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(そっ、その場合は必要なさそうな(?)彼の顔に見惚れて近付き過ぎたから、というのは伏せておいても平気かな?)
でも――。
そうすると自然と〝ルティ〟のくだりも話さねばならない気がして、日和美はグッと言葉に詰まってしまった。
きっと不破にとって、ルティのことは記憶への架け橋となる重要な手掛かりに違いない。
彼のことを思えば、今すぐにでも『その名に心当たりはありませんか?』と聞いてあげるべきなのだけれど。
(もし不破さんに記憶が戻ったら……私との同居はなくなる……んだよ、ね?)
そう思うと、どうにもなかなか話すことが出来ない日和美だ。
それに――。
病院で、記憶が戻ると同時に記憶喪失の間の出来事を忘れてしまう可能性があることだって示唆されている。
(私、不破さんに忘れられたくないっ!)
でも、こうして迷っている間にも、不破は当然日和美の言葉を待っているわけで。
「実は……?」
とっても間近。不安そうな顔で超絶美しい顔にじっと見詰められて先を促された日和美は、一生懸命頭をフル回転させた。
「わ、私っ、喉が渇いてキッチンにお茶を飲みに行ったんです。そしたら……不破さんが苦しそうにうなされてらしたので……それで……」
口から出まかせ。出だしからして出鱈目なことを並べ立ててみたのにアラ不思議。話し始めてみたら、自分でもびっくりするくらいスラスラと架空の理由が浮かんできた日和美だ。
「あんまりにもお辛そうだったので起こした方がいいかな?って貴方を揺すってみたんです。そしたら寝ぼけた不破さんにどなたかと勘違いされてギュッとされて……。頑張ってみたんですけど抜け出せなかったので諦めて腕が緩むのを待っていたら……いつの間にか一緒に眠り込んじゃってましたっ。……驚かせてしまって本当にごめんなさい!」
テヘペロ。
口の端に小さく舌を出して、なるべくライトな感じお愛想笑いをしながら告げてみた。
不破に今の話を重く受け止められたくなくて努めて軽い感じを装ってみたくせに、ルティのことを完全に省いて説明できなかったのは、きっと心の端っこに彼女(?)のことが棘のように引っかかっていたからだろう。
(うー、私のバカ!)
そう思うのと同時、日和美は
(だけど……ひょっとして私、萌風もふ先生みたいな小説家になれちゃうんじゃない?)
とも思ってしまった。
全部を虚偽で飾り立てると真実味がなくなる。
嘘をつくときはほんのちょっとだけ事実を織り交ぜた方がより効果的。
そんなことをネットか何かで読んだことがある日和美だ。
その論を信じるならば、いま自分が告げた言葉はパーフェクトなんじゃないだろうか。
なんて心の中。一人密かに自画自賛をしていたら、不破が落ち着かない様子で瞳を揺らせて。
「そ、それで……僕は……その、貴女に。えっと……」
珍しく煮え切らない様子の不破に日和美がキョトンとしたら、
#シングルマザー
水羽凛
129
#ハッピーエンド
鷹槻れん

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鷹槻れん

32,138
#極道
鷹槻れん

11,736
「い、いやらしいことをしたりはしませんでしたかっ?」
耳まで真っ赤にして不破がそう問いかけてきた。
日和美は余りに初心な不破の様子に
「ま、まさかっ。いっそ私の方が襲ってしまいたくてウズウズしちゃったくらいですっ!」
思わず、要らない本音をポロリとこぼしてしまって。
(あーんっ。私のバカッ!)
「えっ⁉︎」と驚愕の声を漏らす不破を前に、今度は日和美が赤面する番だった。
***
「あー、えっと……。そうだっ! ちゃ」
「ちゃ?」
「ちゃ……ちゃっちゃと朝食にしちゃいましょう! きっと今日もピーカンなお天気ですっ。いつまでも布団にいちゃダメです。お日様の光を浴びて元気に目覚めましょう!」
会話している時点でとっくに目なんて覚めているのだが。
ぎくしゃくとした足取りで不破から離れると、日和美は不自然に視線を逸らしながらそう告げてシャーッ!とリビングのカーテンを開ける。
「あ……」
そうして目にした窓外の景色は、日和美の言葉に反して数メートル先も煙ってしまうような土砂降りの悪天候だった。
「……雨ですね」
不破がポツンとつぶやいたのを華麗に(?)スルーして、日和美は言葉を紡ぐ。
「えっと……きょ、今日はあれです。写真! い、一緒に写真を撮って……現像しちゃいましょう!」
昨日は結局何だかんだ寄り道をし過ぎて写真を撮るまで話が至らなかった二人だ。
幸い家にはプリンターもパソコンもある。
最近のスマートフォンはカメラ機能も結構いい。
二人で写真を撮って印刷して……その写真を不破に渡せば万事OKだ。
(もちろん、私もパスケースに忍ばせて……。ふふふ)
不破の写真が手に入ると思ったら自然表情筋が緩んでニマニマしてしまった日和美だったけれど、不破が病院で話してくれたことを忘れたわけではない。
いやむしろ。
ルティの一件があってから、その必要性を一層強く感じてしまったくらいなのだ。
不破の記憶が戻ってくるのはそれほど遠い未来ではない気がして、すごく不安で。
忘れられても一緒にいたことを証明できる何かが欲しいと日和美が熱望してしまったのも仕方ないことだろう。
***
「不破さん、朝食はパンとご飯どっちがお好きですか?」
何となくビジュアル的にはパンなイメージの不破だけれど、丸一日一緒にいてみて分かったことがある。
(多分不破さんは……)
「どちらでも大丈夫なんですが、何となくご飯がしっくりくる気がします」
(やっぱり)
不破の答えを聞くなり心の中でそう思ってしまった日和美だ。
不破は案外日本的なものを好む傾向がある。
昨日だってランチに焼き魚定食を選んでいたし、夕飯に肉じゃがを出したら喜んでくれた。
日和美は祖母の教えで休みの日におかずを作っておいて、冷凍庫に常備菜としてストックするようにしている。
父子家庭で殆ど祖父母に育てられた日和美にとって、それは一人暮らしを始めてからも変わらない習慣で。
「じゃあ、ひじきの煮物とほうれんそうのお浸し、それからお味噌汁としょうが焼きを用意しますね」
冷凍庫の中から、小分けにしたひじきの煮物を二回分の量取り出して電子レンジに入れながらリビングの不破を振り返った日和美は、目を真ん丸にして動きを止めた。
不破が、リビングを占拠していた布団を畳んでいるところだったからだ。
(うわっ。……めっちゃ違和感っ)
と思うものの、それが逆に不破らしいとも思えて。
日和美が昨日不破に買ったスウェット上下のラフな感じも、違和感に拍車を掛けている。
不破は天蓋付の大きなベッドで、高級ふかふか羽毛布団にくるまれて真っ裸で寝る方がしっくりくる気さえしてしまった。
だが実際の不破。顔はどう見ても春風みたいなぽやんとした印象の王子様なのに、やることは結構庶民的なのだ。
それは努力してやっているようには見えなくて……どう考えても〝やりつけている〟身に染みている感のある所作だから、日和美は不破の人物像がますます掴めなくなってしまう。
(不破さんって何者なんだろう)
気になるけれど知りたくない。
複雑な乙女心だ。
コメント
1件
いやもうこのエピソード、甘さと切なさがギュッと詰まっててやばかったです!!😭💕 日和美が「襲いたくてウズウズ」って本音ポロリしちゃうとことか、初心な不破さんの反撃?で顔真っ赤にするシーン、エモすぎて叫びました(笑)あと、記憶が戻ったら自分を忘れちゃうかもっていう不安から写真を残そうとする日和美の心情、すごくわかる…。ルティのこと話せない葛藤も切ないです。 不破さんの“庶民的な仕草”のギャップ萌えも最高でした!次が気になりすぎます、続き楽しみにしてますね🌸✨