール守れ』言われたらからな。鬼ごっこの前の時間ももったいないし、さっさと行くで!」
背の高い怪我人の父親を抱いた少年が駆けていく姿は、一際周囲の目を引く光景ではあったが、二人は腹の底から笑い声をあげ、本当に楽しそうにストリートを駆けていった。
結局エーミールとゾムは、追いかけてきたハンスと尾上に捕まったものの、それすらもアトラクションの一環とばかりに楽しんでいた。
車に乗せられた帰り道、ハンスは滾々(こんこん)と二人の子供に説教を続けたが、どうにものれんに腕押しな手応えである。
「本当にお二方共、反省なさっておられるのですか?」
「「シテマスー」」
棒読みな返事を返す子供二人に、ハンスは苦い顔をして頭を抱えた。
「所詮ワイらガキはガキやねんもんなー、ゾム君。じっとなんぞしとられんし、羽目外して遊びたいこともあんねん」
「ですから、ご自身の立場というものを、ご理解なさいませッ!」
「知らーーん。ワイ、ガキやもーーん」
ハンスの苦い顔を見て、エーミールは長年の鬱積が払拭されるような、清々しい気分だった。
真正面からぶつかると、どうしてもこの経験と知識が豊富な老紳士には勝てない。エーミールなりの経験で手に入れた、本当にささやかな抵抗である。
厳格に規律正しく、けれども世の理不尽も辛酸も味わい尽くしたエーミールだからこそ、この日本での暮らしで得たものは、異質かつ純朴な精神。
その根底にあるのは。
エーミールは瞳を閉じ、瞼の裏に映し出した和服姿で微笑む女性に想いを馳せ、笑みを浮かべた。
「……エーミール様。もう明日の夜ですよ?」
「……わかってます」
エーミールは目を閉じたまま、物思いに更けつつ返事をした。
「まあ、それはともかく、坊を守ってくれてありがとよ。ゾム」
突然尾上に話を振られ、ゾムは不思議そうな顔をして首を傾げた。
「? 一緒に遊んでただけやで?」
「そうだな。だが、坊の怪我を考慮しつつ、俺らからですら坊を守ってくれただろ?それでいいんだよ」
「よーわからん」
「本来ならば、ゾム様にもエーミール様を止めていただきたかったのですが」
「そりゃ、今のチビにゃ、無理ってモンだ」
深い嘆息を吐くハンスに、尾上は笑ってそう言った。
エーミールとゾムをホテルに連れ戻した後、すぐにまたハンスと尾上はどこかに行ってしまい、また二人きりとなった。
「なー、エーミール。明日はどこ遊び行く?」
無邪気に尋ねるゾムに対し、エーミールは今日のことが嘘のように、悲しみを帯びつつも無理矢理貼り付けた笑顔でゾムを見つめていた。
「エーミール…?」
「ゾム君…。あなたは明日、T国に行きます」
「T国……?あ、前に行ってた、一緒に外国行くって話か?」
満面の笑みを浮かべるゾムであったが、エーミールはつらそうに、それでも笑顔を保って言った。
「私は……一緒には、行けません」
【SCENE 20に続く】