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神になると決めると早速天界に来た。そしてイザナギさんと仲の良い釈迦さんに会い、初めて綿飴という物を食べた。美味しかった。
「さて、オレはこれからちょっとした仕事があるから、そろそろ失礼しようかな〜」
釈迦さんは軽い口調で言った。
「おや、釈迦が仕事だなんて珍しいね。どんな仕事なんだい?」
「それは教えなーい♪」
この会話からして、釈迦さんは滅多に仕事をしないのかな?
「そうか…引き留めてしまってすまなかったね」
「ううん、気にしないで〜。それじゃ!」
そう言いながら、釈迦さんは私の目の前まで来てしゃがみ込んだ。
「次はもっと美味しい物持ってくるね。またね、琳寧チャン!元気にしててね〜」
と言いながら私の頭を撫でる。すごく軽い口調で、柔らかい雰囲気だけど…なんだろう。目は少し、ほんの少しだけ怖い気が…しなくもない。
そして釈迦さんは連れていた天使たちと共に歩いて行った。
「変なヒトではあるけど、悪いヒトではないでしょ?」
イザナギさんが話しかける。
「はい。イメージとは少し違いましたけど、すごく楽しそうなヒトでした」
「でしょ〜?どう?仲良くなれそう?」
仲良くってなんだろう。私は全然外に出させてもらえなかった。だから友達とかは出来たことがない。そもそも、人と話したことがあまりない。でも。
「はい!」
いい返事を返せた。
商店街をしばらく歩いた。ヒトは多いけど、みんな天使だから、釈迦さん以外の神様は見てない。通る道の近くにいる天使はみんな一礼をする。イザナギさんの力が大きいせいだろう。
「さて、着いたよ!ここが私の家。どうだい?大きいだろ?」
確かに、ここが家と言われても信じられないくらい大きい。その建物の周りには魚が泳ぐ水堀があって、橋が一本ある。その橋の先にはお城並みに大きな門と塀があって、その塀から覗かせる本殿は三階建くらいかな。和風の豪邸が見える。その建物に呆気にとられていると、
「そんなにまじまじ見られると少し恥ずかしいよ…ほら、早く入っておいで〜」
そう言われてやっとで我に帰った。
「これからは、ここを君の新しい家だと思ってくれて構わないよ」
ここが…私の家…。
大きな門を潜ると、天使たちが一堂に礼をする。この光景はいつ見てもすごい。
「これから琳寧ちゃんが使う部屋に案内するね。こっちおいで」
そう言って、イザナギさんは私に手を差し伸べる。私はその手を取ろうとした時。
大きな電気が流れたような痛みと共に、私の意識は薄れていった。
私と琳寧ちゃんの手が触れた時、バチッという音が鳴ったと思ったら、琳寧ちゃんが倒れた。
「琳寧ちゃん?琳寧ちゃん!!」
何度も名前を呼びかけても反応がない。意識がない。何が起きたのかわからない。すると、いつの間にか凛音がいた。最初は酷く驚いた顔をしていたけど、数秒後にはいつもの調子に戻った。
「おいイザナギ。琳寧の部屋はどこだ?俺が運ぶ。案内しろ」
そう言いながら琳寧ちゃんを抱き上げる。
「あ、あぁ。こっちだ」
部屋に着き、凛音は琳寧ちゃんを寝台に下ろした。
「一体何があったんだ?」
「俺も正確なことは知らん。でも…どうせ急に環境が変わったせいで疲れたんだろ」
とだけ言って、こいつははぐらかす。それが嘘だって事も、お前が本当の理由を知ってるのもなんとなく分かるよ。でも、何かしら理由があるんだろう。深追いはしないでおくか。
「取り敢えず今は休ませてやってくれ」
「はいはい。言われなくてもそうするよ」
急に意識が遠くなったと思ったら、私は何も見えない暗い場所にいた。ここ…どこ?
「おや?珍しいのぉ。こんなところに来客だなんて」
驚いた。ヒトの気配なんて全く感じなかったのに、急にどこからか聞き覚えのある女の人の声が聞こえた。
「お主は…あぁそうか。彼奴の…」
「すみません、貴方は一体…?」
私はそのヒトにそう尋ねた。少し間が空いてから、
「それは秘密じゃ。今はまだ知られとうないんじゃ」
なるほど。何か大事な理由がありそうだ。
「それよりお主、ここが何処か分かっておるのか?」
「いいえ…気付いたらここにいて。ここについて教えてくれませんか? 」
「嫌じゃ」
え、即答…?
「だって、言ったら妾の正体に勘付いてしまうかもじゃろ?」
そんなに知られたくないんだ…。
「帰り方は知っておるか?」
「いいえ。それもわからないんです…」
「なるほど…お主、本当に迷子なんじゃな」
ん?これ、もしかして揶揄われてる?
「ま、ここで会ったのも何かの縁じゃ。雑談でもしようではないか」
雑談…。このヒトもここから出る方法を知らないのか、それとも…。まぁ、暇なのには変わりないから、無言で過ごすよりはいい。
「そうだな…妾の悩みでも聞いてはくれぬか?」
「私で相手になれるのなら、いくらでも聞きますよ」
「そう謙遜するでない」
と笑いかけながら彼女は言う。
「妾には夫がおるんじゃがな、今喧嘩中なんじゃ」
「喧嘩…ですか」
思っていたより大きな悩みだった。ほんとに私が相談相手でいいのかな。
「妾は昔、大きな過ちを犯してしまったんじゃ。そのせいで妾の顔は見るに耐えん状態になってしまっての」
「お主、もし大切な人に自分の酷い顔を見られたらどうする?」
どうするか?私の大切な人…凛音。凛音に見られたら…。どうしよう。何も答えられない。
「…おっと、すまんな。少し難しい質問をしてしまったようじゃの。お主のことは何でも知っておる。無理せずとも良いぞ」
私のことを何でも知ってる?一体どうして?
聞こうと思ったけど、女の人は咳払いをしてすぐに話し始める。
「さて、話は戻るが…。妾は夫にその顔を見られたくなかったから、部屋に入ってくるなと言ったんじゃ」
「しかし、夫はその約束を破り、妾の顔を見た。妾は夫が約束を破った事に怒り、悲しんだんじゃ」
なるほど。この人は酷い顔を見られたことより、約束を守ってくれなかった事が嫌だったのか。
「貴方は旦那さんと仲直りをしたいんですか?」
「あぁ。勿論じゃ」
即答だった。
「しかし…怒りに任せて、少々言ってはいけないことも言ってしまってな…。彼方は許してくれぬかもしれん」
と、悲しそうに笑いながら彼女はそう言う。
どうしよう。こうゆう時、なんて声をかければいいのか分からない。でも…
「きっと大丈夫ですよ」
自然とその言葉が出てきた。
「え…?」
「あ、えっと…私はあなたの事をあまり知りません。でも、あなたが旦那さんをそこまで想っているのなら、旦那さんも同じくらい想ってるんじゃないか〜っと…」
数秒間、沈黙が続く。何か言わなきゃ。でも何を…
「っぷ」
ん?
「あっはははは!」
女の人は笑い出す。
「お主、面白い事を言うんじゃな!じゃが、確かにそうゆう考えも大事じゃな!礼を言うぞ、幼き子」
あれ、私、意味わからない事言っただけなはずなのに…褒められてる?
「やっぱり似てるな…」
「ん?どうした?」
あ、いけない。声に出てしまっていた。
「えっと…その…。おかしな事なんですけど、あなたと、死んだはずの私の母が、少し似ているなぁと思って…」
きっと何言ってるんだって思われるだろう。でも、返ってきた言葉は違った。
「なぜそう思う?」
その声は真剣で、顔は見えないけど、私を指すようなまっすぐな視線を感じる。
「最初に声を聞いた時、母にそっくりな声でした。でも、口調が違ったので別人ということは分かりました」
「後は…性格ですかね」
「性格じゃと?」
「母は私が4歳くらいの時に死んでしまったので、記憶は少しずつ薄れてきているんですけどね。約束を破った事に不満を感じたり、気遣いができたり、自分の非を素直に認めたり…。母もそんな人だったなと思い出せる程でした」
私がそう答えると、彼女は震える声で
「お主を抱きしめても良いか?」
そう聞いてきた。ダメとも言えないので、いいですよとだけ答えた。
彼女の体温は冷たかったけど、あたたかくなる抱擁だった。