テラーノベル
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「広瀬さん……なんだか弾けていますね…」
「あれ達に困っていたことも多いのかもしれないな」
「真奈美さんの二人目のお母さんのようだね。ご両親に連絡しましたか?」
「いえ、まだです」
「何も心配はないと私が伝えておきましたが、ご両親の心配はそんな些細なことでは払拭出来ない。真奈美さんが長年、ご両親を思いやってきたように、ご両親もまた真奈美さんに思うことは抱えきれないほどあるでしょうから。でも話せば一言で分かり合えたり、通じ合うのも親子ですから。電話してあげてください」
ご主人様が出て行くと
「ここで電話すればいい。終わったら俺の部屋へ来て。オンライン診察のリンクが俺のパソコンに来ているはずだから」
篤久様が私の前に来て……そっと頬を撫でて行った。
……っ……ビックリして、私がその頬を手のひらで覆った時には、もう誰もいなかった。
ビックリしたのではない…?
私は、大きくドキドキする胸の音を聞きながら、鼻の近くにきた手首の湿布の臭いを強く感じた。
電話、しようか……
母のガラケーか父のスマホか、どちらに電話をかけようかと迷い、結局
“今、電話して大丈夫?”
と父にメッセージを送った。
両親が今、何をしているのか……母がどんな様子か、分からないから。
私のやったことを知った母の精神状態が、分からない。
私はスマホをソファーに置いて、みんなが使ったグラスを集める…と、すぐにスマホが震えた。
父のスマホから電話だ……
「もしもし…お父さん?」
“真奈美、お父さんもいるけどお母さん…”
「あ、うん……ごめんね…いろいろと黙っていて…」
“真奈美、聞こえるか?”
「うん、お父さん、聞こえる」
スピーカーで二人一緒に聞いているみたいだね。
“驚いたけれど、真奈美が無事ならお父さんたちはいいから。ケガ、大丈夫か?全部は見ていないけれど…見ていられなかったけれど……真奈美が長い時間をかけて準備をして、思いを遂げたと思うから、よくやったとお父さんは真奈美を褒めたいと思う。心配なのは体だけ”
「大丈夫。打撲はあるけど……それもカメラを狙って私が仕向けたんだよね…煽ったっていうか。その結果だから平気。心配しないで」
“…いつの間にかそんなに逞しくなっちゃって……辛い経験が真奈美をそうさせたのよね……”
あぁ……ちょっと母は過去に引っ張られる思考に入ってしまっているな…
「おかげで身についた技術もあるし、どこででも生きていける人間になれたから……もちろん辛い経験はしたけれど、四六時中その記憶に囚われる生活は今日終わったの」
“ありがとう、真奈美。お父さんはその真奈美の言葉に救われた気持ちだよ……今日で終わり、そうしたいと思う”
「でしょ?そうしてね、お父さん」
これで父は大丈夫だけど……
「もしもし……お母さん?」
“…うん?”
「今、私、ここで親切で楽しい先輩と、とても優しい雇い主さんに囲まれて、幸せだから。ただの打撲だって言っているのに、お医者さんに診せるとか、仕事を休んでいいとか、そんな方たちに囲まれているの。だから…安心させるために言っているんじゃない……本当に大丈夫だから、ね…?」
今、これ以上の言葉は探せない、正直な気持ちを伝えるしかない。
“……驚いた……”
「ぇ……?」
“驚いて……声が出なかったわ。真奈美の口から、幸せって聞ける日が来るなんて…ねぇ……お父さん?”
“そうだね、本当にそうだね…真奈美は一人で苦労を乗り越えて、新しい生活を手に入れたんだ。やっぱり褒めるしかないね”
“そうね……私たちも新しい生活……そう思っていいかもしれない”
「そうだよ、そうだよ…お母さんっ!」
今度は私が驚く番だった。
今日母から前向きな言葉が聞けるとは思っていなかったから。
“フフッ…新しいって言ってもね……今日はいつもと違う、甘い玉子焼きに挑戦しようかしら。それくらいのものね…”
「新しいね、お母さん……じゃあまた連絡するね」
ぷちっ……
嬉しくて、泣きたくて……私は勝手に通話を終了させた。
お母さん…頑張って…
コメント
8件
幸せの一言に泣けます😭😭😭😭😭 みんなで更に幸せになろう❤️ 篤久様〜お手柔らかに😂
真奈美ちゃんの「幸せ」の一言がご両親も幸せにしてあげられる言葉になって良かった~😊 篤久さんのドキドキの行動も楽しみ💓 雇用契約書って永久雇用契約という名の婚姻届けだったりして・・💓
泣けてきます🥲地獄のような生活からやっと前に進めてよかった。これから希望を持って前に進めますね