テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「兄ちゃん、それ頂戴」
とある日、俺がアイスを食べていると不意に凛が声をかけてきた。
つぶらな翡翠色の瞳を揺らし俺を見つめる凛。
可愛い弟の言うことだ。
別にアイスくらいなら、と俺はそう思い凛にアイスを手渡す。
「兄ちゃんありがとう!!」
凛はお礼を言うと、喜びながらアイス受け取る。
喜ぶ弟を俺は幼いながら可愛いと微笑ましい様子で見ていた。
でも、きっとこれが始まりだったのだろう。
その日から凛は俺に物や食べ物をよく強請る様になった。
お菓子やアイス、ぬいぐるみなど。
また、なにかと凛は俺が持っているものに固執して欲しがった。
一度だけ、凛に自身のサッカーボールを頂戴と言われ断った事がある。
そうしたら凛はみるみる目に涙を浮かべ大泣きしてしまった。
頂戴、頂戴と駄々を捏ねながら床で大泣きする凛を見て俺は耐えられなくなり口を開いた。
「これはやれないけど、他の欲しい物はお前に全部やる。約束だ」
俺は大泣きする凛の小指に自信の小指を絡め、約束を結ぶ。
凛は暫く俺の小指を見つめると、静かに分かったと呟いた。
***********************
数年後、俺には恋人が出来た。
「冴ー!!お待たせ!!」
大きな声と共に頭の双葉を揺らし紺色のブレザーを着こなす恋人が此方に駆け寄る。
「馬鹿、15分の遅刻だ」
俺は少し眉を顰めながら待ち合わせ場所に遅刻をしてきた恋人睨み付ける。
「いや〜、それには事情が…って痛“っ!?」
俺が頭を小突くと言い訳しようとしていた恋人は悲鳴をあげ頭を抑える。
痛みにうずくまる恋人を置いたまま、俺はグラウンドの中央でボールを蹴り上げる。勢いよくそして綺麗な放物線を描きゴールポストに入っていくボールを見つめ、俺は白い息を吐く。
「おい、世一。そんなとこでうずくまってる暇があるなら練習するぞ」
俺はうずくまったままの恋人に体を向け名を呼ぶ。
「…う“〜、元はと言えば冴のせいだろ!!」
目尻に涙を浮かべ、下から此方を睨み付ける恋人を鼻で笑い俺は再びグラウンドの中央でボールを蹴り上げる。
次の瞬間、そのボールを誰かが蹴り上げ、直撃にゴールポストに打ち込んだ。
ゴールを決めた人物を見て、俺は笑みを浮かべる。
「冴、やっぱお前のパス最高だよ」
此方を見つめまるで獣の様に蒼色の瞳を光らせる人物。
ゴールを決めた人物、恋人である潔世一はそう言うとにやりと笑った。
先程までの様子とは違い蒼い瞳を光らせる恋人はエゴイストそのもの。俺の恋人で、
唯一俺のパスを受けられるFW。
俺だけのFW。
***********************
「それにしても何でさっき遅刻してきた?」
俺は練習終わりの帰り道、遅刻の理由を問いかける。
「…あー…それはね、はいこれ!」
世一は鞄から何か取り出したかと思うと俺の手に小箱を置いた。
「誕生日プレゼント。確か、明日でしょ?明日は用事あって渡せないから今日渡そうと思ってさ。遅刻してきた理由はプレゼントを家まで取りに帰ったから。変な渡し方になっちゃったけど…冴、誕生日おめでとう。」
あー、恥ず…なんて言いながら世一は耳を赤くさせる。
小箱を開けるとそこにはブレスレットが入っていた。シンプルな銀色のブレスレットは夕日に照らされとても綺麗に見える。
俺が暫くそれを見つめていると返事が無いから不安になったのか世一は俺の顔を覗き込む。
「もしかして、好みじゃなかった…?冴が普段付けてるの参考にしたんだけど、…!?」
世一の言葉を遮る様に俺は世一の唇にキスを落とす。
俺の急な行動に驚いた様に目を見開いた世一に俺は一言告げる。
「愛してる」
一言、ただそれだけを伝える。世一は暫く俺を見つめた後、微笑む。
「…ふっ、冴急に何?改まって…、俺も愛してるよ」
世一はそう言うと俺の唇に今度は自分からキスをした。
顔を離すと、世一は俺とこつんとおでこを合わせ、とても愛おしい顔で微笑んだ。
***********************
「兄ちゃん。今日一緒に居た人誰?」
帰った直後、リビングに入ると凛に問い詰められる。
「あ“?一緒に居た奴?…あぁ、もしかして世一か?」
一瞬ピンとこなかったものの自身の恋人だと気付き名前を口に出す。
「世一?誰だか知らないけど兄ちゃんより少し小さい黒髪の子だったよ。それになんか…可愛かった、」
凛は思い出したのか気恥ずかしそうに頬を赤らめる。
こいつ、もしかして世一に惚れたのか?俺は頭の隅でそんな事を考えがら忠告をする。
「この際言っておくが世一は俺の恋人だ。お前が惚れた所で世一はお前のものにはならないからな」
釘を刺す様に鋭い瞳で凛を射抜く。
「…でもさ、兄ちゃん。俺やっぱ、欲しいんだ。世一の事」
凛は先程の俺の言葉が聞こえていなかった様に俺の瞳を見つめる。
コイツは何を言っているんだ?世一を欲しいだと?
俺の恋人って言ったのが聞こえなかったのか?
俺は呆れを超え、最早怒りを感じながら自信の髪をぐしゃりと掴む。
「…世一は俺の恋人だ。それ分かったうえで言ってんのか?」
「うん、分かってるよ。だからさ」
俺は眉を寄せ、とんでもない発言をする凛を思い切り睨み付ける。
そんな俺とは対照的に凛は淡々と言葉を続ける。
「世一、頂戴」
凛はそう言うとあの日のと同じ様に翡翠色の瞳を揺らした。
『これはやれないけど、他の欲しい物はお前に全部やる。約束だ』
あの日約束したもんね。他の欲しい物は俺に全部くれるって。