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#10
side wki
付き合ってから、もう1週間が経った。
周りから見れば、たぶん俺たちは今までと変わらないんだと思う。
放課後に一緒に帰って、昼休みに笑い合って、たまにふざけて肩をぶつけ合ったりする。
それでも俺にとっては、たったそれだけのことでも前よりずっと特別に感じるようになった。
でも、この1週間、ひとつだけ気になってることがあった。
それは_名前の呼び方だ。
付き合う前と変わらず、俺は「大森」って呼んでるし、大森も「若井」って呼んでくる。
本当は、恋人になったんだから、下の名前で呼びたいし、呼ばれたいって思ってた。
だけど、どうしても言えなかった。
恥ずかしいとかそういうのを超えて、なんか気持ちが追いつかないというか……怖い。
それでも、ずっと頭の片隅で思ってた。
_呼びたい。呼びたいし、呼ばれたい。
そんな気持ちが限界にきたのは、金曜の放課後だった。
教室で二人で帰り支度をしていて、机の上に置いたカバンを肩にかけながら、俺は大森の横顔を見つめた。
頬にかかった髪が少し揺れて、ああやっぱり好きだなって思ったら、胸の奥が強く鳴った。
wki「なあ、元貴」
言った瞬間、自分の声が少し震えてるのがわかった。
大森はピタッと動きを止めて、目を丸くして俺を見た。
omr「……え、今……?」
wki「元貴、って呼んでみた」
顔が熱くなるのがわかる。
でも言えたことが少し誇らしかった。
omr「……っ、な、なんだよ急に……」
wki「恋人なんだし、下の名前で呼んでもいいだろ?」
言いながら、心臓はバクバクしていた。
でも大森の反応は、想像以上に可愛くて、顔を真っ赤にして視線を泳がせてる。
wki「……じゃあ、元貴も……」
omr「え?」
wki「……滉斗、って……呼んでみて……?」
omr「…っ…ひ、…ひろ………」
大森の声に、俺は思わず息を呑んだ。
でもその声はどんどん小さくなって、最後には大森が首をすくめて目を伏せた。
omr「……やっぱ無理っ……」
wki「なんでだよ」
omr「……恥ずかしいし……声出ないし……」
俯いたまま言う大森の耳まで真っ赤になってるのを見て、俺は思わず笑ってしまった。
情けないとかじゃなくて、ただただ可愛くて仕方なかった。
wki「……無理しなくていいよ。でも、俺は呼ぶからな」
omr「……勝手にしろよ……」
ぶっきらぼうに言いながらも、大森の口元は少しだけ緩んでいた。
wki「元貴」
そうもう一度呼ぶと、大森は恥ずかしそうに肩をすくめて、でも今度は小さく笑った。
付き合って1週間しか経ってないけど、きっと俺たちはまだまだこれからなんだと思う。
呼び方一つでこんなにドキドキするなんて思わなかった。
でもそれも全部_元貴だから、嬉しかった。
side omr
あの日、若井に「元貴」って呼ばれて、頭の中が真っ白になった。
顔が熱くて、何も言えなくて、せっかくのチャンスなのに結局「滉斗」って呼べなかった。
家に帰ってからも、ずっとそのことばかり考えてた。
omr「……はあ……」
ベッドに寝転がって、天井を見ながら小さくため息をつく。
呼ばれた瞬間の胸の高鳴りが、まだ残ってる。
あいつ、本当に自然に「元貴」って呼ぶんだよな。
恥ずかしいのに、でも嬉しかった。
俺にも呼びたいって気持ちはある。
でも声に出そうとすると、喉の奥が詰まるみたいに言えなくなる。
恥ずかしさが先に立ってしまう。
_このままじゃ嫌だ。
ただでさえ、あいつはまっすぐで、俺はどこか弱い。
せめて一歩くらい、踏み出したいって思った。
そして週が明けて、月曜日の放課後。
二人で帰る準備をしているとき、若井が何気なく話しかけてくる。
心臓が速くなるのがわかった。
今日は……言うって決めてきたんだ。
omr「……あのさ」
wki「ん?」
若井がこっちを向く。
目が合った瞬間、息が詰まりそうになったけど、勇気を振り絞った。
omr「……滉斗……」
声は小さくて、情けないくらい震えてた。
でもちゃんと届いたみたいで、若井が目を丸くして、それからぱっと笑顔になる。
wki「……もう一回言って」
omr「……む、無理っ……!」
顔が一気に熱くなって、視線を逸らした。
心臓がうるさいくらい暴れてる。
wki「もっと呼んでよ、元貴」
wki「や、やだっ……!恥ずかしいんだよ!」
___
結局また、「若井」って呼んでしまった。
情けない。
でも若井は笑って「そっか」って言ってくれた。
少しだけ悔しい。
でも…ちょっと考えた。
たまに、不意打ちで「滉斗」って呼んだら、あいつ、どんな顔するんだろう。
きっと驚いて、でもすごく嬉しそうに笑うんだろうな。
想像しただけで、自分でもびっくりするくらい胸が温かくなる。
omr「……たまに、呼ぶくらいなら……いいかもな」
小さく呟いた言葉は、たぶん俺だけにしか聞こえなかった。
名前を呼ぶだけで、こんなに胸が高鳴るなんて思わなかった。
でもそれが嬉しい。
だって_あいつが好きだから。
次はいつ呼ぼうかな。
考えただけで、ちょっとだけ明日が楽しみになった。
付き合ってからの話がめっちゃ思い浮かぶ
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