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家の中は、
静かだった。
時計の音。
冷蔵庫の低い唸り。
それだけ。
スマホを置いて、
しばらく
触らなかった。
画面を伏せたまま。
友人の顔が、
浮かぶ。
カフェでの
あの一瞬。
目が合って、
息を吸っただけの合図。
――分かってた。
それだけで、
胸の奥が
少しだけ
緩んだ。
外に出たい。
そう思った。
逃げる、
じゃない。
助けて、
でもない。
ただ、
家の外の空気を
吸いたかった。
玄関で
靴を履く。
鍵を取る。
そのとき、
スマホが震えた。
画面は、
見ない。
見なかった。
ドアノブに
手をかける。
冷たい。
回そうとして、
止まる。
――今、
出ていいんだっけ。
そんな言葉が、
頭に浮かんだ。
理由は、
ない。
確認する相手も、
いない。
それでも、
足が
前に出ない。
ベランダの窓から、
外を見る。
夕方の光。
人の声。
車の音。
普通の世界。
そこに、
自分が
戻れる気がした。
一歩。
玄関を
開ける。
その瞬間、
背中で
スマホが鳴った。
短い音。
メッセージ。
画面を、
見てしまう。
「どこ、行くの?」
時間は、
書いていない。
理由も、
ない。
ただの
確認みたいな
文字。
私は、
外に出ていない。
まだ。
鍵も、
閉めていない。
それなのに。
返事は、
打たなかった。
スタンプも、
送らない。
画面を
閉じる。
玄関の
外の空気が、
ほんの少し
入ってくる。
私は、
ドアを閉めた。
ゆっくり。
音を
立てないように。
家の中に
戻る。
鍵を
かける。
カチ。
その音で、
はっきり
わかった。
私は、
外に
出ようとしただけ。
それだけで、
もう
見つかっていた。