コユキの背に隠れていたサタナキアがそおっと忍び足で距離を取ろうとしていると、合体した魔神王、コユキ善悪から声が響く。
「「おいサタン、お前もちょろちょろするな! 今これからの事を説明してやるから! ほれ、貴様等もだ! 全員俺ちゃんの前に集まって座れ! 仲良くしろよ!」」
『は、ははっ!』
モノホンのルキフェルの迫力の前には誰一人、いや一柱も言い返す事が出来ないまま、大人しくコユキ善悪の前に膝を付いて控えるのであった。
アスタロトとバアルは手招きされて、否応無く二人の左右に並び立たされ、居心地が悪そうな表情を浮かべていた。
傅(かしづ)いた悪魔達の後方ではトシ子やリエ、リョウコに加えてオンドレとバックル、スプラタマンユの妹弟(きょうだい)達に必死に宥(なだ)められたオルクスやスカンダ、ガネーシャ兄弟、カルキノスとフンババの姿も見えた。
四柱のレグバ、ラダ達運命神は裏庭の四方に位置取り、悪魔達以上にガタガタプルプル体を震わせていた、頼り甲斐が無いこと著しい有様である。
一頻り(ひとしきり)全体を見渡したコユキ善悪は目の前の悪魔達に向けて話し始める。
「「えー、この度、朕はそこに控える弟のサタン、サタナキアに自分のアートマンを受け渡す事に決めたのである!」」
ざわっ!
一斉にざわつく悪魔達の中で一番端に座っていたサタナキアがパァッと表情を明るくさせて顔を上げる。
コユキ善悪は言葉を続けた。
「「無論、貴様等が言って居った様に単純に喰らわせる、とかそう言う事ではなくてだな、えっとぉ、ロット? 具体的にはどんな風にする予定だったのだ? 身共(みども)、聞いて無かったよな?」」
裏庭の一角からロットが震える声で答える。
「あ、ああ、我々四柱のスキルを合わせてな、そなたからコユキと善悪の存在を消すんだ…… 二人の存在を無かった事として純粋なルキフェルのアートマンだけにしてサタナキアに融合させるんだ…… きょ、今日この時を分かれ道としてコユキと善悪の存在を覆い隠す、静寂の内にな…… これに立ち会った者の記憶からも二人の存在も、この儀式自体の記憶も無かった事になるだろう、故に秘匿、我々四柱が『静寂と秘匿を持って分かれ道を覆い隠す』と呼ばれている所以(ゆえん)だ…… 分かったか?」
「「ふむ…… だそうだ、皆の者、よもやボックンの決定に異を唱える者は居ないであろうな? この上更に文句があるとか抜かしたらオリャア許さないけど? お?」」
『お心のままに』
「「良し、んじゃあサタン! 小生の隣に来るが良い」」
声を掛けられたサタナキアはおずおずとした態度ながら、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべてコユキ善悪へと歩み寄るのであった。
隣に並んだサタナキアに揃った声が届く。
「「サタンよ、漏れ(モレ)を融合したそなたは役目を全うしなければならん! 聞いているかも知れんが今、地球全体が未曾有(みぞう)の危機を迎えている! そなたはアスタやバアルと共に配下の悪魔達を率い、人間や魔獣たちと力を合わせ地球中の生きとし生ける全ての命を守る役を追うのだぞ? いいか、永遠の如き長く苦しい任務になるであろうが決して途中で投げ出してはならん! 気楽に日々を過ごす時は終わりを迎えたのだ、良いか、期待しているぞ、弟よ! オラの代わりを務め上げよ! な?」」
ばっ、と音がしそうな動作でコユキ善悪を振り返ったサタナキアは次の瞬間走り出しながら言った。
「か、代わり? ま、又か、もう、もうっ、代わりは嫌だっ! 真っ平ごめんだぁー!」
「「ふんっ! 想像していた通りだ! おいっストラス止めよ! 殺すなよ」」
「ははっ」
先程までやけに足が長い梟(ふくろう)の姿で傅(かしづ)いていた空の魔王ストラスは、ゴイサギに姿を変えて飛び立つと、背を見せて逃げていたサタナキアの足に縋り付き、あれよあれよと言う間に鋭い嘴(くちばし)で両足を食い千切ったのである。
そして痛みに唸り声を上げているサタナキアを両足の鉤爪(かぎづめ)で乱暴に掴みあげ、バサバサと羽音を響かせながらコユキ善悪の前まで運んで来た。
コユキと善悪は同時にニタァっとした表情を浮かべて言う。
「「何故逃げる? そなたの願った魔神王になれるのではないか…… 永遠の任務位何でも無いだろうに? わしゃあ不思議だぞ? もう逃げるなよ? そうだ、念の為に手足と目を潰して置くか、後でラマシュトゥにでも治して貰えばよかろう? そうだ、そうしよう、なははは」」
「ひっ!」
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