ー伝七ー
目を開けると、見慣れた天井が見えた。
「よかった。起きたんだね。」
声のした方に首を向けると善法寺先輩がこちらを覗いていた。その隣には立花先輩もいた。
「僕、」
「体調は大丈夫?」
「はい‥‥。」
「よかった。じゃぁ僕は少しぬけるから、仙蔵お願いね。」
善法寺先輩はそう言って部屋から出ていった。
部屋は静まり返っている。
「あの、」
「すまなかった。」
「え?」
立花先輩が急に頭を下げた。
「知らないうちにお前を傷つけていた。本当にすまない。」
「先輩のせいではありません。‥‥僕のせいで迷惑をかけてしまって、すみません。」
不思議と伝七の頭は冷静だった。
「伝七‥‥。」
立花先輩は僕を抱きしめた。
「迷惑などではない。お前が無事で良かった。」
優しい声で言う立花先輩。
ーお前、作法委員なのに全然きれいじゃねーよなwー
ーやっぱ同じ一年でもは組の笹山のほうが凄いよな~ー
ーいつも勉強勉強で、お前勉強以外になんかできんのかよwー
ー立花も可愛そうだよな~。お前みたいな勉強しか能にない一年が後輩でwだから笹山ばっかりにかまってんだよwいい加減気づけよ。ー
今まで6年生の先輩に言われた言葉が頭に響く。
こんなに心配してくれている先輩があんなこと思ってるわけないのに、僕は何を気にしていたんだろう。
「ごめんなさい。」
「いいんだ。良かった。無事で。寂しい思いをさせてしまいすまない。」
「いいんです。こうやって今そばに先輩がいてくれているので。」
仙蔵は腕の中にいる寂しがりやの少年を抱きしめた。
「先輩‥‥。」
「何だ?伝七。」
「僕はもう大丈夫ですから、」
仙蔵の膝には伝七が座っている。
「いや、私が大丈夫ではない。それに、」
仙蔵は伝七を抱きしめた。
「お前は溜め込みすぎるからな。そして上手くそれを隠す。今日は、前に約束した見せたいものを見せてもらおうかな。」
「‥‥はい。」
それから暫くは、顔を真っ赤にしながらも幸せそうに笑う伝七と、それを見て微笑む仙蔵の姿が目撃されたらしい。
ー了ー