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鷹槻れん

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#極道
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月詠 涼
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ワオンモールは芽生にとって庭のような場所だ。一人暮らしをしていた頃から、休日にはよくバスへ乗って遊びにきていたから、何の売り場がどこにあるのか大体把握している。
三階に百円ショップや服飾売り場があるから、まずはそこを目指したい。百均で小さな卓上ツリーを買って、京介には紳士服売り場でネクタイを購入しようと目論んでいる。
長谷川建設の皆さんや、佐山、それから相良組の面々には一階にある洋菓子店を回って美味しそうな焼き菓子を買って渡せたらと思っているのだけれど。
(わー、どうしよう! みんなマスクしてる!)
このところ長谷川建設とマンションとの行き帰りしか外出をしていなくて失念していた。
季節はインフルエンザシーズン真っ盛り。ニュースで、今年はインフルエンザの罹患者数が例年になく多いと言っていたのを思い出した芽生は、今更のようにポケットからハンカチを取り出して口と鼻を覆った。もし自分が感染症に罹りでもしたら、京介にも迷惑をかけてしまう。それだけは何としても防ぎたかった。
(マスクも買わなきゃ……)
そう心に決めた芽生は、(まずは百均ね)とルートを定めて足早に歩き出す。
お目当てのクリスマスツリーもマスクも、季節ものだからだろう。比較的分かりやすい場所に置かれていてすぐに手に取ることが出来た。
けれど、会計に思いのほか手間取ってしまった。
百均はいつもそうだ。
なにかとレジに長蛇の列が出来がちで、買い物をしながら(今、空いてるな!?)と思っても、自分がレジへ行く頃には何故か順番待ちの列が出来ている。今日も正にそのパターンで、佐山の陰にビクビク怯えている時間勝負な芽生としては気が気じゃなかった。
無事会計を済ませてすぐ、買ったばかりのマスクをつけていそいそと紳士服売り場を目指した芽生は、京介に似合いそうなワインレッドのブランドものネクタイを一本買うと、プレゼント包装をしてもらうために一階のサービスカウンターを目指した。
レシートと一緒に、買ったばかりの商品をカウンター内の女性へ手渡して番号札を受け取ると、ちょっとだけ買い物をして来たい旨を彼女に告げて、すぐさま洋菓子店へ走った。
暖房の利いた店内でせかせかと走り回ったせいだろうか。凄く暑くなってきて、芽生は良くないと思いながらもマスクをあごへズラさずにはいられない。
呼吸が楽になって洋菓子店の前、(何を買おうかな?)と思いながら一息ついていたら、突然背後から「芽衣ちゃん!」と声を掛けられて、肩をポンッと叩かれた。
振り返らなくてもニオイで分かる。
「さ、ざなみ……さん……」
ギュッと身体をちぢこめるようにして恐る恐る振り返った芽生を、細波鳴矢が嬉しそうな顔でじっと見詰めて……。
「やっと見つけた!」
言うなり芽生の手首をギュッと掴んだ。
余りに突然なことで、芽生は声が出せなかった。
***
いくら何でも遅い。
腹が痛いと言っていたが、優に二〇分は経った。
佐山は見ちゃ悪いかと思って女子トイレの入り口付近が見通せない場所へ陣取っていたのだが、さすがに業を煮やして移動する。
そうして気付いたのだ。
(ちょっと待て、ここ……)
迂闊だった。
自分が塞いでいた通路とは反対側にも通り抜けられるようになっていたことに今更のように気が付いた佐山は、それでも念のためと女子トイレ前の壁にもたれ掛かって芽生の携帯電話を鳴らしてみる。
マナーモードにしていたとしても、バイブ音くらいは聞こえてくるかもしれないと思ったからだ。
トイレを出入りする女性たちから、奇異なものでも見るみたいにチラチラと視線を投げ掛けられたけれど、そんなの知ったことじゃない。
「神田さん! 大丈夫か!?」
一応トイレ内に向かって叫んでみたりもしたけれど、反応がない。それを確認して、ますます気持ちが急いた。
(くそっ。あの女、逃亡しやがった!)
今更だが、ソワソワと自分の顔色をうかがっていた芽生の様子を思い出した佐山は、チッと舌打ちをする。
(あいつが行きそうなところ――)
はやる気持ちを落ち着けながら考えを巡らせて、自分たちにペナルティを課すために、芽生が『たちばな庵』の塩大福を要求してきたことを思い出した佐山は「菓子屋……!」とつぶやいて、一階を目指した。
***
「芽生ちゃん、カムカムを辞めちゃったのは何故?」
芽生の家が燃えたことを知っている細波が、自分がファミリーレストランを辞めたと言い切ったことに違和感を覚えて、芽生は「どうしてそれを……」と漏らさずにはいられなかった。
(普通は辞めたって思うより前に、家のことに追われて休んでいるかも? って考えるよね?)
その答えは聞かなくても分かっていたのに思わず声に出してしまったから、「そんなの、他のスタッフさんに聞いたからに決まってるじゃん」と気持ちの悪い回答を聞く羽目になってしまった。
「僕ね、辞めたあと芽生ちゃんがどこでどうしてるか知らない? ってみんなに聞いてみたんだよ? なのにさ、芽生ちゃん、お店に顔も出さずに代理の人が来て辞めるって伝えたらしいじゃん? だからみんな詳しいことは知らないって。それってさ、大人としてどうなの?」
ギュッと手首を握る手に力が込められて、「僕、火事のあとも毎日芽生ちゃんが気掛かりでカムカムに通ってたのに……裏切られた気分だよ」と細波に吐息を落とされた芽生は、痛みと気持ち悪さに眉根を寄せた。
「僕が心配してるって思わなかったの?」
確かに火事があったことを知っている細波が、芽生のことを気にしていたというのは一理ある。あるけれど――。
「私と細波さんはプライベートを話すような……そういう近しい間柄ではないと思うんです」
あくまでも客と店員。私生活で関わり合いになることは皆無のはずだ。そもそも、細波が火事現場にいたこと自体気持ちが悪かったし、もっと言えば今だって――。
「今日も……細波さん、なんでここにいるんですか?」
さっき細波が漏らした、『やっと見つけた』という口ぶりは、まるで意図して芽生を探していたとも取れる。
グッと握られたままの手を取り戻そうと引きながら問い掛けた芽生だったけれど、そうすればそうするほど細波の手指に力が込められて、焦燥感が募った。
きっと今もイヤというほど漂ってくるニオイが、手首にも移ってしまっているだろう。
「そんなの決まってるじゃん。芽生ちゃんがワオンモールによく来てたの、知ってるからだよ。このお菓子屋さんもお気に入りで、来るたびに何か買って帰ってるよね?」
細波が言う通り、芽生は行きつけのお店がモール内で何階のどの辺りにあるのかまで大体把握している程度には、ここへ足繫く通っていた。でも、そんな話、細波にしたことなんてなかったはずなのに。
「な、んで細波さんがそれを……?」
ゾワリと全身に鳥肌が立つのを感じながら芽生が声を震わせれば、「カムカムのみんなにもよく話してたでしょ? ここで買ったお菓子の差し入れもしょっちゅうしてたはずだ」とさも当たり前のように返される。
確かに同僚たちとそんな話をしたことはあるけれど、それはすべからく裏――休憩室など――でのこと。ホール内で私語なんてほぼしたことはないから、客である細波に聞かれていること自体おかしい。
そのことに気付いた芽生だったけれど、現状でそれを突っ込んで聞くのは怖くて、グッと口を噤んだ。
なのに――。
「あそこのみんな、ちょっと欲しがってるモノとか渡すと、みんな快く色々話してくれて、ホントやりやすかったのに……」
はぁーと大きな溜め息を落とされて、聞きたくなかった告白をされた芽生は、無意識に「イヤッ!」と細波を拒絶していた。
「お客様、如何なさいましたか?」
店の真ん前で揉めていたからだろう。
さすがにおかしいと思ったらしい洋菓子店の女性店員が、芽生たちに声を掛けてきた。
芽生はすぐさま彼女に助けを求めようとしたのだけれど、そんな芽生を隠すみたいに立ち塞がった細波が、「すみません、お騒がせして。この子、僕の大事な人なんですけど……ちょっと齟齬があって拗ねてしまっているみたいなんです」と、頼まれてもいないのに『さかえグループ』の名刺を取り出して「怪しい者じゃありません」とニコッと微笑んでみせる。
地元でも――というより日本でも有数の、超有名な大企業の名刺は、細波に〝怪しくない男〟の信頼を持たせるには十分だったらしい。
「こちらこそ申し訳ありません。失礼いたしました」
名刺を見た途端、ペコッと頭を下げて店員が引き下がってしまう。
芽生が「待って!」と声を上げたと同時、細波が「ね、芽生ちゃん。分かったでしょう? ここではお店の邪魔になるし、僕の車で話そう?」と芽生の手をギュッと握ったまま否応なく歩き始めるのだ。
芽生が、そんな細波に連れて行かれまいと懸命に足を踏ん張ったその時――。
「オイ……!」
きっと、ここまで芽生を探して走り回ったのだろう。肩で息をしながら、佐山が芽生たちを呼び止めた。
***
正直危ないところだったと思う。
佐山が芽生を見つけた時、彼女は細波に連れ去られそうになっていた。
細波は今日たまたま新聞で記事を目にした『さかえグループ』の関係者で、相良から一番気を付けるように言われていた要注意人物だ。そんな男と姐さん(候補)を遭遇させただけでも大失態なのに、攫われでもしていたらと思うとゾッとする。
自分が声を掛けた瞬間の、芽生の縋るような表情を見ても、間に合って良かったと痛感させられた佐山だ。
佐山の顔を見た途端、細波は物凄くイヤそうな顔をして、すぐさま芽生の腕を放した。
そうして佐山が近寄るより早くあっという間に逃げてしまう。
余りの諦めの早さに、こちらの頭が追いつかなかったくらいだ。
芽生に対する細波の異常なまでの執着を思うと、不自然な気さえしたけれど取り急ぎ芽生の確保が最優先事項だ。
「ぶんぶん……」
今にもくず折れそうな心許ない様子の芽生のそばへ寄れば、即座にギュッとしがみつかれた。怖い思いをしたのだから仕方ないのかもしれないが、正直これはまずい。
佐山は芽生に縋りつかれながら、絶望的な思いで前方を見詰めた。
***
神田芽生を見失ってすぐ、佐山は重い懲罰を受けることを覚悟した上で相良京介に連絡を入れた。
『芽生に逃げられたか』
だが佐山が話す前にカシラはすでに現状を把握しているみたいにそう言って、
『なぁ佐山よ。俺はお前に寄り道を認めた覚えはねぇんだがな?』
電話の先、恐らくは紫煙とともに吐き出しているんだろう長い吐息を落とした。
カシラが苛ついているときや、心を落ち着けたいときに煙草を吸う癖があることを知っている佐山は、それだけでゾクリとさせられる。
「申し訳ありません」
芽生がATMに寄りたがってごねたとか、腹が痛いと嘘をついて逃げたとか、言い訳したいことは色々あったけれど、そんなことをしたところで意味がない。それが分かっている佐山は謝罪のみを口にしたのだが、すぐさま『ワオンモールだな?』と畳みかけられて、カシラはすでに芽生の携帯のGPSをチェック済みなのだと悟った。
「はい。間違いありません」
罰なら芽生を無事見つけたあとでいくらでも受けるつもりで、佐山が一階を目指しながら答えたら、『分かった。とりあえず話はあとだ。テメェは今やるべきことをやれ』とだけ告げられて電話が切れた。
***
そんなことがあったから、相良京介がこちらに向かっていることは何となく察しがついていた佐山だ。でも、(それにしてもタイミング悪すぎだろ?)と思わずにはいられない。
芽生は背後から近づいてくる形になっていて気付いていないようだが、ワオンモールの正面入り口の方からこちらへ向かってくる相良京介の姿を一早く視認していた佐山としては、今すぐにでも芽生から離れたい。
かといって自分に取り縋って震えている芽生を突き飛ばすわけにもいかず、佐山は先の大失態も含めて針の筵だ。
「芽生」
静かに聞こえるが、佐山にとっては震え上がるような声音で告げられた芽生を呼ばわる声に、驚いたことに芽生は泣きそうになりながらもホッとした顔をする。
「京ちゃん……!」
つぶやくなり佐山から離れると、どう考えても今近付くのは得策ではないとしか思えないカシラに、ギュウッとしがみ付くのだ。
それが佐山には信じられなかったけれど、それだけ神田芽生という女性にとって、相良京介という男は特別な存在なんだろう。
コメント
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うわ! 細波、きもい! 佐山くん、災難!
いやー、今回もハラハラさせられたわ…!細波のストーカー感がヤバすぎて鳥肌立ったよ。「同僚に貢いで情報集めてました」ってさらっと言うとこ、マジでキモかった…。でも佐山が必死に探してるとことか、最後に京介が来たときの芽生の安心した顔でちょっと報われた気がした。続きが気になる!