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それからは大変だった。
私はクラウス様の所作に見とれてしまって、全然箸が進まない。クラウス様もそれを不思議に思って、私を心配してくれた。
申し訳なさすぎるし、情けなさすぎるので、私は一生懸命食事をしながら、彼との会話を楽しむ。
……私はこんなに彼のことが好きだけど、実のところ、彼の個人的なことについてはほとんど知らない。しょうがないじゃない。だって彼の情報は、ゲーム中でほぼ明かされなかったんだもの。
知っていると言えば、彼はクラマンテ王国の第二王子で、このゲームの攻略対象、第三王子セルウスの兄で、見てのとおりふんわりした雰囲気の方で、自分のことは王の器でないと考えている――
知っているのは、本当にこれくらいだ。だからここでの生活で、もっと彼のことが知れれば嬉しいと思うし、ゲームでは知れなかった一面を知りたいとも思う。
「……あれから、何か困ったことはない? 授業とかは、大丈夫だった?」
「はい。今まで授業で習ったことは全然覚えてないんですけど、今ある知識でなんとかなりそうです」
「そっか、良かった……。もし僕に手伝えることがあったら、何でも遠慮なく言ってね?」
クラウス様がその端整な顔立ちで、柔らかく微笑んで……ううっ、心臓に悪い。でも、これにも慣れていかないと……。
なんでも遠慮なく、という言葉を頭の中で反芻して、私は悩みの種を打ち明けることにした。
「授業とは、ちょっと違うんですけど……。相談してもいいですか?」
「うん、何かな?」
彼が少し首を傾げると、髪が一房、垂れ下がった。そのなんてことないはずの動作にドキッとしながら、私は藁にもすがる思いで胸のうちを彼に伝える。
「友達に、恋愛で悩んでいる子がいて。その子は初めての恋愛で、怖がって、及び腰になってるみたいで……」
「でも私は、その子に恋愛を楽しんでほしいんです。けどそんな子に、『恋愛してみようよ!』ってアドバイスするのも、ちょっと違うかなと思っていて……」
私、どうすればいいですかね?と言葉を結ぶ。
クラウス様はずっと穏やかな表情のまま、真剣に話を聞いてくれて。そしてそこから顎に手を当てると、ふむと考え込む。
悩む姿も様になっていて素敵……と思いながら、私はナイフとフォークを動かす手を止めないように努めた。
すぐにクラウス様は何か思い付いた様子で、顔を上げた。そのまま人差し指を立てると、提案するように軽く手を前に出す。
「これは思い付きでしかないんだけど。ソフィアが恋愛を楽しんでいるところを、その子に見せる……というのはどうだろう」
「これなら、自然な形でソフィアの気持ちと、恋愛の楽しさを伝えられるんじゃないかな?」
「……とは言っても、これはまずソフィアが恋愛をしていないと、成り立たない方法だけれどね」
「その前提は確かに気になりますけど。方法自体は、すごくありな気がしてます」
「ということは、ソフィアは今、特に恋愛をしているわけではないんだね?」
「まあ、はい……」
クラウス様のことは本当に心の底から大好きだけど、この気持ちは恋愛とは違う気がするし。
今の私の気持ちをクラウス様に打ち明けても、彼を混乱させてしまうだけだろう。
「それなら――僕と、恋愛してみない?」
紫陽花
#婚約破棄