テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#溺愛
桜咲かな
499
#溺愛
桜咲かな
430
桜咲かな
507
#聖女
桜井正宗@オートスキル1巻発売
7,332
一度見たもの。脳内に刻み込まれたデータやイメージを、そのまま現実へと具現化する力。
そして――
《オーバーフロー・アサルト》に仕込まれた隠しコード。
369。
脳内で構築したデータを、そのまま武器へと出力するための、
俺だけが知り俺だけが使える――裏の起動。
その力によって生み出された無数の“悠人”が、
円を描くように十文字を取り囲んでいた。
三十六の視線。
三十六の銃口。
逃げ場は、ない。
「……はは」
十文字が、低く笑う。
「これはあっぱれだ」
視線を巡らせながら、楽しげに続けた。
「まさか――《蒼槍の流星》のホログラム分身まで再現できるとはな」
その言葉に、悠人の胸がわずかに跳ねる。
(蒼槍の流星……蒼空のことか、)
十文字の視線が、鋭く悠人を射抜いた。
「やっぱりお前、何か知ってるだろ?」
空気が、張り詰める。
「貴様がその気なら――
俺も本気で行かせてもらう」
十文字は、はっきりと宣言した。
「――戦闘コード・β 9」
次の瞬間。
ガントレットが唸りを上げ、装甲が展開する。
金属が伸び、絡み合い、
十文字の腕から肩、胴体へと這い回る。
まるで意思を持つかのように。
やがてそれは――
彼の全身を覆う、重厚な戦闘鎧と化した。
雷光が鎧の継ぎ目を走り、
周囲の空気が、びりびりと震える。鎧越しの声が、低く響いた。
「さあ、悠人――かかってこい」
次の瞬間。
――ピッ。
十文字の耳元で、無線が割り込む。
『……十文字さん? 聞こえますか』
軽いノイズ混じりの声。
だが、その調子は明らかにいつもと違っていた。
『ま、マジでやべーっす……!』
九条だ。
焦燥が隠しきれていない。
早口で、息が荒い。
『応答お願いします! 十文字さん!』
十文字は一瞬だけ、眉をひそめた。
「……何だ、九条」
低く、苛立ちを含んだ声で応じる。
『今、運営ログを裏から見てたんですけど……』
『生命制御ブレスレット、完全に死んでます!』
その言葉に――
悠人の背筋が、凍りついた。
九条の声は続く。
『十文字さんだけ、ピンポイントで――
悠人のチーム付近に落とされてます』
そこで一度、九条は息を呑んだ。
だが、次の瞬間には堰を切ったように言葉が溢れ出す。
『それだけじゃありません!』
声が、明確に震えている。
『このバトルステージ専用のロボ……』
『何者かにリミッターを外されてます!』
悠人の喉が、無意識に鳴った。
『完全に戦闘用に書き換えられてます。
もう“この学祭で使うようなレベル”じゃない……』
九条は続ける。
『ドローンで周囲を偵察しました』
『他の参加者――ほとんどが戦闘不能です』
その言葉が、重く戦場に沈んだ。
葉擦れの音。
遠くで、何かが崩れるような低い衝撃。
――ここが、もはや「競技場」ではないことを、誰もが悟る。
十文字の拳が、わずかに軋んだ。
「……ほう」
短いが、その声音には明確な怒気が滲んでいる。
九条は、さらに声を落とした。
『そして……最後に』
一瞬、通信が乱れる。
『いま、この“黒幕”と思われる人物が――』
『西園寺と、交戦中です』
悠人の目が、見開かれた。
(西園寺……!?)
『西園寺さんから……』
『このことを、十文字さんに一刻も早く伝えろって……』
九条は、必死に言葉を繋ぐ。
『さっきまで電波が遮断されてて……』
『やっと、ここまで来て繋がりました!』
♦︎
巨大スクリーンいっぱいに映し出されるのは――
悠人と十文字の激突。
火花と雷光が交錯し、森が抉れ、地面が砕ける。
その一挙手一投足に、実況席は悲鳴にも似た歓声を上げていた。
『す、すごい! これはすごい!』
『まさに怪物同士の激突だぁぁッ!!』
煽るような実況に呼応し、観客席が揺れる。
立ち上がる者。
拳を突き上げる者。
興奮に顔を歪め、叫ぶ者。
――誰一人として、これが“仕組まれた地獄”だとは気づかない。
その様子を、ドーム上層から見下ろしながら――
ジョイは、恍惚とした笑みを浮かべていた。
「……最高だ」
囁くような声。
「ほら、見てごらん」
「みんな、こんなにも喜んでいる」
スクリーンの向こうで命を削る二人を、
まるで芸術品でも眺めるかのように、うっとりと見つめる。
「人の感情って、本当に美しい、恐怖も、怒りも、興奮も……だが喜びが一番の最高のスパイスだ」
そして、ふっと肩を竦める。
「だからこそ――彼らを殺し合わせるなんて、勿体なさすぎる」
口元の笑みが、歪んだ。
「いっそ……僕の手で、殺してあげたいくらいだ」
その言葉に、隣に控えていた鈴木が、わずかに身を固くする。
「……第二フェーズは、いつ実行しますか?」
鈴木が淡々とした問いた。
「作戦変更」
そして、楽しげに言い放つ。
「――今だ」
次の瞬間。
ジョイは一歩前へ出ると、
ドーム最上部の縁に立ち――
まるで舞台に立つ役者のように、
両腕を大きく広げた。
「さあ……幕を上げようか」
ジョイは、両腕を広げたまま宣言する。
「システムコード:《ラスト・カーテン》」
その瞬間。
ドーム天井部から、無数の微細な光粒子が降り注いだ。
雪のように、羽毛のように、静かで美しい――だが、致命的な光。
観客たちは気づかない。
いや、気づくという思考そのものが、すでに奪われていた。
光が肌に触れた瞬間――
歓声は一瞬だけ大きくなり、次いで、奇妙な静寂へと変わる。
瞳は開いたまま。
表情は笑顔のまま。
だが、その奥にあったはずの“何か”が、ごっそりと抜け落ちた。
「……ほら」
ジョイは、満足そうに呟く。
「観戦中の記憶は、すべて消去、恐怖も、違和感も、疑問も――何も残らない」
観客席をゆっくりと見渡しながら、続ける。
「残るのは、ただ一つ理由のない高揚中身のない興奮」
口角が、さらに吊り上がった。
「――感情だけを与えられた、人形の完成だ」
鈴木は、喉を小さく鳴らした。
言葉は出ない。
いや――出せなかった。
止められる段階は、とっくに過ぎている。
それを、誰よりも自分自身が理解していた。
そんな鈴木の背に、ジョイは囁くように言葉を落とす。
「……君も、生まれ変わりたいんだろう?」
ゆっくりと、振り返る。
「優秀な人間が、憎いだろ?」
その一言が、鈴木の胸の奥を正確に抉った。
ジョイは続ける。
「努力もせずに称賛される奴ら、最初から“選ばれている”人間たち」
口元に、柔らかな笑み。
「今回の学園祭――君が、主人公なんだよ」
その瞬間。
鈴木の瞳が、大きく揺れた。
「……っ」
握りしめた拳が、わずかに震える。
そして――
堰を切ったように、吐き出した。
「……そうだ」
声は、低く、歪んでいた。
「全部……奴らが悪い、俺を馬鹿にして、見下してきた才能がないって、笑ってきた――」
鈴木の呼吸が荒くなる。
「……あいつらが、悪いんだ」
ジョイは、満足そうに頷いた。
「うんとても、いい顔だ」
ドームの外では、
意味を失った歓声が、今も鳴り続けている。
そして――学園祭は、完全に“別の顔”を見せ始めていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!