テラーノベル
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風が変わった。
それはまるで、胸の中で何かが騒ぎ出すような感覚だった。
強くて、速くて、落ち着かなかったけれど――
どこか懐かしい。
「……ここは?」
じゃぱぱが一歩踏み出すと、
目の前に現れたのは巨大なジェットコースターだった。
鋭く曲がったレール。
空へ向かって伸びる急角度の坂。
あちこちから聞こえる悲鳴と笑い声。
そのどれもが、胸のどこかをくすぐった。
(誰の記憶だ……?)
手すりに触れた瞬間、
後ろから――
「やっと来たぁ!!」
勢いよく背中を叩かれた。
「うわっ!? だ、誰――」
「おっそいよ、じゃぱぱさん!!」
振り返ると、灰色のセーター。
少し跳ねた髪。
少年のように明るい笑顔。
ヒロくんだった。
「ヒロくん……!」
ヒロくんは腕を組んでにやっとする。
「なにその顔。
俺のことも忘れてるの?」
「……少し、ね。」
「はぁ〜……やっぱりね。」
ヒロくんはため息をつくように言いながら、
でもどこか嬉しそうに笑った。
「いいよ。思い出そう。
俺との“いっちばん最高の思い出”をさ。」
その瞬間、
ジェットコースターの金属がカタンと音を立てた。
「……乗るの?」
「もちろん!!」
ヒロくんはじゃぱぱの手首を掴む。
「置いてくなよ〜? 一緒に乗るんだから。」
「俺が……?」
「そうだよ。
“勝負しようぜ”って言い出したの、じゃぱぱさんなんだからね?」
じゃぱぱは、息を呑んだ。
勝負。
スピード。
一緒に叫んで、一緒に笑って――
胸のどこかが強く反応した。
「……行こうか。」
じゃぱぱは静かに答えた。
その言葉にヒロくんは目を細めて笑う。
「よしっ!!」
二人はジェットコースターに乗り込む。
安全バーが降りると、
ヒロくんが小さくつぶやいた。
「……なぁ、じゃぱぱさん。」
「なんだ?」
「2人でこうやって並んでんの、俺……好きだったんだよ。」
胸の奥が熱くなる。
「そんな大事なこと、覚えてないのはちょっとムカつくけど。」
「……ごめん。」
「でも――
“また思い出してくれる”なら、それでいいよ。」
その言葉と同じタイミングで、
ジェットコースターがゆっくりと動き出した。
最初の坂を登っていく。
風が強くなる。
空が近づく。
ヒロくんの横顔が夕日に照らされる。
そして――
「じゃぱぱさん!!」
「なに!」
「この瞬間だけは、絶対に忘れないでよ!!」
――落下した。
風が裂ける。
二人の叫び声が空に弾ける。
恐怖なのか楽しさなのか分からない感情が胸を突き抜ける。
じゃぱぱの脳裏に
鮮明な記憶が流れ込んできた。
──笑ってるヒロくん。
──泣きそうなヒロくん。
──まっすぐで、優しくて、
誰よりも隣でいてくれたヒロくん。
(……俺たち、こんなふうに……)
レールを駆け抜けながら、
じゃぱぱはやっと理解した。
「ヒロくん………」
やっと、“思い出した”。
ジェットコースターがゆっくりと停止する。
ヒロくんは立ち上がり、
じゃぱぱの胸を指で軽く突く。
「ほらね。
俺との記憶、ちゃんと残ってんじゃん。」
「……あぁ。」
「よし。」
ヒロくんは満足そうに笑った。
「じゃあ、次はまた本物の遊園地で一緒に乗ろうね。」
「約束、?」
「当たり前だろ。笑
俺たち、勝負の途中なんだからさ。」
ヒロくんの体が、
淡い光に包まれていく。
「ヒロ!! まだ話――」
「また会えるよ。
今度は“置いてくなよ、じゃぱぱさん”!」
ヒロくんは笑いながら光に溶けた。
残された風だけが、
ジェットコースターの周りを抜けていく。
コメント
6件
みんなのいう 『今度はおいてくなよ』が引っかかる…
やっぱ良い話なんですけど… なんで🦖彡が🌈🍑の皆彡の記憶を忘れてしまったのかが、突っ掛かるんですよね