体育祭の昼休み。あちこちでカップルたちが楽しそうにハチマキを交換していて、
🌸はその光景にちょっと胸がくすぐったくなっていた。
そんな彼女の背後から、ひょいっと影が差す。
「ねぇねぇ〜? 🌸ちゃん。
さっきから何見てるのかな〜?」
振り返ると、にこーっと笑いながら及川徹が立っていた。
でも、その笑顔の奥の目が、微妙に笑ってない。
「みんなハチマキ交換してて……なんか、いいなって」
素直に言った瞬間、及川の耳がぴくっと動いた気がした。
「……へぇ〜? いいんだぁ〜?
あれねぇ、カップルがやるやつだよねぇ〜?
ふぅ〜〜ん?」
わざとらしく大げさに反応しながら、
でも腰はしっかり彼女の後ろから抱き寄せている。
「ねぇ🌸ちゃん。
それって……誰とやりたいのかな〜〜?」
長いまつ毛が影を落とす。
目が完全に“探りモード”。
「透……」
「んー? 聞こえな〜い。
誰と交換したかったの? んん?」
甘い声なのに、めちゃくちゃ嫉妬してる。
「……透と。透と交換したい」
次の瞬間、及川の顔がパァッと明るくなる。
「っっかわいっっ!!
ちょっと今の録音して永久保存したい!!」
一気にテンションが跳ね上がる犬系彼氏。
「待ってて、今すぐ俺のハチマキあげる!!」
自分の青いハチマキをシュッと外し、
そのまま🌸の頭へ慎重に巻いてくれる。
「……似合いすぎでは??
ねぇ、どうしてそんなに可愛いの??
体育祭の神様、ありがとう」
おおげさに感謝までし始める。
けど巻き終えたあと、
すっと及川の指が彼女の頬に触れる。
「これ、透の匂いついてるからさ。
今日1日、ずーっと“俺の彼女です”って宣伝して歩くんだよ?」
優しいのに、独占欲の濃い声。
「次、🌸ちゃんのちょうだい♡」
差し出したハチマキを及川は受け取って、
くるっと自分の手首に巻く。
「ここに巻いとくとね〜、見えるんだよ。
……試合の時、よくこうするから」
ちょっと照れながら言う。
「透……それ、意味わかってる?」
「もちろん
『俺は大事な人がいます』って、みんなに自慢してるの!」
その直後、
すぐそばを男子グループが通りかかり、🌸をチラッと見る。
……スイッチが入った。
及川はにこっと笑顔で振り向き、
「そーやって見るの、やーめてね?
俺の可愛い彼女だから」
声は優しいのに、目がまったく優しくない。
男子たちは蜘蛛の子散らすみたいに逃げていった。
「……透、ちょっと怒ってたよね?」
「怒ってないよ〜? 全然〜?
ただ、世界のみんなに知らせただけ♡
“この子は透のです”ってね」
そして、彼は🌸の両頬を包み、
すりすりと犬みたいに顔を寄せる。
「交換したんだからさ。
今日のあとでちゃんと俺に甘えてよ?
……じゃないと、拗ねちゃうんだから」
急に弱音みたいに甘くなる。
「体育祭終わったら、二人きりで遊びに行こ。
約束ね?」
満足そうに笑った彼は、
そのまま手を繋いで歩き出す。







