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わんくっしょん
東京。
とあるホテルの最上階にあるレストランフロアの一角にある、日本料理店。
料亭の奥座敷に特別に作られたテーブル席。食事をしながら談笑する、二人の男。
「いけませんねぇ。『八雲一族』に先手を打たれましたか」
「『御屋敷』に『式』を乗り込ませたのも、恐らくは偶然ではないでしょう。そんな昔から布石を仕込んでくるとは…」
「それが彼女達の『能力』です。侮ってはいけません」
「話を伺った時は半信半疑でしたが、こうも見せつけられると、信じるしかないですね」
「監視のつもりで潜ったようですが、逆に監視されることになりますね。どうします? 一旦こちらに来ますか?」
「いや……。『八雲』との生活も、存外楽しいですよ。何より、たこ焼きが美味い」
「たこ焼きですか。私は食べたことないのですよね」
「今度作ってもらったらいかがですか?」
「そうですね。ですがその前に、彼にも会ってみたかった」
「学生の本分は、あくまでも勉学ですよ。でもまあ、いずれセッティングさせていただきます。『叡智のバケモノ』と『知識の魔王』との迎合なんて、考えるだけでも愉快極まりない」
「しかし、消えたと思ったE国の■爵が、名を変えて学生になっていると聞いた時は驚きましたが、まさか貴方と繋がるとはね、グルッペン君」
グルッペンはニヤリと笑い、ワイングラスに注がれた液体を一気に飲み干した。
「いやぁ。彼との出会いで、この私が、すっかり魅了されましたよ。ぜひとも手元に置いておきたいですが、いやはや、なかなかにプライドが高い。そのくせ打算的で、掴みどころがない」
「貴方をもってしても、懐柔できませんか。手厳しいですね」
「いろいろ策は講じているのですがね。だが、それだけに落とし甲斐がある」
「はっはっはっ。若い若い。高嶺の花を手に入れるというのは、なかなかに燃えますよね」
グルッペンの前に座る男が、水をゆっくりと飲んだ。
「ですが、夢中になりすぎて、足元を掬われないよう、お気をつけなさい」
「肝に銘じますよ」
「……キミに、うちの子を二人つけよう。若いがかなり有能だ。好きに使いなさい」
「感謝します、十八代目」
新たに注がれたワインを片手に、グルッペンは目前の男に礼を述べた。
「ほな、エミちゃん、ゆかりちゃん。行ってくるわ」
エーミールへの説教が終わってすぐ、八雲教授は時計の指し示す時間を確かめると、慌てて借りてきた車に乗り込んだ。
本当にこのためだけに、山陰から京都を爆走し、そしてまた戻るようだ。
「ほんまにトンボ返りになってもて…申し訳ないです」
申し訳なさそうにエーミールが何度も頭を下げる姿に、ゆかりが苦笑を浮かべる。
「ホンマはもうちょい話し合いしたかったやけど、明日朝イチでの約束があんねん。戻ったら改めて」
「……戻られたらちゃんと怒られますから。お気をつけて」
エーミールは苦笑を浮かべ、窓越しの八雲教授に小さく手を振った。
「エーミールさんのことは、任せておいて。阿久さんも無理せんでね」
「うん。ほな、行ってきまーす」
そう言うと八雲教授は、車を走らせ家を出た。エーミールとゆかりは、テールランプが見えなくなるまで、車を見送った。
家に戻ろうと振り向いたエーミールの腕に、ゆかりが両腕を回して抱きついてきた。
「ほな、エーミールさん。私らも寝ましょ♡」
「ゆ、ゆかり、さん…?!」
「二人で一緒に寝るなんて、子供の時以来ですね~♡ 大丈夫ですよ。ちゃんとお背中トントンしてあげますから」
「ゆかりさんッ?私、成人男性!あらぬ誤解生むからヤメテッ?」
「そんなこと言うて、また独りで泣くんちゃいますの?大丈夫。今夜は私めが、坊っちゃんが寝るまで、一緒にお布団にいますから」
「いやいやいやいや。アナタ、人妻。私、成人男性。Understand?」
「誤魔化してもあきまへん~。いーーっぱいよしよししてあげますからね~♡」
「やめてくださいッ!八雲教授に殺されるッ!」
「阿久さん、そない狭量やないから。大丈夫。何なら、成人男性としてのエーミールさんも受け入れますから♡」
「もう勘弁してください……」
別の意味で泣きそうになったエーミールを、ゆかりは容赦なく家の中へ引っ張り込んでいった。
【本編へ続く】