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数日後、二人の記事は諸事情により掲載を中止することにしたと事務所を通して正式に連絡があった。


理由は明かされなかったが、最後の写真が一番効いたのかもしれない。


「俺、もう駄目かもって思っちゃったよ。いっそ思い切って記事が出る前に公表した方がいいんじゃ? とか、色々考えてさ」


ようやく謹慎が解け、蓮は数日ぶりに自宅へとナギを招き入れた。


ソファに座るナギの隣に腰掛け、肩を引き寄せながら顔を覗き込む。


「それは駄目だって言っただろう? 悪手でしかないよ。僕はナギを好奇の目に晒すのは嫌だ」


「お兄さん……」


「沢山不安にさせてしまったけど、もう大丈夫だから。ただ、やっぱり前みたいにはいかないのが少し寂しいけど」


ナギの旋毛に軽く口付け、軽く体重を掛けて凭れ掛かる。


「それはもう、仕方ないよ。それに多分、俺達みたいな職業の人間は大勢の人に夢を見せてあげなきゃいけないから、プライベートは包み隠しておかないとダメなんだろうな。まだまだ駆け出しだからあまり気にしてなかったけど、今回の事で身に染みてその事を感じた。 でも、その分……二人っきりの時は思う存分甘やかしてくれるんでしょ?」


蓮の手を取って、掌に唇を落としながら甘えるようにナギが上目遣いで微笑んでくる。その蠱惑的な仕草と表情に眩暈を覚えると同時に愛おしさが込み上げて来て堪らなかった。


「当然」


ナギをぎゅっと抱き締めて、頬を撫でると気持ちよさそうに手にすり寄ってくる。その仕草は何処か猫のようでとても愛らしい。


「あ……、明日から撮影再開だって言ってたから、ほどほどにしてよ?」


チュ、チュっと口付けソファにゆっくりと押し倒すとナギが少し焦ったように言った。


「うーん、それはちょっと約束できないかなぁ」


「え!?」


「冗談だよ。流石にセーブするって」


「……お兄さんが言うと、イマイチ信用できないんだよなぁ」


困ったように笑いながらも背中に腕が回り二人の距離がグッと縮まる。


「酷くない? それ」


「だって、お兄さんは人一倍性欲強いし……」


「それは……否定できないけど。まぁ、ナギが可愛いのが悪い」


「お兄さんのスイッチが入るポイントがよくわからな……っ」


唇を尖らせて抗議するナギにそっとキスをして黙らせる。たった数日離れていただけなのに、この唇が懐かしくて堪らない。


「ん、ン……」


ゆっくりと口内に侵入し、舌を絡め取る。お互いがお互いの味を確認するように、隅々まで貪り、隙間なく唇を合わせた。


「あ……ふ……」


「ナギ……」


ゆっくりと唇を離すと、二人の間を銀色の糸が繋ぎ、プツリと切れる。それを名残惜しく思いながら、蓮はナギの首筋に顔を埋めた。


「お兄さん、くすぐったい」


「ふふ、ごめんね。でも、嫌じゃないだろう?」


耳元で囁きながら、指先で首筋を辿っていると抗議の声がかけられる。それを笑って躱しつつ部屋着の隙間から片手を差し入れ、滑らかな肌の感触を楽しみながら焦らすように指を動かせば、びくびくとナギが震えた。


「ふ……ん、耳もとで喋るの……禁止」


「なんで?」


「なんでって……っ」


耳元から唇を離し、ナギの顔をのぞき込むと途端に真っ赤になり顔を逸らす。


何か言おうと口をモゴモゴさせ、必死に言葉を探している姿が可愛くてついつい意地悪をしてしまいたくなる。


「ねぇ、なんで?」


耳たぶを食みながら、息を吹き込むように声を直接耳に吹き込んでやれば、ナギは顔を真っ赤にしながら耐えるように唇を噛んだ。


「ッ……だから、そこでしゃべらないでってば」


「どうして?」


「ン……ッ、変な声出ちゃうから……」


「もう何回も聞いてるだろ」


「それでも恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!」


逃げようと身じろぐ体をソファに押しつけ、覆い被さりながら意地悪な質問で攻め立てる。焦らしたせいか涙目になりながらも必死に耐えようとする姿は、加虐心を擽られるばかりだ。


「可愛い」


「男に可愛いって言われても嬉しくないし」


「そう? でも、僕はいつもそう思ってるよ?」


「っ……あッ」


耳たぶを存分に嬲りながら服の中に入れた掌を、臍から脇腹へと滑らせて行く。ナギの口から色っぽい声が漏れて、いやらしく身体をくねらせる姿に興奮を煽られる。


「も……、耳ばっかり……っ、意地悪しないでよ……」


涙目で訴えるナギは壮絶に色っぽく、淫猥な表情と相まって蓮の欲情を煽った。


「ごめんね。ナギが可愛くてつい意地悪したくなったんだ」


耳朶を軽く食むと、耳殻に舌を這わせて舐め上げる。ダイレクトに響く水音がより官能的に感じられ、ナギは逃げるように身を捩った。


「ヒッ、ぁっ、んん、や……それ、やだ」


「じゃあ、こっち……」


そう言うと、首筋に唇を落とし、鎖骨の窪みからゆっくりと心臓に向かって舌で辿っていく。そうして行きついた胸の中心をそっと口に含み、舌先で擽る様に転がした。


「ひ、ぁン……っ」


じわじわと広がる快楽にナギの身体が見悶える。ぷっくりと実った小さな果実を今度はねっとりと舐め上げると、ナギの口から隠しようのない嬌声が漏れる。


「ふっ……ぅン……ッ、ぁ……」


執拗に胸元を舐め回し、時折思い出したように口に含み吸い上げるとナギは頭を左右に振って悶えた。既に、この先の快感を知っている体は、僅かな刺激も敏感に拾い上げて青年を翻弄する。


もっと確かな熱が欲しいと言わんばかりに内腿をすり合わせながら、吐息混じりの声でナギが懇願した。


「お、にいさ……もぅ……いい、から……」


「ん……?」


胸の突起を指の腹で押し潰したり捏ねたりしながら、反対側の乳首を口に含む。コロコロと飴玉の様に舌で転がしながら吸い付けば、ナギの腰が面白い様に跳ねた。


「ゃあッ、意地悪……っ、しないでってば」


「酷いな。好きだろ?さっきから気持ちよさそうな声出てるじゃないか」


「ッ、そういうんじゃなくて……あっ、もっと、ちゃんと……触って欲し……」


ジワリと瞳に涙を浮かべて、ナギが蓮に縋り付く。ねだる様に腰が揺れているのを感じて、蓮は緩く笑った。


「はは、エッチだね。欲しくて堪らないって顔、ゾクゾクするよ」


眼を眇め舐めるように観察しながら、胸を弄っていた手が脇腹を伝い、下腹部へ下って行く。


へその辺りに手を添えて、掌全体で円を描くように撫でる。時折腿の付け根の際どいところを悪戯に指先が掠めると、物足りないと言いたげにナギが身を捩った。


「は、ぁ……っ、く」


「凄いね。ココ……触ってないのに湿ってる」


服の上からも主張する昂りに触れるとナギの口から切羽詰まった声が漏れる。


形をなぞるように指先で辿っていると、快感に潤んだ瞳に睨まれてしまった。


「ぁ、ン……だって、お兄さんが意地悪ばかりするから……」


「それで、こんな風になっちゃったんだ? ナギは本当にやらしいな」


「ひっ、や……っ、そんな強くしたら……っ」


耳朶を食み、耳元で意地悪く言いながら、ズボンの中に手を突っ込み直接握って扱いてやるとナギの口から嬌声が零れる。窮屈なズボンの中では碌に身動きが取れずに、快感を逃がす事を阻まれた状態で悶えるその姿が酷く淫靡で堪らない。


「気持ちイイの?」


「ふぁっ、ァ……き、きもちい……っあ、だめ、ぁっ、ん、んんっ」


竿を何度も上下に扱きながら、敏感な先端に爪を立てて更に攻め立てる。その度に、ガクガクと腰が震えるのを見て、限界が近いことを悟った。


「一度出しちゃおうか。ほら」


「ぁっ、待って、だめ、ズボン……汚れる……から……っ」


このままでは、まずいと思ったのかナギが震える手で蓮の手を止めようと手首を掴んでくる。それでも構わず、蓮は先端に爪を突き立てた。


「やぁッ! だめっ、あ、ぁ、ンンッー!!」


ビクンっとナギの腰が跳ね上がり、戦慄く度に、昂りからドロリとした白濁が溢れる。掌で受け止めたそれを塗り込める様にしてやるとナギの口から甘ったるい声が再び漏れ始めた。


「ひぁっ、ァ……んっ」


「あれ? 手が滑っちゃったみたい」


わざとらしくそう言って白濁に塗れた手を見せ付けると、ナギが顔を真っ赤にして睨んできた。


「わざとでしょ? お兄さんのばかっ」


「ごめんごめん。ナギがあまりにも可愛くってつい」


「つい、じゃない! ほんっと最悪っ!」


「でも、興奮しただろ? こういう強引なのが好きだと思ったんだけど、違った?」


シレっとそう言って、汚れた下着ごと足から引き抜き、腿を持ち上げて肩に掛ける。白濁の液で塗れた指先を後孔に滑らせると、ヒクリと収縮するのが見て取れた。


「俺を変態みたいに言わないでよ。別に、好きじゃないし……ぁ……っ」


「そう? いつもより随分早かったような気もするけど」


言いながらググっと指を中に押し込むと、ナギの喉が反った。


「ふ……ぅン……ッ」


「否定しないんだね。そういう所凄く可愛いよ」


「ん……あッ、それ、嬉しくないし……ッんん!」


ゆっくり内壁を押し広げる様に指を動かす度に、ナギの口から切羽詰まった声が零れる。指の腹で前立腺を挟む様にしてコリコリ刺激してやれば、悲鳴に近い嬌声が上がる。


「あ、ぁ、ッ……そこっ、だめぇ……ぇっ」


快感を少しでも逃がそうとイヤイヤと首を振るしぐさが可愛くて執拗にそこばかりを弄ると、目尻に涙を溜めた瞳で力なく睨まれてしまう。その度に、ゾクゾクと快感が背筋を走り抜けて、もっと乱してやりたくなってしまう。


「何が駄目なの? ココ好きでしょ?」


「んぅ、好き……じゃないっ、やだぁ……あ、ぁっ」


一度高みまで昇りつめてしまった体には、過ぎた快感は毒にしかならないらしく、瞳に涙を溜めながら必死にやめて欲しいと懇願してくる。それを無視して更に指を増やすと腰が逃げるように跳ねた。


「逃げちゃだめだよ。ほら、足開いて」


「だって……こんなの……っ俺ばっかり気持ちよくなってる。お兄さ……んも、一緒に気持ち良くなって……欲しッ、あぁっ! っ、はン……」


「またそんな可愛い事言って……どうなっても知らないよ?」


ごくっと息をのみ、指を引き抜くと蓮は前を寛げすっかり起ち上がった自身を取り出した。そこは既に痛いほど張り詰めており、先端からは先走りの液が溢れている。


「ぅ、あ……凄い……」


蓮の昂りを目の当たりにしたナギがゴクリと唾液を飲み下す。自分の痴態に蓮が興奮してるんだと改めて認識したのか、頰を紅潮させながらチラチラと様子を伺い見る表情は期待に濡れているようにも見えた。


わざと焦らす様に、入り口に昂りを押し付け、腰を回すように動かすとナギの腰もゆらゆらと揺れる。早く欲しいと言いたげなその行動に煽られつつ、蓮は熱い吐息を吐き出して口角を上げた。


「凄くやらしい顔してるよ? ナギはエッチだね」


「あッ、だって……ッあぁっ、く!」


解れきったそこにゆっくりと屹立を突き入れる。散々焦らしたせいか、中は熱く湿っていて受け入れた蓮にねっとりと絡み付いて来るようだ。


「はっ……、ぁ……」


「中、凄いね。トロトロで……いやらしく僕に絡みついて来る」


「ゃ、やだ……っ、そういう事、言わないでよ……あっ、んんっ!」


奥まで挿入し、わざと感じる所を擦るようにして緩く腰を揺さぶるとナギが面白い様に反応を返す。その媚態を堪能しながら、一度ギリギリまで引き抜いて浅い所を擦ってやると、ナギの腰が物足りないと言わんばかりに揺れた。


「お兄さ……もっと……」


「もっと、何? ちゃんと言ってごらん?」


「……っ、いじわる。分かってる癖に……」


拗ねたような顔をしながら睨んでくるが、ゆるゆるとした蓮の動きに耐えかねたのか、ナギの手が蓮の腰に添えられ動きを促す様に力が籠められる。


「お願……っ、いっぱい……気持ち、よくして」


「ッ……」


熱い吐息と共に吐き出された懇願に興奮が高まるのを感じながら、蓮はギリギリまで引き抜いた屹立を一気に最奥に捩じり込んだ。


「あぁッ! ァ……、はっ……ぁンっ」


腰を打ち付ける度、ナギの唇から嬌声が漏れる。蓮の腰の動きに合わせて声が次第に高くなって行き、薄い腹がヒクヒクと痙攣した。


先走りの蜜を滴らせているそれに指を絡め、腰の動きに合わせて上下に扱いてやると、ナギの喉から一際高い嬌声が上がる。


「あぁっ! やぁっ、それ、だめっ、おかしく……なるっ、あっ、あンンッ」


「その声、堪らないな。いいよ、僕しか見てないから」


くらくらする程の興奮を抑えきれず、蓮は抽挿を早くする。淫猥な水音が響く度に中が熱くうねり、更に蓮の情欲を煽った。


「やぁっ、ゃっ、ぁ、ん……ッ」


限界を訴える様にナギの中が戦慄く。白い小さな顔を見下ろすと、快感で瞳を潤ませてナギは甘くはにかんだように笑った。躊躇いがちに何度か唇を開いた後、消え入りそうな声で囁く。


「好き……、蓮」


ドクンと心臓が大きな音を立てて、蓮の全身に熱を運んで行く。眩暈を起こしそうな程の昂りを必死に抑えながら、一層激しく腰を打ち付けて追い上げればナギの背が撓った。


「ぁ……激し、だ、めっ、もぅ……ゃあっ」


「もう一回呼んで、僕の名前……」


自分の声がかすれている。全身を熱が巡っている錯覚を覚え、滾るような情欲が奥底から出口を求めて暴れ狂う。


「……好き、蓮……」


「僕も、好きだ」


切羽詰まった声色で応え無我夢中で腰を打ち付ける。迫り来る絶頂の気配にナギの中が戦慄き、蓮のものを一段と強く締め付けた。


「ぃあっ! だ、だめっ、イくッ……あぁっ!」


「いいよ、一緒に……っ」


「んっ、ぁ、は、あァ……っ、もぅ、ゃっ、あぁーーっ!!」


最奥を貫いた瞬間、中が一際強く締まってガクガクと腰が痙攣する。その搾り取る様な動きに耐え切れず、蓮もナギの体内に熱い飛沫を迸らせた。


「あっ……ぁ……んっ」


絶頂を迎えたばかりのナギには過ぎる快楽だったのか、全身をヒクヒクと戦慄かせながら息を逃がすように喘ぐ。


全てを出し切るように数度腰を動かすと結合部からくちゅりと音が鳴り響き、それに反応してナギが体を揺らした。


「ゃ……っ、なんでまだおっきくしてるの……」


「ごめんね、ちょっと無理そう」


一旦中から自身を引き抜き、力の入っていないナギの体をうつ伏せにする。腰を高く持ち上げさせて、すっかり柔らかくなった秘所に再び屹立を突き入れ

た。


「ふぁっ!? だ、だめ、俺イったばっかり……あぁっ」


「うん。でもごめん、次はゆっくりするから」


「そう言う問題じゃ……ッぁあ!」


否定の言葉の途中で奥まで押し入れると、ナギの口から嬌声が漏れて腰が揺れる。その腰を撫でると中がキツク締まって蓮のものを一層強く包み込んだ。


「僕が君の事をどれだけ愛してるか、その身体に教えてあげる」


「ぁっ、ちょ……も、無理っ無理だって……っぁ、ぁあっ!」


ナギが肩越しに振り返る。熱を帯びて蕩けた瞳には、どうしようもない程の欲情で瞳をギラつかせる己の姿が映っていた。


「あれ? ナギ君どうしたの? 具合でも悪い?」


翌日、蓮と共にやって来たナギを見て、雪之丞が心配そうに声を掛けて来た。見れば、ナギはぐったりと蓮に体を預けており、足取りもどこか覚束無い。


「大丈夫……ちょっと、誰かさんのせいで腰が痛いだけだから」


「え……あ!」


ぎろりと蓮を睨み付けるナギの表情を見て、雪之丞はようやく事態を察したらしくボフッと音がしそうな勢いで顔を真っ赤に紅潮させた。


「ご、ごめ……っ」


見てはいけないものを無遠慮に見てしまった気まずさなのか、慌てたように視線を明後日の方向に彷徨わせて顔を逸らす。


そんな顔をされるとついつい、苛めたくなってしまうのは性分と言う奴だろうか。


「何を想像したのかな? 雪之丞」


「えっ、や……っあの……っ」


わざと聞いてやると、相も変わらずこういう話題は苦手なのか面白い位に顔を真っ赤に染めながらワタワタと慌てふためき視線を泳がせる姿に嗜虐心がそそられる。


「なに、雪之丞もシたいって?」


わざとらしく肩にしなだれかかって言ってやると、あわあわと唇を震わせた。


「ちっ、違……っ」


「ちょっと! 何やってるんですか! この人に変な事吹き込まないで下さい!」


雪之丞が否定する前に、蓮の頭に鋭い衝撃が走る。振り向くと弓弦が腰に手を当ててこちらを睨んでいた。


「全く、油断も隙も無い!」


キッと此方を睨み付けて来る青年は怒ってもイケメンだ。恐らく彼は雪之丞に好意を寄せているのだろうが二人が何処まで進んでいるのかは、蓮の預かり知るところでは無い。


ついでにその辺りを突いてみようか、なんて考えていると、蓮の腰に回されている腕に力が籠った。


「も~、お兄さん駄目だって、ゆきりん揶揄ったら、俺の前でそんな事しないでよ」


耳元に唇を寄せて囁かれた言葉に思わず息を呑む。どこか甘さを帯びたその声は、昨日の記憶を揺り起こし、ゾクリと肌が粟立った。


「っ、冗談。別にもう雪之丞にはちょっかい掛けないよ」


参ったと言いたげに肩を竦めて見せると一瞬微妙な顔をされた気がしたが、ナギがそれ以上何かを言って来ることは無かった。


「たく、久々に来たと思ったら相変わらずじゃん」


「ホントだ。でもなんだろ、その方が安心するって言うか、二人が戻って来たーって感じするわね」


いつの間にか側に来ていた東海と美月がどこか呆れた様な、それでいて安心したような笑みを浮かべている。


「取り敢えず、週刊誌の件は乗り切ったけど……、僕のスーツをボロボロにした犯人って結局わかったのかな?」


何気なく尋ねた蓮の言葉に、弓弦たちは皆一様に顔を見合わせ困ったような顔をする。


「……それが……まだ」


「犯行の状況から見て、内部犯の可能性が高いって話です」


「って、事はスタッフの中に犯人がまだ潜んでるかもしれないって事?」


ナギの言葉に、重い空気が流れる。


「その件については、凛さんが今、血眼になって犯人を捜してるって話だけど、あの人元から無口だから何がどうなってるか全然話してくれないのよ」


「……そっか」


兄の名前が美月の口から出て、蓮はぎくりと身体を強張らせた。


兄とは何となく話掛けづらくて、あの一件以降まともに話をしていない。兄が自分に対して抱いている気持ちが、もしかしたら兄弟としてでは無く一人の人間として向けられたものかもしれないと気付いて、蓮自身どう接していいのかわからなくなってしまったのだ。


そんな蓮の様子を不審に感じたのか、ナギが顔を覗き込んで来る。


「お兄さん、凛さんと何かあった?」


「えっ、な、何もないよ?」


思わずしどろもどろに答えてしまい、しまった。と後悔する。これでは何かあったと言ってるようなもんだ。


微妙な空気が流れて、一同の視線が蓮に集中する。


「……あやしい。一体なにを……」


「おいおい。こんなトコでたむろしてる暇人が居ると思ったら、ガチホモ疑惑の蓮とその一行じゃないか」


突如割り込んで来た声に、みんなの視線がその声の主を捜す。少し離れた所から莉音が相変わらず太々しい態度でやって来るのが見えた。


「ちょっと、その発言は聞き捨てならないわね」


美月と東海が、蓮やナギを庇うように前に出て莉音を睨み付ける。


「はっ、事実を言ったまでだろ? そろそろ週刊誌が出る頃じゃないのか? 出たら買ってやるよ」


莉音は、悪びれる事無く言ってのけた。そんな莉音の態度に、その場にいた全員の表情が険しくなる。


週刊誌の情報は箝口令が敷かれていた筈だ。情報を週刊誌に持ち込んだ本人でなければ知る由もない。


「……やっぱりアレはお前の仕業だったのか」


思わず腹の底から低い声が出た。その声には有無を言わせぬ圧力が籠り、莉音の肩が微かに震える。


「ハハッ、ちょっと顔がいいからって……、目障りなんだよ。前々から蓮、お前の事が気に入らなかったんだ。 大人しくあのまま引退してりゃ良かったのに、今更復帰なんてして……。ちょっと調子に乗ってるみたいだから、もう一回酷い目に合わせてやろうと思ったんだ」


「だから、僕のスーツをボロボロにして、週刊誌にネタを売りつけたって言うのか?」


蓮の言葉にハッとして、全員の視線が莉音に集中した。


「……あり得ない」


「さいってー」


口々に非難の声が上がり、軽蔑の眼差しが莉音へと浴びせられる。だが、そんな事は気にも留めていないと言った様子で、莉音は鼻で笑った。


「ま、どうせ、お前は温室育ちのビビりだから危険なアクションなんて出来ないんだろうけど? ナギ、だっけ。アンタもこんなビビりなんて辞めて俺にしとけよ。コイツより天国見せてやるぜ?」


「……冗談だろ。アンタなんかタイプじゃないよ」


ムッとした口調でナギが言い返すのを、莉音は目を細めて見下すように笑う。


「いいねぇ。気が強いヤツも嫌いじゃねぇよ?」


周囲を不快にするのが趣味なのだろうか。卑下た笑みを浮かべ、莉音は上から下までナギの体を眺め回した。


「気持ち悪っ」


心底嫌そうに、ナギが顔を顰める。莉音はその反応すらも楽しいと言いたげに笑みを深くした。


「気が強いヤツが屈服する姿を見るのが俺は一番好きなんだよ。まあ、女の方がいいに決まってっけど。ナギ、お前そこそこ綺麗な顔してるから特別に俺の愛人として飼ってやってもいいぜ?」


随分自分勝手な事ばかりをのたまう男だ。


「ちょっと蓮君! なんであんな事言わせて黙ってるんだ!」


蓮の様子を見て、すかさず雪之丞が責め立てるように言ってくる。弓弦もどこか悔しそうに、蓮を見つめている。


「大丈夫。言わせておきなよ。相手にするだけ無駄だって。ナギだってあんな奴に靡くわけ無いし」


「でも……」


「大丈夫だから」


雪之丞の真っ直ぐな瞳が、心配そうにこちらを見る。明らかに納得していない様子だが、これ以上反論しても無駄だと思ったのかそのまま口を噤んだ。


すると


「ちょっと莉音!! こんな所に居た!!」


不意に甲高い声が響いた。一斉に視線が声の主へと集中する。そこに立っていたのは、莉音の浮気相手であるMISAだった。


それを見て、美月の表情が一気に強張り、彼女を庇うように東海が一歩前へ歩み出る。


莉音一人でも不快なのに、面倒くさいのがもう一人増えたと、蓮たちは不快感を露わに眉をしかめた。


「んだよ、邪魔すんなって」


「今はそんな事言ってる場合じゃないわよ! 事務所がやばい事になってるんだからっ」


「はぁ!? 何言って……」


「いいから来て! 早く!」


莉音の腕を乱暴に掴んで、MISAが物凄い勢いで引っ張っていく。それを呆気に取られて眺めていると、急にくるりと彼女が首だけを回して此方を凝視して来て、蓮の心臓がギクリと跳ね上がった。


何を言われるのかと身構えたが、結局何も言う事無くフンッとそっぽを向いてMISAは踵を返す。


「おいっ、一体何なんだ!?」


「とにかく来てってば!」


MISAに引っ張られ、莉音が慌てたように声を荒げた。ぐいぐいと腕を引いてMISAは走り出すが、莉音の方は何がなんだかわからないと言った様子で、半ば引き摺られるようにして連れ去られて行く。


「……なんだ、ありゃ?」


「さぁ?」


嵐のように現れて去っていったMISたちを呆気に取られて見ていた一同は、その姿が見えなくなると呆れたように顔を見合わせた。


「もしかしたら、アレが届いたのかもしれないな」


蓮がポツリと呟いた言葉に、何の事だろうかと言わんばかりの表情でナギが首を傾げる。


弓弦だけはなんとなく察しがついたのか「あぁ」と納得したように頷きニヤリと笑って口角を上げた。


「そう言えば、そろそろですね。丁度良かったんじゃないです? 姉さんや、みんなを馬鹿にした報いはきちんと受けて貰わないといけませんし」


爽やか好青年で売っている彼にしては珍しく、瞳に物騒な色を宿している。


その表情を見て、雪之丞たちも漸く蓮たちが何を話しているのかを察したらしい。


「あ、なるほど……アレかぁ」


「蓮君が探偵君に持って来させてたアレね」


あの場に居た面子が、皆同時に頷く。


「何? アレって? 探偵って何の話?」


唯一、あの場に居なかったナギだけが、事情が呑み込めないとばかりに一人だけ訝しそうに首を捻っていた。

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