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夜の研究小屋に静けさが降りる。 実験の片づけが終わり、二人きりになった室内は、やけに心臓の音が響いてくるようで。
「なあ、右京……今日はもう、帰らないよな?」
七海龍水の低くて落ち着いた声が、耳に近すぎて右京はびくりと肩をすくめた。
「……君、さっきまで黙々と顕微鏡を覗いてたのに、急に……」
ほんのり赤く染まった頬を隠すように、右京は手で口元を覆った。
けれどその手も、すぐに龍水にとられて、優しくベッドの上に引き寄せられる。
「貴様が悪いんだ。そんな顔、俺にだけ見せておいて……放っておけるわけないだろう?」
「ふふ、やっぱり……君はまだ、子どもみたいだな……強引で……」
「強引にしてほしいのか?」
「ちが……!」
ほんの冗談で返したつもりだったのに、龍水の顔が思ったよりも近くて、
その瞳の奥に宿る熱が、あまりにも真剣で。
「右京。触れていいか?」
その問いは、意外なほど真摯だった。
焦るわけでも、ふざけるでもなく、本当に確かめるように。
「……うん。……お願いするよ」
ぎこちないけど、拒まないその返事に、龍水の手がそっと右京の背中を撫でる。
指先は荒くて、でも優しくて――どこか震えていたのは、どちらだったか。
「緊張してるのは……君のほうだね」
「……うるさい」
唇が触れる。
それは最初、ただの挨拶のようなキスだったのに、何度も重なるうちに、熱を帯びていった。
触れられるたび、知らない感覚が生まれる。
唇も、指先も、まるで言葉の代わりみたいに、右京の肌の上を滑っていく。
「……っ、や……くすぐったい……」
「可愛いな、貴様」
そんなことを平然と言ってのける龍水に、右京は枕を叩いた。
けれど次の瞬間には、声も出せなくなっていた。
「……っん、……りゅ、うすい……」
「安心しろ、怖くない。……ちゃんと、するから」
その約束通り、龍水の手は一度も乱暴じゃなかった。
でも、やっぱり身体が火照って、涙が滲むくらい――熱かった。
最後のひととき、指を絡めながら、右京は微かに笑った。
「……ふふ。君に、はじめてをあげるなんて……僕もちょっと、どうかしてるね」
「違うな。俺が、貴様じゃなきゃ嫌だったんだ」
「……もう、君ってば……ほんと、子どもなんだから……」
そう呟いた右京の頬は、夕焼けみたいに染まっていた。