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ねこなさま🩷🎀@ペア画中
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#溺愛
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五月蝿い心臓
改札を抜ける。
切符を通す。
何度もこなした動作。
なのに。
少しだけ、
ぎこちない。
ホームに立つ。
慣れない日曜日。
家族と出かける時とも、
仕事へ向かう時とも違う。
変な感覚だった。
電車が来る。
ドアが開く。
乗り込む。
座らない。
吊り革を掴む。
車内は、
思ったより静かだった。
それなのに。
心臓だけが、
うるさい。
ガタン、ゴトン。
電車の音より、
ずっと。
スマートフォンを見る。
時間は、
まだ余裕がある。
いつもなら。
三十分前に着けば十分だ。
遅刻なんて、
ありえない。
でも今日は。
一時間前に着くように、
調べている。
早く、
会いたいから。
ただ、
それだけだ。
窓に、
自分の顔が映る。
疲れた顔。
寝不足の目。
目は、
いつもの自分だった。
だから。
口元だけ、
少し動かしてみる。
笑顔。
……違う。
もう一回。
少しだけ、
柔らかく。
やってみて。
やめる。
我ながら、
気持ち悪い。
思わず、
小さく笑ってしまう。
隣に立っている人が、
一瞬こちらを見る。
すぐに、
視線を逸らされる。
当然だ。
休日の朝に、
一人で笑顔の練習をしている男なんて、
普通に怪しい。
でも。
そんなことをしてしまうくらいには、
浮かれている。
同時に。
胸の奥には、
冷たいものもある。
罪悪感。
ちゃんとある。
子どもの声も。
妻の寝顔も。
まだ、
頭に残っている。
それでも。
電車は、
前へ進む。
決まったレールの上を。
迷うことなく。
まるで、
今の自分みたいに。