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俺はその場で貴族礼をとった。
片膝を突き右手を左胸上に指は揃えて肩の高さに。左手は握り込んで地面に付ける。
これは今朝、
『冒険者なら貴族が出したクエストもこれから携わるかもしれない』と習ったばかり。
――アーツ先生ありがとう!
「モンソロの冒険者でゲンと申します。お力になることができて光栄に存じます」
するとアリス様は俺の手を取り、
「そんな堅苦しい挨拶は必要ありません。どうぞお立ちになってください」
そう促されて立ち上がる。
「ゲン様はお強いのですね、さぞ名のある冒険者だとお見受け致します」
「特にオークジェネラルを倒された魔法は圧巻の一言でした。素晴らしいです!」
と興奮している様子だ。俺が答えに困っていると、
「お嬢様、まだ旅の途中でございます。急ぎ出立いたしませんと困ったことになります」
「今回のお礼はいずれ必ず致します」
そう言い残し馬車に戻っていかれた。
アリス様ご一行は旅を急ぐため亡くなられた3名は街道の脇に葬られた。
オークの始末はこちらで全てやっておくと言うと恐縮がられたが討伐部位の回収などもあるからと先に行かせたのだ。
さてと、後はのんびり片付けていきますかね。
オークジェネラルとオーク40頭をポンポンとインベントリーへ入れていく。
それに、このインベントリーに関してだが、先日女神さまにお会いしたのち新機能が追加されていることに気づいたのだ。
その機能とはズバリ『自動解体』である。
どんな魔物でもインベントリーに入れることで立ち所に解体できてしまうという。とてもありがたい機能なのだ。
俺とシロはいつもの森の丘に戻ってきていた。
襲撃のあった場所には、血の臭いで魔獣が寄らないようにとシロに浄化をお願いした。
すると、あのエリア全てを一発で浄化してしまったのだ。
まぁ……、そーだよね。シロは聖獣だからね。
ホントに凄いよね。ハハハハハッ!
――いろいろ疲れた。
「なぁ、シロここで肉を焼いたら絶対に旨いよな」
それを聞いたシロはブンブン尻尾を振りながら縋りついてきて、反応が凄いことになっている。
「おおっ――、わかった わかったって、そのうち そのうちな」
「じゃあ今度、しっかりした竈を作ろうな。そうそう鉄網みも買っておかないとな」
それと胡椒が欲しいよな。有るとは思うんだけど、まだ見てないんだよなぁ。
串焼きを出し、シロが食べやすいよう肉を串からはずしてフライパンに入れてやる。
その横には水のはいった木皿も一緒に出してあげた。
嬉しそうに食べるシロを眺めながら俺も串焼きを頬ばる。――うん旨い!
トラベル! を使って北門の近くまで飛び町にはいった。
さてさて、どーしたもんかねぇ?
報告しない訳にはいかないよなぁ。
かと言って、大きな騒ぎになっても嫌なんだよな。
あっ、そうだ! アーツ先生に相談してみるか。
俺はシロを連れて冒険者ギルドに向かった。
居るかなぁ~? ……そう都合良くは居ないかぁー。
よし、この薬草を出すときにどこに行ったか聞いてみよう。
そして、麻袋を買い取り窓口に持っていく。
「おう、今日も来たのか。がんばってるなぁ。え~と、ヒール草が100本にマジック草も100本か。やるじゃないか!」
………………
「今日のもすべて状態が良いな。よし『良』だ。また頼むぞ!」
そこで木札を受け取りこちらの総合カウンターに持っていく。
「すいませーん、アーツ先生はもう居ませんよね。どこに行けば会えますかね?」
「はいはい、ちょっとまって。まず薬草の報酬840バースね。それから、アーツさんなら今日は教会裏の孤児院じゃないかしら。炊き出しで」
俺は受付嬢に礼を言うと冒険者ギルドをあとにした。
教会か……。
この前会った、美人なんだけど残念シスターであるマヤの顔が頭をよぎる。
まぁ、行くのは孤児院だし。――大丈夫だよね?
教会に着いた俺たちだが、孤児院の場所がわからない?
はぁ~、聞くしかない……よね。
そして教会の扉をそっと開くと……居た! シスターマヤ。
あっ、目が合ってしまった!
シスターマヤは無言でツカツカツカとこちらにやって来くると、俺は手を掴かまれ教会の中に引きずり込まれた。
「どーしてあのとき帰っちゃうんですかぁ? 悲しかったですぅ」
「えっと、用事です。用事があったからです」
「じゃあ、今日は大丈夫なんですね。うれしいです!」
「えっ、えっとですね。今日はその……此方ではなく孤児院に行きたいのですが……」
とっ、とにかく手を放して欲しい。
「ダメですよ、また逃げちゃうでしょう?」
「おまえ! シスターに何してやがる?」
『た、助かったよアーツ先生~』と振り返ると…………視界が暗転した。
しばらくして目を覚ますとシロが心配そうに俺を見つめていた。
あぁ~、あのセリフを言いたかったのに。
シロの可愛い顔で天井が見えないじゃんよ~~~。
ひとりで悶えていると、
「ゲン、済まなかった。どこぞの不埒な者だと思ってなぁ」
アーツ先生はごめんねポーズ。
そうか……、俺はアーツ先生のげんこつを喰らったのか。シロはアーツの後ろから来てたから、わかんなかったんだな。それにしても身体頑強を持つ俺を気絶させるなんて、普通の人なら昏睡状態だろ。手加減しろよなー。
「えーと、別に問題はありません。それにアーツさんを探していたんで」
「んっ、私をか? また、どーして」
「ちょっと相談したいことがありまして」
「なんだ、相談というのは?」
「それは、ここではちょっと……」
「うっ、浮気者~。どこに行く気ですか?」
「いやいやいや、もともと俺はアーツさんを探していたわけで……」
「やっぱり帰っちゃうんですね。この嘘つき……」
「ゲン? どーなっているんだ」
「わかりません!」
「ところで、シスターとはどういう関係なんだ?」
「わかりません!」
「何だか知らんが炊き出しを手伝え! 話はその後でゆっくり聞いてやる」
何故か、炊き出しを手伝うはめになった。
孤児院は教会の横の路地を入った先、奥まった所にあった。
なるほど、分かりづらい。
シロを連れて孤児院に入った。
シスターも一緒についてくる。――なぜに?
教会には別のシスターも居るので問題ないらしいのだ。
だ・か・ら・その手を放しなさいってばよ。
アーツ先生からも変な目で見られているし。
子供たちは冷やかしてくるしで大変なんだよ。あなたのせいで!
だ・か・ら・手を放してください。
とりあえず、炊き出しをがんばることにした。
シロは孤児院の子供たちと走りまわっている。犬はお気楽でいいよなぁ。