りぬ/甘め(当社比)
「…かわいらしい」
あ、また。
聖母のような微笑みを浮かべて、大して面白くもなかろうに随分と長い時間、己の頭を撫でている御人を見上げた。影がかかるほど長い睫毛、端麗な切れ長の目尻。その奥に隠されたラベンダー色の瞳は、人間とは違う。なぜか異常に惹かれて、欲しくなる。手に入れたくなる。危ない、いろ。
そんなはるか歳上の恋人様はよく”そう”言った。
「君は可愛らしい」「ふふ、可愛いことを」「可愛い子よ、」
”可愛い”、と。
どちらかと言えば自身は恐れ戦かれ、嫌われるものだと言うのに。彼は心の底からそう言ってくれるのだ。人ならざる彼の感性は人間であるリオセスリには理解の難しいものだった。
「…あんたの方が”かわいい”だろう」
そう呟いて、先程までの熱でやわらかく蕩けた目尻に手を寄せてやる。手のひらに伝わるひんやりとした彼の低い温度が心地よかった。存外彼もイイのか、すり、とまるで猫のように頬を擦り寄せてきた。
そういうところ、本当に可愛いな。と、常々思う。
あんたの方が、と告げられたヌヴィレットは少しの間沈黙していた。が、ふとリオセスリの頬へ両手を寄せた。そして優しく顔を包み込むようにしてから、じーっ、と海を詰め込んだかのような彼の美しい瞳を見つめ、こう言った。
「君は、愛しくて可愛い子だ。いつも、隈が出来るほど頑張って偉いな。…少しは休んでも構わないのに。健気なきみは、かわいいよ。とても、かわいい。」
そう甘ーい声で彼に呟き、ちゅ、と唇にキスを落とした。
この人は本当に、男を煽る天才なんだと思う。こんなことされて理性が保てるわけないだろ、さっきまでも危うかったのに。あんなえろかわいい顔で口説かれちゃ、マジで無理だな。
瞳孔が黒く染ったリオセスリにクエスチョンマークを浮かべていた彼の体は、突然ベッドに縫い付けられた。
「……っ…?」
「…ありがとな、ヌヴィレットさん。じゃ、次は俺がアンタを甘やかす番だ。そうだろ……?
番犬のことを褒めてばかりで躾をしなかったこと、よーく後悔しておくんだな。」
今更遅いけど、とリオセスリは小声で呟く。まだ日付はまたいでない。明日の午前は2人とも休暇を取ってある。
多忙で滅多に会えない、そんなかわいい恋人がこのような好条件で何もしないわけがなく。