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鷹槻れん

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鷹槻れん

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ただ単に、やたら近付き過ぎてしまったせいで、日和美の髪の毛が不破の鼻先をくすぐったのが原因なのだけれど、日和美にはそんなの分からなくてただただ後ろめたさに苛まれて冷や汗タラタラだ。
(あ、いや、喘いだって定義しちゃうのは語弊がありますかねっ!?)
それでは、まるで日和美が色っぽいことを仕掛けたみたいではないか。
実際には、日和美はただ不破の整い過ぎた寝顔を間近から舐めるように視姦――じゃなくて、凝視して生存確認をしようとしただけ。
何も後ろめたいことなどしていない!……はず、なのだ……ごにょごにょ。
不破が吐息を漏らしたことでビクッと肩を跳ねさせた日和美だったけれど、期せずして彼の生存確認は果たせたことになる。
(不破さん、重たい布団につぶされてなくて良かった)
ホッとしたのと同時、いきなりすぐそばから伸びてきた不破の手が、日和美の後頭部を捕まえてそのままグイッと頭を引き寄せられたから堪らない。
びっくり仰天して「ひきゃっ」と、ヒキガエルがつぶれたみたいな変な声が漏れてしまう。
「もぉ、今日も一緒に寝たいの? キミには別に寝床、ちゃんと準備してあるのに……。ルティは本当困った子だね」
よしよし、とそのまま後頭部を撫で撫でされて、頭を不破の胸元へ乗っけられて。
「ひゃわっ」
あっという間にもう一方の手でしっかり身体もホールドされて、不破の腕の中に閉じ込められてしまった。
(かっ、神様っ。これはっ。これは一体どういう状況なのですかーっ!?)
不破は、現実離れした芸能人みたいな綺麗な顔立ちをしているから華奢なのかと思いきや、全然そんなことはないのだと思い知らされている真っ最中の日和美だ。
要するに――。
(ぬっ、抜け出せないっ!)
そんなに力を込めて抱き締められているようには思えないのに、一生懸命力を込めて逃げようとしても全然ダメで。
そればかりか、彼の胸板が思いのほか厚いことや、二の腕が殊のほか筋肉質なことを思い知らされてドギマギさせられてしまう。
(ふ、不破さん、男の人だっ!)
そんなの最初から分かり切っていたはずなのに、自覚したらやけに恥ずかしくなってしまう。
(ごっ、ごめんなさいっ。もう夜這いなんてしませんからぁ~)
当初の目的は不破の生存確認だったはずなのに、心の中。
何故か日和美は自分の罪状を不埒なものだと認めてしまっていた。
息を吸い込むたびに、不破の甘い香りが肺を満たしてどんどん日和美を恥ずかしい気持ちにしていってしまう。
(なっ、何でこんな甘やかないい匂いさせてるんですかっ。ボディソープもシャンプーもコンディショナーも、みんな私と同じはずですよね!?)
パニックの余り、不破が口走った「ルティ」についての言及をすっかり忘れてしまっている日和美だ。
自分は今、そのルティとやらの代わりに添い寝を余儀なくされていると言うのに――。
きっとこの場に祖母がいたならば「そこ! そこを一番に追及せんと!」と鼻息を荒くされていたことだろう。
不破の腕の中。
一人もじもじソワソワしていたら、不破に「しーっ」と大人しくするよう宥められて、髪の毛をくしゃくしゃっと掻き乱すみたいに撫でまわされる。
これではまるで愛犬か何かの扱いではないか――。
日和美は動物を飼ったことがないので本当の所はよくは分からないけれど、北国で沢山の動物と一緒に暮らす『動物キングダム』と言う施設を作っている〝ゲンゴロウさん〟と呼ばれるおじさんの出る動物番組は結構好きで、テレビでよく観ている。
不破の日和美への接し方は、その中でゲンゴロウさんが大型犬などを撫でまわす仕草にそっくりだと感じてしまった。
(私、ペット扱いですかね⁉︎)
とすると、さっき不破が口走った〝ルティ〟とやらもそんな感じなのかもしれないな、と思って。
(いやいやいや。そうと見せかけて……実は不破さんにそっくりなお人形さんみたいな可愛い可愛い妹さんとかっ!? はたまためっちゃ年下の許嫁と言う線も捨てきれないではないですかっ)
日和美のような庶民にはあまり関係のない話だけれど、高貴な方々の間にはまだまだ色々ありそうな気がする。
政治的な裏があって仕組まれた婚姻相手とか……家同士が決めた許嫁とか……生まれた瞬間から一緒になることを定められた結婚前提のどこぞの姫君様とか……。
(どれも……ありそう!)
とどのつまり、全部いまTLで流行りの政略結婚モノの設定なのだけれど、日和美の中では全て違うものとして列挙されていた。
記憶を失っているはずの不破の口から、その手掛かりになりそうな記憶の断片みたいな言葉が出てきたことよりも、もしかしたら彼にはどなたか決まったお相手がいらっしゃるのかも知れない、と思う方が胸をチクチクと刺してきてしんどいと思ってしまった日和美だ。
(不破さん……)
彼のことをそう呼べるのも後ちょっとなのかも知れない。
日和美はツンと痛くなった鼻をシュン、とすすり上げると、
(だったら今だけ)
そう思って不破の胸に頬をすり寄せた。
***
『日和美さん、好きです。愛しています』
『私もです! 大好きです、不破さん!』
出会ってたった一日。
布団の落下から始まった稀有な偶然が引き合わせた二人は、恋に落ちるのも急転直下。
出会った翌日には二人同時にお互いに対する烈火ような想いに気が付いて、恋の炎は瞬く間に燃え広がった。
そうして今まさに。
一面の花畑の中で二人。嘘偽らざる気持ちを確かめ合ったばかり。
彼はやはり某国の王子さまで、国には親が決めた隣国の姫君様な許嫁がいて……結婚しなかったら戦争になってしまうかも知れないって。
『こんなに愛し合っているのに……。一緒にはなれないんですね、私たち』
うわーん!
日和美は鼻水と涙でぐしゃぐしゃに泣き濡れながら、ヒシッと不破譜和にしがみ付いた。
「――……なみさん? ひなみさん。日和美さんっ!?」
そんな日和美を、不破が何度も何度も名前を呼んで揺さぶって――。
(あーん。そんなにされたら気持ち悪くなってしまいますぅー)
「お願い……、もっと優しく……して……?」
日和美は頭がくらくらするほどの酩酊感に無意識にそうつぶやいて。自分の声の遠さに何となく『ん?』と思った。
綺麗な色とりどりの花畑の中。クリアだったはずの視界がぼんやりぼやけて薄暗くて狭い部屋が徐々にクッキリと浮き上がってくる。
「ふぇ……?」
どういうことだろう?と混乱しまくりの日和美の目の前に、泣きそうな顔で彼女を覗き込む不破がいた。
「不破……さ?」
「すっ、すみませんっ! 僕……っ、ひょっとして寝ぼけて日和美さんに何かしましたかっ!?」
ギュッと両肩を掴まれて、グイッと近付く超絶美形に、日和美はクラリと酔い痴れそうになる。
だけど掴まれた腕の力強さに、思わず眉根を寄せて。
「不破さ、痛ぃ……です」
「すみませんっ」
ぼんやりした頭で不破に痛みを訴えたら、慌てたように力を緩められた。
腕を緩めてくれた上でなおも心配そうに日和美の顔を見つめてくる不破に、日和美はソワソワと落ち着かない。
「あ、あの……実は……」
そう切り出してはみたものの、どう続けたらいいものか戸惑ってしまう。
正直に、重たい布団に不破が押しつぶされていないか心配になって彼の生存確認をしに来て、寝ぼけた不破にガシッと捕獲されてしまったと話すのが無難だろうか。
コメント
1件
いやあ、もうドキドキが止まらなかったです!寝ぼけた不破さんに捕獲されて「ぬっ、抜け出せない!」ってなる日和美さんの慌てっぷりが可愛すぎて…。それでいて最後の「だったら今だけ」って不破さんの胸にすり寄る切なさがじーんと来ました。ルティって誰?って気になるし、夢の中の告白とのギャップもツボです。TLあるあるを一人で真面目に挙げてる日和美さんの脳内も好きでした笑