高級住宅街の、中でも1等地だと耳にする場所にあるタワーマンション。そんな身分違いの建物の前で、俺は一言「まじか。」と呟いた。
事の発端は某日。裏社会の人間たち御用達の暗殺組織に一件の依頼が舞い込んだのだ。
「とある人間を殺してほしい。」
……とまぁ組織内ではありきたりな依頼。政界の御えらいさんからの邪魔者を殺してほしいというものだったり、有名芸能人からの元愛人を始末してほしいというものだったり、とにかく一般人には関係のない範囲の依頼が組織の中では常套句だった。
だが今回の件では気になる点が1つだけある。それは、殺してほしい相手が”ただの高校生”という点だ。さっき言った通りの金や地位のある人たちによる潰し合いというわけではないらしい。
詳しいことは依頼主が直接話すというからこれ以上の情報はない。今回俺がこの件を任されたのは、ただ年齢が若いからというだけだった。組織の端くれである俺は、もちろんYESの返答しか選択できない。
緊張しながらエントランスへ入ると既に待っていたのか依頼主の男性がいた。少しふくよかで人柄の良さそうな男性。本人確認をしてから俺はその人の後ろをついて行った。
部屋に着くまでの長い長いエレベーターの中で今回の依頼のことを考える。ただの高校生を殺してほしいなんて依頼、こんなプロの組織じゃなくても良くないか?金を積まれれば引き受ける人間なんて探せばいくらでも居るだろうに。
それとも簡単に殺せない理由があるのだろうか。そうだな例えば……援交相手の女子高生が相手とか?おじさんが未成年に「このことをバラすぞ!」とか言って脅されてるとかありがちだよな。
そんな勝手な予想を脳内で繰り広げている内にエレベーターが開いた。角の部屋に案内されてふわふわすぎて逆に居心地の悪いソファーに腰掛けると、男性は真剣な面持ちで本題に入り始める。
「これが今回狙ってほしい相手なんですけど……。」
ぴらりと紙を渡される。そこには簡潔にまとめられた情報といくつかの写真が貼ってあった。えーなになに……
氏名:星導 ショウ[ほしるべ しょう]
所属:〇〇高校3年A組
年齢:18
家族構成:父、母(両親共に現在日本にいるか未詳)
住所………………
と、こんな具合に色々書いてあった。写真に載っている顔は……まぁ素人目にみても整ってるなと思う。明らかに隠し撮りにも関わらず、全て雑誌の表紙のように決まってるのがすごい。
「ありがとう…ございます。早速なんすけど日程とかやり方とかはこちらで決めてしまっていいでッ…、よろしいか、ですか?」
俺のボロボロの敬語を気にもとめないほど、男性は思い悩んでいるようだった。
「日程ですが……何年後まで依頼できますか?」
「…………へっ?」
予想外の返しに間抜けな声が漏れた。今すぐ!……とか言われたほうがまだ説得力がある。何年後ってなに…?と混乱している俺に、男性は焦ったように言葉を継ぎ足した。
「すみません抽象的すぎますよね……それでは…来年の3月はどうでしょう?」
「来年……まぁそれくらいならなんとか…?」
こんな長期間の依頼はなかなかない。殺す相手といい内容と言いイレギュラーばっかりだ。
「やり方はその……できるだけ精神的に、心に苦痛を与えてから殺してほしいのですが……。」
お、やっといつものっぽい依頼がきた。あまり受けたことない類の依頼だが、できないことではないだろう。……てかこの星導ってやつ、精神的に追い詰める殺しを依頼されるほど憎まれるなんて一体何したんだよ。
「了解…です。最後に質問なんすけど、なんでコイツを殺したいん…、ですか?」
この質問は完全に俺の興味だ。本来暗殺者なら余計なことに関心を向けず心を無にするべきだろうが、俺は生憎そこまで冷徹になれるタチじゃない。男性は少し目を彷徨わせた後におずおずと話し始める。
「娘が……。」
なるほど娘か。よし、今度こそ予想しよう……娘がこいつに妊娠させられたとか?もしくは……酷くイジメられたとかか?
「娘が……彼にフラれまして。」
…………は?そんなことで?
というのが口から飛び出そうになったが、寸前でぎりぎりなんとか止まった。俺の首ごと飛ぶとこだったな。危ない危ない。
「娘はそれから寝込んでしまい……。」
あ!それで自ら命を絶ってしまったとか?
「今は元気に学校へ通っていますが、あの時の娘の落ち込んだ様子と言ったら!!!父親としてどうしても許せなくて…!」
「は、へぇー……それは気の毒、ッスネー。」
どちらかといえば星導ショウの方が気の毒だけどな、と己の発言にツッコミたくなる気持ちを抑える。この人見た目以上にやばい奴かもしれない。
「娘に聞いたのですが、彼は自分のファンクラブの人を取っ替え引っ替えしてると…!娘もきっと弄ばれたんです!」
あーまぁ確かにそれは良くないと言えば良くない。それでもじゃあ殺そう!とはならないだろ。金持ちの思考こえー。……というか星導ってファンクラブあるんだ。でもあの顔面ならあってもおかしくない…か?
「……すみません、思い出して取り乱してしまいました。依頼の確認なのですが、あなたが高校に潜入して彼に近づく……ということで大丈夫なんですよね?」
「はい。………え!?いや、そうなんすか!?」
男性は「組織の人からの了承は得ている」と言った。その様子にウソは見られなくて、あぁ俺は組織に嵌められたんだな…と気づく。思えば年齢が若いからなんて理由でこの件を押し付けられたことからおかしかったんだ。
「いや、すみません……ちょっとッそれはぁ……。」
正直言ってこんな面倒な依頼今すぐ断りたい。でも既に組織に話はいってるというし…どうしようか。
「あ!それで今回の依頼の報酬なのですが……」
またぴらりと1枚の紙を渡された。えーっと0が1つ2つ3つ…………9つ……?
何度0を確認しても変わらない目を疑うような金額。今まで俺が受けた依頼の中でも、いや下手したら組織が請け負った依頼の中でもトップレベル……?
「……この件、承りました!!」
こうして俺の高校潜入☆暗殺大作戦(これは男性が考えたのであって断じて俺が言ったわけではない)が幕を上げたのだった。
スクロールありがとうございました。
しばらくはこの学パロ小説と「恋は盲目」を交互に投稿していく感じになると思います。楽しんでいただければ嬉しいです!
コメント
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もう…本当に…貴方が描くお話は全て神作なんですよ… 新作ありがとうございます!!!!!!!!