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「ねぇ、ヤバいね。ワイドショーとかあの話題で持ちきりよ」
あの日から数日。婦人雑誌にすっぱ抜かれた莉音とMISAの熱愛報道と、子役苛めの実態を特集した記事は瞬く間にテレビやネット上で拡散され、世間の注目を一身に集めた。
そうして、雑誌が発売されて数日が経った今日も、テレビやネットで連日の報道が流れ続けている。
アレが自分たちの記事じゃなくて良かった。自分たちの保身の為、彼らを売ったような形になってしまったが、普段の態度が態度だった為に、心の何処かでざまあみろと思えたのはここだけの話だ。
「いいんじゃねぇの? 美月やオッサン達を散々馬鹿にして来た報いを受けたんだ。当然の結果って奴じゃね?」
高視聴率をつづけていた、ドラゴンライダーも視聴率は急降下し、もはや風前の灯とまで言われる始末。
「ちょっと可哀想な気もするけど……」
「姉さんは甘すぎるんです。だいたい、姉さんの可愛さに気付かないなんて、あのMISAって人もたかが知れてますよ」
控室で台本を読みながら、弓弦がいけしゃぁしゃあと言い放ち、それに同意するように東海が激しく首を縦に振っている。
「でもさ、酷いよみんな。俺だけ、大事な時に居なかったなんて……声掛けてくれても良かったのに」
クッションを抱き締めながら、ナギが不貞腐れた様子で不満げな声を漏らした。自分だけ除け者にされていたのが余程不満だったのか、拗ねた様子を隠すことなく唇を尖らせている。
「悪かったって言ってるだろ? 記者に狙われてたのは俺達二人だったからさ、一緒に居ない方がいいと思ったんだ」
「……わかってる。 わかってるけど……俺ばっか守られてるみたいで……嫌だ」
膝を抱えてクッションに顔を埋めるナギを、抱きしめてやりたい衝動に駆られるが、一度伸ばした手を躊躇して引っ込めた。
例え控室と言えど、何処で誰が見ているのかわからない。もう二度と同じ轍は踏まないと誓ったのだ。
そんな軽率な行動はしたくない。
「ナギ君の気持ちもわからなくもないけど。取り敢えず、蓮君の衣装に細工した犯人も無事にわかったんだし、一件落着って事にしようよ」
「棗さんの言うとうりです。これで心置きなく撮影が再開できますね」
雪之丞が窘めるように言うとそれに便乗する形で弓弦がにこやかに頷く。
「そうだね。謹慎してた間ずっと台本の読み込みしてたから、じつは俺、セリフ全部覚えちゃったんだよね」
「え? マジで? ナギはどんだけ暇してたんだよ」
「そう言う逢坂さんだって、撮影が無さ過ぎて台本全部覚えた~とか言って、学校でスタントの練習してたじゃないですか。御堂さんよりもキレのある動きをするんだって張り切って、私に無理やり練習に付き合えって無茶ぶりしてたの誰でしたっけ?」
「ちょっ、草薙君 それは言うなって言ったじゃん!」
慌てふためく東海を見て、その場にいた全員が噴き出し、控室内に楽しげな笑い声が満ちる。
やっぱり、この空間が好きだ。色々とトラブルも多いけれど、皆で揃っていて初めて居心地がいいと感じられる。
「そういえばさ、台本読んでて思ったんだけど……。“シークレットキャラ”って何?」
美月がページを捲りながら首を傾げると、すかさず東海が食いついた。
「それ俺も気になってた。ブラックの欄に名前がなくて、代わりに《シークレット》って書かれてんだよな」
「新キャラかなぁ? でも追加戦士はもう出揃ってるし……」
雪之丞がゲームをしていた手を止め、不思議そうに眉を寄せる。
「サプライズ枠なんじゃないですか? それとも以前みたいにゲスト回限定とか」
弓弦が台本をぱたんと閉じて、静かに言った。
「あ! この間の銀次君みたいな感じかな? ちょっとだけ出てきた幻のブラック!」
ナギが思い出したように声を弾ませると、みんなが「あぁ」と納得したように頷く。
「確かにありそうですね。でも、ブラック=銀次さんってイメージが強いですし、違う人って可能性もありますよ」
「まぁな。銀次はコラボ限定キャラだったし、別キャラって線の方が濃いかも」
東海が腕を組んで唸る。
「でもでも、銀次君再びって可能性もゼロじゃないでしょ? あのコラボ回、結構反響すごかったみたいで。再登場を望む声も多いって聞いたし」
美月が楽しげに言うと、雪之丞が小さく頷いた。
「ぼ、ボクは銀次君とまたやりたいな……。一緒にいて面白かったから」
「ゆきりんも? 実はアタシも!」
「お、俺だって……アイツとなら楽しくやれそうな気がする……」
控室に漂う期待の空気に、自然と笑みがこぼれる。
まるで、全員が次にやってくる展開を心待ちにしているようだった。
「っていうかオッサン、なんか知らねぇの? アンタ、凛さんの弟だろ?」
「えっ、あ、あー……うん。兄さんとは最近話が出来てなくて……」
東海の何気ない質問に、思わずしどろもどろに返してしまった。
兄とは未だに距離が空いたままだ。以前は一言だけでもメッセージのやり取りがあったのに、最近は皆無。連絡自体ほとんど取れていない。
招集日の連絡だって、弓弦やナギから教えてもらったくらいだ。
以前はあんなに仲が良かったのに、なんでこうなってしまったのだろう。
最後に見た、辛そうな凛の顔だけは瞼の裏に焼き付いていて忘れられない。
「えー……なに? 二人ともまだ喧嘩してたの?」
「いや……喧嘩って訳じゃないと思うんだけど……」
微妙な返事をした蓮に、何かを感じ取ったのかナギはそれ以上追及するのをやめた。
最初は兄が姿を見せないのは、色々と根回しのために動いてくれているからだと思っていた。
だが、週刊誌の件が片付いても一向に姿を見せないのは、それとは別の理由があるのではないかと考えてしまう。
「まぁ、兄さんもいい大人だし、そろそろ来るんじゃないかな?」
公私の区別はきちんと付ける人だ。それに、凛は誰よりも作品にこだわり、成功させたいと願っているはずだ。
いくら何でも自分で皆を呼び出しておいて、すっぽかすなんてことはしないだろう。
「そりゃ、オレも凛さんのことは尊敬してるけどさ……。もし新キャスト連れて来るつもりなら、早い方がいいのに」
「はるみんってば人見知りだから、慣れるのに時間がかかるんだよね」
「うっせぇなぁ。仕方ないじゃん」
美月のツッコミに、東海が頬を膨らませて反論する。
そういえば、最初の頃はツンツンしていて、しばらくは話しかけても返事すらしてくれなかった。
そんなことを思い出していると、控室の扉がカチャリと開く音がして、凛がひょこっと顔を出した。
「兄さん……」
久しぶりに見る兄の顔に、緊張で少し声が上ずってしまった。
だが、凛は一瞬だけチラリと蓮を見ただけで、特に何を言うでもなく、すぐに他のメンバーへと視線を移した。