「此処…は」彼女はそっと目を覚ました。辺りは…真っ暗な空間に真上には監視カメラが二台。彼女は目を覚ましてすぐにビターギグルの方に抱きついて、レイラは、「ギグル…!」と言った。「あ、ああ‥びっくりした…いきなり飛びつかないで下さい」
ビターギグルはいきなり飛びつき、ハグをされたのでちょっぴり動揺して居る様子。その様子を静かに眺めて居たバンバンは、「君らはほんとに仲良しさんだね、あの保安官‥きっと今の君らの様子を見ていたた嫉妬していただろうね」
「シェリフが…?、彼が嫉妬なんてするとは思えない‥というかそんな事より‥ほんとに私たちは此処から出られないの…?」ビターギグルはバンバンを見つめる。
「鎖や重々な施錠でそう簡単には出られないようにしてあるみたいだね……おや?」
バンバンが何か見つめたようだ。「‥……??、バンバン、どうしたの‥?また何か見つけたの? 」レイラはビターギグルと共にバンバンの傍にいく。バンバンが気になって見つめて居た先にあったのはどこかへ繋がっていると思われる細々とした通路。
あくまでも束縛、隔離されている事には変わりないようで、しかも奥にはあからさまに監禁を誘う為と思われる道具も遠目からでも薄らと見える。移動したところで、地獄が付き纏うのは同じ。「それにしても‥く、暗い‥せめて小さな灯りでも良いから、あれば良いのに」レイラは真っ暗な暗闇に、光すら見えない暗闇に怯え、辺りを気にしてチラチラと落ち着かない様子。「ああ、それに此処はほんとに牢獄みたいだよ、幼い子供を来させるにはあまりにも非情だ、来るべき時が来るまでは出して貰えない、【抜け道】があるなら話は別だが‥けど下手に動いても奴らに見つかるだけ」バンバンはそう言ってかなり慎重な姿勢を保つ。
彼らの脅威はバンバン達の方が痛いほどに理解している、何より研究者はバンバン達にとっては生命を宿し、与えた【親】のような存在なのだから。でも、バンバンが見つけた細々とした道以外にはこれと言って何か他にある訳でもなく‥「けど、確かに灯りは欲しいね。あまりにも暗闇だ、全く見えない訳でもないけど、しかも監視の目が鋭く張り巡らされて居て、ちょっとした事でも動いたのがバレてしまいそうだ」
と話していると、突然目の前に広がる重圧感 漂う空間の一角にボタンが不意に現れ、その側には何処からともなく現れたドローンと、それを操作する為のリモコンらしき物が無造作に置かれてあった。
「こ、これって前バンバンが言ってたドローンって‥奴?」レイラは見たことが無い形のドローンに少し戸惑いも交じりつつ、それを見つめた。
「ああ、そうだよ。これを使ってこの施設内にある仕掛けを解いて進んで行くのが此処のやり方なんだ、あの幼稚園も此処も同じようにね」バンバンはそう説明した。「こんな感じなんだ、私も見た事ない、王国ではこんな道具なんて見かけた事がなかったよ」
ビターギグルも見た事がなかったようで興味深そうにドローンを見つめる。
「っ!!、……!!」
彼女はまた激しい頭痛に苛まれて激痛のあまり、ふらっと意識が飛びかけ、身体がふらつく。「大丈夫‥!?、レイラさん‥ 」
ビターギグルは駆け寄り、そっと抱えた。「人体に影響が無いっていう話‥どうやら虚偽の可能性がありそうだ、彼女の現状を見る限り‥ほんとは有害物質が含まれて居そうだ」
バンバンは彼女の事を心配そうに眺める。と言っても、彼女の苦痛を緩和できる処置法は今のところ何もない、だから軽減させてあげたくてもどうにも出来ないのが、今の現実。
「え、ええ‥、とりあえずはどうしたら頭痛を抑えられるの?薬みたいなのもこの辺りには見当たらないし、それに頭痛を起こしている原因のものを取り除くにしても、もう手遅れだろうし」
ビターギグルは困惑する。最初に頭痛が発症してから、最初よりも頭痛が激しくなっている‥、かつての記憶を消去する効力がそれほどに強くなっているという証だ。
彼女に投与された薬の役割は彼女を被験体として新たに迎える為の前準備なのだから。此処でバンバンからふと、「そういえば、頭痛はどれくらいで沈下したんだ?ずっと持続的にある訳でもないんだよね」バンバンはそうビターギグルにそう尋ねた。そこでビターギグルは自身が彼女に傍に居て感じたままに伝えた。
「なるほど、つまりそこまで長時間ある訳では無い‥、しかし頭痛は脳にかなり影響を及ぼす可能性があるから危険だ、でも幸いにも頭痛以外の目立った症状がないのが救いで、比較的安全だね、死に至る危険性もそこまでない」
バンバンは冷静にそう言った。彼のゲノムドナーが研究者という事もあってか、医学や病気や負傷した際の治療法などそういった事に深く精通している様子のバンバン。それと、バンバン以外に実は同じく医者なる者が存在する。まあ、その者については何れ明かそう。
「うう……大丈夫だよ、早く先に進もう」
レイラは頭痛を堪え、ドローンを操作するが…初めて今このドローンを操作するから、操作方法が全く分からない。「これ…どうすれば良いの?」彼女は二人にヘルプを出す。
「ああ、そういえば君にはドローンの使い方や、そもそもドローン自体を見せた事がなかったね、だから知らないのは不思議ではない。と言っても簡単さ、ちょっと貸してくれるかな」
「う、うん」
レイラはバンバンにドローンを操縦用リモコンを渡し、バンバンは手本として使い方を彼女に見せて教える。
このドローンはリモコンで指示出しをして進んでいく物で、大体二回ほど指示を出して位置調整を行えば対象物に接近し、ボタンなどを押して鍵の解除などを行う。勿論、ドローンを操縦するリモコンの先端やそれ自体が故障すると操作も出来なくなる。
目の前の枠に囲まれている大きなボタンに向けて、指示出して、いざ発信。
と、ある程度進め、「此処までいったね、あとは真っ直ぐ赤く光ってるあのボタンに当てたら、何処かにあるドアが反応して新たな部屋が開かれるかもね」バンバンはそう言って、今度はレイラがドローンを操作する番。
彼女は初めて使う道具にドキドキと、緊張感が走り‥「うう、緊張する‥」なかなか操縦の一歩が踏み出せない。
そんな彼女をすかさず真っ先に元気付けたのは、「大丈夫ですヨ、レイラさんなら絶対に使いこなせます、それにこの先にもしかしたら、あの皆さんが居るかもしれないですし、不安な気持ちガ紛れるまでもう少しの辛抱ですヨ」ビターギグルが声をかけた。
ジョークを言ったり、励ましや安心する言葉を 度々彼女にかけたりと、彼女に真摯に寄り添って居る。「う、うん‥、私‥が、頑張る」レイラは緊張気味ながらも、ドローンを操縦して赤く光っている大きなボタンをドローンで、ポチッとぶつけて稼動させる。
「おや、どうやら何処かの部屋の鍵が開かれたようですネ、早速見に行ってみましょう」とビターギグルはそう言って歩き出す。
勿論、この行動全て‥研究者の支配下におかれている為に、彼女らの行動はお見通しの状態。
「あ、あれ‥?こんなところにまた道が出来てる‥なんか奥が開いてる?もしかしてさっきの仕掛けを解いたから、それで出来たのかな」レイラは新たに開けた道に歩みを続ける。閉鎖的な空間だけが広がってるかと思って居たが、どうやら案外そうでもないかもしれない。
と、この先の道に進もうしたその時、アナウンスのような声が流れ出し、こう言った。「お友達が来たようです、会いに行ってみてください。その際は開けたドアの通路から必ず行く事を推奨します」
このようなアナウンスが流れ、とにかく再会したいと懇願していた彼らかもしれないという淡い希望を抱いて新たに解放された一室に入ってみる事に。
そこに居たのは‥「……!!、皆んな!」レイラは駆け寄る。
そこに居たのは、バンバリーナ、ジャンボジョシュら達だった。バンバンファミリーであったが、でもシェリフ・トードスター‥あの保安官の姿がなかった。まだ駆けつけれていないのか、あの双頭モンスター【タマタキ&チャマタキ】の捕獲の加え、あのハピープティ等も捕らえようと奮闘して居る‥それを踏まえて考えると、まあ未だ駆けつけられていない事にも頷ける。
「私が‥気を失う前に、お友達もちゃんと連れてくるからってあの女の人が言ってたけど‥ほんとに連れてきてたんだ」レイラは不安な気持ちもあるが、けどそれよりもずっと閉じ込められるという束縛感がこれで少しは安らぎ、見知った面々がいることでホッとしている。
「まさか、こんな事態になるとは。もっとあの場所でゆったりとした時間を過ごしたかった」
「ええ、皆んな急に襲われて気付いたら此処にいて、非道な人間だと怒りが出そうになったけど此処に連行された理由はどうやら貴女みたいね」
「良かった……!、皆んなに……もう会えないかと思ったよ‥でも皆んなにまた‥」レイラは緊張や束縛感から今は一気に解放され、ポロポロと安心感から来た嬉し涙を流した。
「だが、安心できるのはほんの束の間だろう、此処は実験用の子供を逃がさないようにする為の隔離室……この前までの日常が戻るかどうか、真実に触れ過ぎた天罰である事には間違いない、幼き好奇心が災いをこうして呼んでいるんだ」
スティンガーフリンは自分達まで閉じ込められているこの現状にご立腹のようで、最初は可愛がって居たレイラに対しても、怒りの感情を見せた。
「いや、彼女は何も悪くないよ。悪いのは俺の方さ、案内を軽く済ませたあの段階で引き返してあの部屋に戻るようにすれば良かった‥宮廷道化師もすまない、こんな事態に巻き込んでしまう事になって」
バンバンはこのような事態になったのは自分のせいだと負い目を感じ、レイラとビターギグルに謝罪の言葉を告げた。
「バンバンのせいじゃないよ……元はと言えば私が我儘で…」今度はレイラが申し訳なくなって涙ぐむ。
と、フォローするようにバンバリーナが彼女に向けて、「過ぎた事はもう良いじゃない、起きてしまった事は‥とりあえずはまたこうして皆集まれて良かったわ」
兎にも角にも、またバンバンファミリーとの再会が出来て喜びに浸り‥、「閉じ込められた事はもう諦めて仕方がない‥という事にしよう、だが…この先、どうする」スティンガーフリンはそう言った。
バンバンファミリーとの再会の喜びで、気を取られていたが…そうだ、今レイラ達は閉じ込められている、しかも厳重にガッチリと施錠態勢で自由は縛られており、逃げ道も早々には見つからない。それに万が一、この部屋から出られたとしても、その先は……。
無事に切り抜けられるような方法が何も見つからない、そこで他に通れそうな道がないかを探す。
「特に‥…無事に通れるような道は‥ないね、どうしたら‥こんなに暗い部屋に閉じ込められ続けるなんて怖くて居られないよ‥」レイラはまた灯りが一切も無いこの空間に対して怯え、ビターギグルに体が震えながら、彼に抱きついた。
ビターギグルはこれに対して、優しく寄り添って彼女の肩を撫で下ろしてリラックスを促した。
「ありがとう……」
「此処まで逃げ場のないような場所を作るなんて彼らは一体何を考えてるの?ましてやこの子は普通の人間の子供でしょ?もう、こんなに怯えちゃって」バンバリーナは彼女の事を気にかけている様子。自身が持つ生徒や彼女ように幼い子供には親切心に溢れているようだが、一方で大人には‥。
「ああ、しかも地下に降りてきてからは食事も睡眠も全く取れていない、まあ睡眠は強制的に眠らされたのが二回‥だからある程度はいいかもしれないが‥だから身体もそろそろ限界を迎えてくるんじゃないかな」
バンバンはそう彼女を見つめてそう言った。
「え…?そうなの‥?それは大変ね」
「けど、此処に食事や、ましてや寝れる場所なんてあるの?」ビターギグルがそうぼやいた。此処はあくまでも隔離室、閉じ込めておく為の場所であり、つまりは居過ごせるような快適な設備に関しては全て取り外されている。と、なると、もし此処に隔離された状態が長期間続くのであれば、下手すればレイラは……実験に使用される前に餓死して命を落としかねない。年齢的にもまだ幼い。だから身体も精神も未発達で成長途中……栄養や健康的なのが理想。
「何も用意してない訳がないと思うが‥何かあったりしないのか」スティンガーフリンは不意に言った。
それもそうだ、彼ら『研究者』側にとってはレイラは貴重な実験材料なのだから、当然死なれたら困る、となれば何かしらの栄養を補えるものぐらいありそうだが‥そう思って探していると、「あ、待って此処になんかスイッチがあったよ、もしかしたら電気‥つくかも」レイラは僅かに薄暗い中ほんの少し見えるスイッチを発見し、灯りがこの部屋に灯るかもしれない。そんな希望を抱きながら、そっとスイッチを稼働させた。
すると、灯りが灯り‥少し辺りが鮮明に見えた。それでもやはり、まだ暗い事には変わりない。
「これなら‥此処で過ごす為の道具がないか探せそう」レイラは先程よりは明るくなった視界で、何か此処で過ごすにあたって使えそうな道具や食料がないかを見つけてみる。
「……?、何これ‥何か数字が書いてある‥これは手首に付ける‥もの、みたいだね」レイラは拾った。そこに書いてあったのはcase 00ー01という数字が印刷されていたハンドテープ。case 00–01?現時点では見た事もないようなcaseタイプのナンバーだ。でも、此処にこのようなものが態々置いてあるという事は、何かしらの意図が隠されてるに違いない。
もしかすると、考えられる事があるとすれば、「このcaseナンバーの羅列、恐らくウスマンさんやその他に与えられているものとは全く違う別物と考えると、あの子猫さん達の種でしょうカ」そうビターギグルが予測を立てるも、「それはあり得ない話だろう、と言っても少し情報を聞いただけだが、そのジバニウム製のモンスターらは我々と多少桁が違うだけ、それに此処まで凝ったナンバーは奴らは付けない」
ビターギグルの意見そうすかさず違うと言ったスティンガーフリン。
「って事は‥これって」レイラは一つの可能性を見出す。そう、その可能性とは‥レイラのcaseナンバーだ。バンバンらが属しているcaseナンバーでなければ、ハピープティら達のcaseナンバーの羅列でもない、有り得ないナンバーという事は、残された可能性は必然的にこのcaseナンバーの該当者はレイラ、ただ一人という事になる。
「ああ、恐らくこのcaseナンバーはお前のものになる数字だろう」
「じゃ、じゃあ私って…ほんとにこの先‥実験に使われる事になる…の、皆んなとただ楽しく過ごしてたい‥それだけが私が‥望んでいる事なのに」レイラは不安になり、下を向く。怖い怖い……と恐怖心に支配され、軽くパニック状態になってきているようで「だ、大丈夫ですよ、それに貴女は一人なんかではない、私たちがついてますからネ」
ビターギグルは彼女に対してそう声をかけた、楽しい、皆んなで賑わいの日々をこの幼稚園で過ごせるのなら、例えこの幼稚園で永遠の人生を歩む事になろうが、それで良い。けど、でも‥‥今はそんな理想とは遠く離れた窮屈で狭い、暗闇が蔓延る空間、闇に囚われてしまった。そんな残酷な現実に‥。
「もう此処に来てしまったからには逃げられない、それに永遠なる時を此処で過ごすのは否定しようのない事だろう」
スティンガーフリンは避けられない現実を突きつけ、すると彼女はまた、しょんぼりとしたレイラ。と、何処からか此方の方へ歩いてくる足音が響き渡る。「ふふ、また会ったね」とやってきたのはハピープティだった。それにプティの後ろに見知らぬ水色のジバニウムモンスター、このモンスターは…?。
「え、えっと…プティに……その後ろに居るのは…?」
「私……私…はえっと……セノアドル‥case002。見張り役として確り貴女達を見張るようにって命じられたの、仕方なく」セノアドルと呼ばれるそのマスコットモンスターはそう理由を告げた。
「や、やっぱり……監視の……」
「そ。ま、君はお父さんの新作の実験第一号になるから絶対に死なせたりはしないだろうね、だって君みたいな子供‥逸材なんて今やこんなとこに誘い込む事すら不可能に近いからね」
セノアドルというそのマスコットモンスターは恐らくハピープティと同様に子供のゲノムドナーが使われている……そう考えてみるも、でもその割には随分と大人びている態度と口調にも見えなくはない。
「ま、どのみち君を死なせる事はしないし、下手にこの施設から抜け出そうとしなければ、何も問題ないよ、此処で自由に過ごすと良いよ。それと下手に此処で管理されてる子達を怒らせない方が良いよ、きっと後悔する」
そうセノアドルは釘を刺す。「じゃ、私達はすぐ傍の部屋で君らをずっーと見てようかな、脱獄なんてしようものなら、きっと地獄が待ってるだろうから、痛い目に遭いたくないなら大人しくしておく事をお勧めするよ、あ‥そうだ、まあ君の身体はもうすぐ何は…全部パパの監視下になる、気楽に過ごせるのは今のうちだけ…好きに日々を謳歌できるのは……ね」ハピープティはあの研究者らが企んでいる計画の一部始終全てを知っているからなのか、度々意味深な言葉を告げる。
そうして、とりあえず監視されている中制限された有限の自由を謳歌する為に沢山彼女はビターギグルらに無邪気に近寄る。
だってこうして笑顔で居られるのも何はタイムリミットが来る事が確定してしまったその運命はそう簡単には覆せないからだ。
「窮屈なこんな場所で……どうしよう、あ…何か遊べる物…置いてないかな」とレイラが玩具を探していると、ササっと何かがレイラに接近したような音がした。彼女は気になり、そっと後ろを向くと、そこに居たのは青色の蜘蛛【ナブナブ】だった。
「わ、わあ!、びっくりした……何で突然後ろに‥どうしたの?」
彼女はナブナブに問いかける。けど、彼は言語を喋る事ができないタイプのマスコットモンスターだ。だから、彼が何を伝えたいのかとかの気持ちを汲み取る事が非常に困難なのだ。
すると、ナブナブらとバンバンファミリーであるバンバンは、「ああ、きっと誰も相手をしてくれなくて寂しかったんだね、彼は孤独で基本は隅っこで独りぼっちな感じだからね」バンバンはそう説明してくれた。
独りぼっち‥友達が居ない、壁画でもナブナブのみが端っこに描かれてい居たのも、それをまさに表現してたようだ。
「それにしても、彼が自分から寄ってくるなんて珍しい事もあるものだね、こんな事滅多に無かった」バンバンは話す。「そ、そうなんだ……」
ナブナブは彼女に近寄った後暫くそこに佇み、また離れていった。「可愛い子ね、知能は良い筈なのに極端に恥ずかしがり屋なのも…ほんとに不思議な蜘蛛ねー」と此処でレイラはとある事に少し疑問を抱いた。
「ねえ、フリンもそうだけど、皆んな名前で呼び合ったりしないの?caseナンバーとかえっと、確か‥別名‥だっけ?そういうので呼び合ったりしてるみたいだけど、皆んな其々ちゃんとした名前があるのに、それで呼び合わないって不思議だなって思って」
と。
そう、バンバンもビターギグルも呼ぶ時はウスマンさんだったり、宮廷道化師。シェリフ・トードスターの場合は保安官、バンバリーナは教師、フリンだけフリン、やスティンガーとたまに呼ぶ事があるが、基本は所謂、別名で呼び合う事の方が多く、【名前】で呼び合う事はかなり少ない印象のようだ。「そこまで何故と言われる事がなかったから、答えが出ないが、最初‥ぐらいだろう、それ以外は皆んな其々に与えられた別名で呼ぶようにしている‥馴染みがないものに対してはcaseナンバーでな。名前など‥我々にとっては無くてもあっても変わらない、人工的に実験で苦しみの果てに生み出された存在でしかない、それ以上の価値などないに等しい」
スティンガーフリンはこれまた、何か全てを悟ったかのような口調でそう告げた。
「…………」彼女は突然沈黙して、スッと立ち上がり、閉ざされた部屋から見える景色を眺めていた。
「どうかしました‥?」
「……私の本当の事…知りたいの、何かあの人達‥隠してるんじゃないかってずっとモヤモヤしてて」レイラはそう言った。
彼らが隠している本当の真実、自分に話せないような重大な秘密をまだ持っているんじゃないか、そう思い、この際だから‥もうこの幼稚園から外に出られないのなら、せめて本当の此処に連れて来られた事情を知りたい、そう思い始めた訳だ。
そもそも、此処まで来て一つ不明な点が‥それは【彼女にも居るであろう両親】の存在。もし、親が両方とも居るのであれば、幼い子供の彼女が見知らぬ者達に連れて行かれたのに、未だ助けにも来ない。その事にも少々疑念が残る。
「焦る必要はない、まだ君に話してもそう簡単に君は真実を受け入れられない、そう彼らは踏んでいるだけだろう、この先歳をとるか‥それとも不老不死同然の身体になるかどうかは知らないけど、でも何か秘密があるのは間違いないだろうね」
バンバンがそう彼女に言う中、ビターギグルは「というか、でも確かに彼女が明らかに小さな子供だって事は分かるけど、何で拐って来れたんだろう、普通人間の子供には親という存在が存在する訳だし、止められなかったのか‥」
ビターギグルはまず彼女との出来事の根本に今更ながら疑問を抱き、そう思い返す。
「元から居ないか、それとも養子‥‥捨て子か…まあ何かだろうね、けどこんなに幼い子供一人で」
バンバンはそう考える。
でも、生憎‥‥彼女は薬の効力で、記憶喪失になっているからそんな事はもう消えているが‥。「私には‥‥親居る……の、もう忘れちゃってたけど…今ね、何だか頭に流れてきた」
レイラは片言のような言い方で、バンバンに告げた。もう、何が何だか意味が分からなくなってきた。「居ないにしても、いるにしても、子供一人だけで無事の保証もないようなこんな場所に居させるなんて、彼らも不思議な生き者だ」
ビターギグルはこんなに幼い子供を無理矢理拉致してきて、ずっと監禁…幽閉する行為に走った事にイマイチ納得していない模様。と、レイラ達が閉鎖空間にて、窮屈な時間を過ごしている間……
「何とか、あの隔離施設に送り込めたようだな、あの娘だけは逃さないようにしないといけない…膨大な時間をかけて開発している完全新型タイプのジバニウムの被験体…これまで以上の最高傑作を創り上げる… 」あの研究者の一人はそうぼやく。
「ええ、その為に彼女は何としても生かしておかないと、けどそろそろ『あの子達』が痺れを切らして暴れそうだわ、それにしても……あの人、ほんと変な人よね」ポツリともう一人の女性研究者はそう懸念の声を漏らした。
それと、意味深な『変な、あの人』とは‥?此処にきて、複数の人物の存在がちょっとずつ浮き彫りになってきつつある、この状況。
「ああ、あんな大人がいるとはな、不思議なものだよ。どうやら、とことん運命に嫌われているようだな、あの娘は」
禍々しい闇に塗れた密会があっている、こんな事が裏でひっそりと行われていたなんて、今のレイラは知る由もないだろう。
「本当にこの先どうなるんだろう……私って‥ 」
囚われの身と化した今に、また絶望感が押し寄せてきた。「此処にきて‥いや、地下層に降りてきてから随分心に余裕がなくなってるね、まだ精神的にも肉体的にも幼いから仕方がないが、ずっとこのままなら、本当に精神がおかしくなって心が壊れてもおかしくない」
バンバンはそっと彼女に寄り添い…背中を撫で下ろした。
「自由を縛るなんて、子供にとって一番精神にストレスを与えるのに、なんか彼らが考えてる事が理解できないナ」ビターギグルはそうポツリ。
そうして、窮屈な空間で、縛られながらの恐怖だらけの場所で過ごして、「此処に閉じ込められて……どれくらいの時が経っただろうね」しょんぼりとしたテンションで蹲る。
「ああ、あの保安官もまだ救助に来ない…一体何がどうなっているのか」スティンガーフリンもそろそろ退屈さに痺れを切らしてきた模様‥とそんな事を話していた時、今彼女らが居る部屋のドアの鍵が解除された音が鳴り響いた。
「……ん?どうやら誰かが来たようだ、もしかすると‥保安官かもしれない」バンバンはスッとドアの方を見つめ、開かれたドアの先に立っていた人物は……
「やあ、随分待たせてしまったな、救出にきたよ」
と現れたのはずっと、再会を懸念していたシェリフ・トードスターだった。
「ああ、保安官。やっと来れたようで安心したよ」バンバンはそう言った後に中へ出迎えた。
「ギグルも、君も‥‥駆けつけるのが遅くなってしまってすまなかった、犯罪者の捕獲と事情把握に少しばかり時間がかかってしまってね、此処へ来るのに随分手こずってしまったものだよ」トードスターはビターギグルと彼女に視線を向けた。
「それにしても、まさか本当に来てくれるなんてね、女王陛下の傍から離れて良かったのかい?助け
に来て欲しいと頼んだ手前言うのは悪いが‥‥」
「ああ、女王様には確り説明し、ギグルの無事かの生存確認と奪還を命じられてな、いくら此方から追い出したとはいえ、ギグル。お前は私の良き友人であり、王国の者で私と女王様にとっては家族のような存在という事には変わりはない、だからこうして助けに来た」
トードスターはそうギグルに思わぬ言葉を言い放った。
「シェリフ…… 」
「追い出されたって聞いてたから、てっきり仲悪いのかなって思ってたけど二人って仲良しさんだね、二人の仲見てたら、ほんの少し元気が戻って来た気がする」レイラは微笑みを取り戻した。また一人、仲間が増えた事で安心感に繋がり、微笑を溢せる程の心のゆとりも出て来た。
「それなら良かった。どうだい‥?彼等から何もされてないか?」何も知らないトードスターはそう質問して来た。
「あ、えっ……と」
「良いですヨ、此処は私が説明しますから、安静にしておいて下さイ」ビターギグルは彼女を気遣って自分が代弁してシェリフに説明してくれるらしい。まあ、彼女は今こそ、シェリフが駆けつけてくれたから少しは元気が出たものの、どのみちこの一室によって精神的ストレスもかかって来て、疲労感が出てくる事が予測される事から無理は禁物だと判断したビターギグルは彼女を労る為に自らが説明した。
「シェリフ……実は…」
彼は彼女に投与された薬物について分かる範囲で説明し、「記憶喪失させて、記憶を書き換える薬…か、何もそこまでしなくても‥そこまでしてでも自分の傍から離れて欲しくないという訳か、貴重な実験体としても‥通りでこのエリア、やけに監視設備が無数に設けられる訳だ、とても此処に来るまでの道中苦労したよ、それにしても重大な障害を生じさせてしまったらどうするつもりなのか‥‥ 」
シェリフにまで、呆れ果てられる程に、こんなにも強引な行為の走った様子の研究者ら。
「さ、さあ……今のところは頭痛だけで、そんなに身体に影響ガないのが幸いだけど、今後新た にまた薬を投与されたらって考えると‥死んじゃわないか心配だ」
ビターギグルは不安を隠せなかった。
何度も、幾度も言うが、彼女は幼い……それに身体もまだ大人になる為の成長期にあたる時期にいる、そんな時に病気や妙な薬の効力で身体に悪影響がもたらされ、たら、万が一の時が怖い、ストレスを過度に抱えてしまった時、なんて考えれば明らかに危険な状態になるのは目に見えている…そんな中、ストレスが一方的に与えられるこの状況、良くない悪循環の条件が今まさに揃ってしまっていると言っても過言ではない。
「ああ、けど頭痛以外の痛みを伴う程に凶悪なものじゃないのはある意味、不幸中の幸いかもしれないが、同時に彼女が持っていた本来の記憶を塗り替えられてる、その事を考えると……」バンバンはそう言った。
「早く此処から出たいものだが‥‥一体何時まで此処にいれば良い」
スティンガーフリンはまたも待つ事に痺れを切らしている。
「まあ、落ち着いてくれ。どのみち、此処から簡単に逃がしてもらえない事はもう分かりきっている、だから支えになれかは分からないが、少し寄り道して此処で過ごす為の物を拝借して来た 」
シェリフが出した物というのが、日常的に使えそうな物や食料などだった。それにしても、このような物、一体何処で見つけたのだろうか。
「食料がこんなにも、一応此処にも既にあるみたいだけど……でもよくよく考えたら何か仕込まれてそうだし、君もこっちを使った方が良いかもね」
ビターギグルは懸念視した。此処に元から親切心…というか、計画的に餓死を防ぐ為に食料は大量に保管してある事は既に確認済みだが、しかし……その中にもしかしたら彼女になるとって……つまり、人間の子供にとって有害な物質が密かに注入されてたりする可能性も十分にある事を踏まえ、シェリフが新たに持って来た方を使う事にした。
「奴らの事だ、何か妙な真似を仕込んでるのに違いない」
こうして、現時点では特に何事もなく、時間を過ごせている彼女ら……。しかし、それは逆に束の間の休息を与えられているだけに過ぎなかったと知るのはまだ先の話。
だって、こうしている間にも、また着実に一歩ずつ彼女を苦痛の闇へ落とす準備は整ってきているのだから……。と、此処でビターギグルは、「もうどれくらいだろう、今どれくらいの時が経ったかも分からない、何もかも状況が掴めない事ってこんなにも恐ろしい事だとは思わなかった」と未だに急な事ばかり起きている事態に、まだ気持ちの整理が整っていなかったのだろうか、愚痴のような一言をぼやいた。
彼は道化師で笑わせるのが彼の幸せだが、それは今、叶いそうにない。だって笑える状況ではない‥寧ろ不穏な状況だから、笑わせようにも此処は何だか場違いじゃないか…そんな事思って、ひたすらに彼は我慢‥いや、もっと言うとそもそも……彼自身もそんなジョークを言うような気分が今はないのだ。
「下手に暴れたりしても、どうせ見つかるだけさ、だから今は大人しくしておこう…」
何時にもまして、冷静沈着なバンバン。今、自分達の身に降りかかっている恐怖に逆らえない……だから。じっと束縛された時間をやり過ごしていた時……、プティ達が見張りの為にレイラ達が囚われている部屋に覗きにきた。
「ずっと見てたけど、つまらないの〜、もっと豪快に抵抗して暴れてくれても良かったのに…………あ…………」プティはそそくさと逃げていった。
捕まった筈のプティ……そう、シェリフの捕縛から逃れていたようだ、それでその掴まれた当人がいた事に困惑して逃げていったのだ。
「あのお嬢ちゃん、また逃げたのか…逃げ足だけは素直に素早い子猫だ、怖気付いて逃亡するのもまさに子供らしい」トードスターはまるで皮肉のような言い草で彼女の去り際を見つめながら、そう一人ぼやいた。
その後もまた時間は流れ、「煩い程に聞こえていた音が静まった……恐らくもう日が暮れる時間なのかもしれない、そろそろ寝静まる時間が迫りそうだ」スティンガーフリンはそう言って、寝入る前の軽い食料を其々トードスターから……と思ったのだが、レイラがそれに手を伸ばした瞬間、天井にぶら下がっている監視カメラが彼女を追うようにマークし、警告ベルまで鳴り出す。
「え、え……何‥!? 」と何で鳴ったか理解も検討もつかないレイラは少々取り乱し、「多分、レイラさん…その予め用意してあった物から食べたりするように……という事なのかも‥」ビターギグルはベルが鳴った理由をそう解釈したようだ。
実はこのベルの意味はその通りで、此処で過ごす際も全て大人しく言う通りにしろ、と言わんばかりに全てが誘導尋問のように従う事一択……そうさせるように仕向けている…そんな思惑を彼らは彼女に向けて放っている。
「わ、分かった…」と将来的にレイラにcaseナンバーと成り得るだろうcaseナンバーが記された箱から食べたりする物を物色した。
取ってみたのは良いものの、明らかに何か手を施されてるような‥そんな気がしてならない、こんな物をはたして口に入れて良いのだろうか、そんな不安がありながらも、もう此処に閉じ込められたからには従うしかない、その覚悟をもって口に運ぶ。
「だ、大丈夫デスカ……?」
ビターギグルは心配そうに彼女を見つめる。「……あ、あれ……?何も違和感ない…美味しい…!ギグル、大丈夫だったよ」とレイラはそう言うが、何処か疑わしい…彼ら研究者が仕込んだ物に何の小細工もされていないなどあり得ない。
「いや、その中に仕込まれている代物の効き目が単遅いだけの可能性があるから油断しない方が良い、食事後、様子見で安静にしていて」
バンバンからそう助言をもらい、一先ず其々レイラは研究者らから準備された物、ビターギグル達はシェリフから持ってきて貰った物を食する。
‥‥そして、其々食事を終え、軽く身体を洗浄しようと思ったのだけど、石鹸やそう言った道具はなく、あったのは何故か濡れたタオルのみがポツンと置いてあってそれを使う。そこまで自由度が効かなく、いずれにしても、自由は奪われたまま、その後、また夜を過ごす。
「すー…す〜」
彼女はビターギグルの傍にぎゅっと寄りついた形で眠りについた。この囚われの時間は‥何時幕を閉じれるのだろうか。
「さあ、もう少しだ。もう少しで…新たなジバニウムの開発に革命が起こる時が……遂に訪れる…………」
怪しげな影は今も、闇に潜み‥紛れている。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!