猫には9つの命がある
そんな迷信が存在している。
猫は気分屋だが執念深い。
嫌なことは嫌とはっきりしている。
そして決して忘れることはない。
「絶対に帰ってくるからね。」
絶対になんて言葉もう信じられない。
「安心して良い子で待っててね。」
僕はご主人様の言う良い子じゃなくても
悪い子になってでもご主人様と居たかった。
「そんな悲しそうな顔しないでよ。」
悲しそうな顔をしてたのは
僕じゃなくてご主人様の方だったのに。
一人ぼっちだった僕に
優しく手を差し伸べてくれたのは
ご主人様だけだったのに…。
『ご主人様なんて大っ嫌いだ!!』
ポツポツと雨が地面や草木を濡らす。
雨で濡れた地面は
少しずつコンクリートの色を変えながら
大きな水たまりを作り
草木達は水滴の重さに耐えられず
お辞儀をしてしまう。
そして時々街ゆく人々の傘が
ひっくりかえってしまうほど強い風が吹く。
僕は猫。名前はまだない。
僕の9回目の人生が始まろうと
していたやさき僕は薄暗い路地裏に置かれた
ダンボールの中で暖をとっていた。
僕は捨てられたのだ。
生まれてから数週間がたった今
僕は天敵だらけの外の世界へ
追い出されてしまった。
歩くこともままならない僕は
このまま一人ぼっちだと生きていけない。
だがさっき降り始めた雨のせいで
体が濡れ体温が下がり
追い打ちをかけるかのように
風が一層強く吹く。
最悪なことにここは
路地裏というだけあり人の気配は全くない。
どこかの誰かに届いてくれと
僕は今出せる最大限の声で鳴いた。
薄れゆく意識の中で
とある日のことを思い出した。
ー猫の僕と嫌われ者の魔女ー
僕が初めてであったご主人様は
村で嫌われていた魔女だった。
黒猫だった僕は
不幸を呼ぶ猫だと
異様な目で見られずっと一人ぼっちだった。
生まれてからずっと
黒という色のせいでたくさんの人から
距離を置かれ嫌われてきた。
そんな僕のことを
唯一抱きしめてくれたのが
魔女であるご主人様だった。
ご主人様も僕と同じ一人ぼっちで
誰からも愛されることはなかった。
僕はその時初めて人間の暖かさを知った。
愛されているということを知った。
モノクロだった僕の世界が
鮮やかに色づき出した。
ずっとご主人様と一緒に居たい。
居たかったのに…。
僕の願いは叶わなかった。
しばらくすると
村で原因不明の病にかかった村人が現れた。
原因不明おまけに治療法もわからない。
治すことの出来ない不治の病だったのだ。
たちまちその病は村全体に広がり
たくさんの死者を出した。
僕とご主人様は村から離れた
場所で暮らしていたため
病にかかることなく生活できていた。
だがいつになっても収まる気配のない病に
村人達はとうとう僕達に標的を向けた。
嫌われ者だった僕達の存在なんて
どうでもよかったのだ。
そうどうでもよかったのだ。
とある雲一つない晴天の日。
僕は散歩をしに家を出発した。
いつもの道をいつも通り
歩いていたのだが胸騒ぎがしたため
僕は来た道を急いで引き返した。
言葉で表すのは到底出来そうにない
初めての感情だった。
開けっぱなしのドア。
荒らされた室内。
いつもはおかえりと言ってくれる
ご主人様はどこを探しても見当たらない。
ご主人様が居ない。
考えるよりも先に体が動いた。
僕は息つく間もなく
一直線に村へ向かった。
村に入ると
目を疑いたくなる光景が広がっていた。
村の真ん中の広場には
真っ白な服を着たご主人様が
木造の十字架に張り付けられていた。
少し前にご主人様の書斎で見た
本を思い出した。
これは魔女狩りと呼ばれるものだ。
僕は居ても立っても居られず
飛び出そうとしたが体が動かなかった。
足がすくんでしまい歩くこともできず
ただただ見ていることしかできなかった。
ご主人様が大変だっていうのに
僕は見てるだけ。
僕は弱虫だ。
僕は意気地なしだ。
そんなの僕自身が一番分かっている。
こうしている間に
ご主人様の足元にある木片へ向かって
火が投げ込まれた。
火は順調に木片から木片へ燃え移り
黒い煙が天に登っていく。
人間は愚かだ。
罪のない人間を人前でこんな目に合わせ
これでもう大丈夫
なんて綺麗事を並べる。
この世に悪魔が存在するならば
それは人間だろう。
うつむいていたご主人様が顔をあげる。
その時ご主人様と目があった気がした。
遠くから見ていた僕を見つけたのか
ほほえみ口をパクパク動かした。
み
な
い
で
これがご主人様が最後に
僕に伝えた言葉だった。
痛くて熱くて苦しくて辛いはずなのに
ほほえんで僕に伝えてくれた。
きっとご主人様は苦しんでいる自分の姿を
僕に見せたくなかったんだろう。
涙が溢れる。
本当に人間は
自分勝手で傲慢で偽善者だ。
いつの間にか歩けるようになっていた
僕はご主人様の言う通り
急いでこの場をあとにした。
もう人間なんて信じられない。
ご主人様は美しい
エリカの花のような優しい人だった。
コメント
4件
だいずたんの小説が1番好き🥲💗 こういう世界観がどタイプだから見てて面白いし考えれるような話ばっかで、つまり最高🥹 続きが楽しみ‼️頑張ってね~😭💗💗💗
だいずさんの語彙力がすごすぎて..😭✨️世界に入り込めるというか..! 世界観大好きです😖💕 続き楽しみにしてます!!テノコンファイトです(〃 'д'〃)و