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夜だというのに昼のように明るい出店の中を小走りで通っていく。
鈴カステラ、ヨーヨー釣り、かき氷、たこ焼き。
色々な出店を通っていく中で、ある出店に目が止まった。
「射的…。懐かしいな」
射的の前では小学生くらいの姉弟が悔しそうに文句を言っており、店主は満足げにふんぞり返っていた。
四季は代金を払い銃を構えると、狙いを定めて撃った。
「…?」
だが、その弾は他の弾と共に的に当たった。
隣にいたのはクリーム色の長髪の同世代であろう青年。
四季はにやりと笑って他の的にも当てていく。
負けじと青年も的に照準を合わせていく。
(一ノ瀬、すごいなぁ…)
胸の前で手を組み、勝負の行く末を見守る。
最後には的を全て倒してしまい、景品を全て貰っていくという事態になっていた。
「はい、これ」
「…いいの?」
青年はしゃがんで当てた景品を子供に渡している。
四季も渡そうとするが無慈悲にも「いらなーい」と言われている。
「ありがとー!」と景品を持って走り去っていく子供達に手を振り、海は少し喉を鳴らして笑った。
「…何だよ」
「…何も」
少し悪戯っぽく笑う海の頬を片手で挟む。海は四季の頬を手で挟んでやろうかと思ったが、途中で手が止まった。
「あ、続けて良いよ?」
二人は真っ赤になって離れ、海は顔を覆い、四季は口元を隠した。
青年は「良かったのに」と笑いながらラムネを三本片手にベンチに座った。
海も四季と一緒に座ると、話していくに連れて四季と青年の趣味が同じことが分かってきた。
海は銃の事は分からないが、ゲームの話が出てくるとラムネをくい、と一口飲んだ後に口を開く。
「…そのゲーム、知ってます」
「へぇ、結構マイナーだと思っていたけれど…」
「武器の作り込みが凄いので。銃に限らず」
「良いよな!あのゲーム!」
いきなり話に入って迷惑だろうか、という心配はすぐに消え去り、はしゃぐ二人に笑みがこぼれる。
ふと、海はラムネ瓶の中のビー玉を出店の明かりに透かした。
(どうやって取り出すっけ…。割れば良いのか?)
視線を感じて右を向くと、四季と青年_神門がこちらをじっと見ている。
「…何ですか」
「ミオ、お前…案外美人だよな」
「ビー玉と相まって純粋な儚げ美少女だよね」
「…はい?」
四季達が言うには、ビー玉を見ている姿があまりにも絵に描いたような「女子」で、見てしまっていたとの事。
その時、神門のスマホが鳴った。
「ごめん、上司からお呼び出しだ」
「おう!頑張れよ公僕!」
「お気を付けて」
メッセージを交換し、グループを作る。
神門と別れて祭り会場から少し離れた場所で四季が海の手を掴んで立ち止まった。
「どうした?」
四季は少しはくはくと口を開け閉めした後に言った。
「…こっち来てから、名前、一度も呼んでねえ…から」
そう言う四季の頬は街頭に照らされてか少し赤く、口元に手の甲をあて、少し声を小さくして呟く。
「呼んで、欲しい。…『ナツ』って」
四季の緊張が伝染してか海の鼓動は早鐘を打ち始めた。
(かおが、あつい)
体全体が心臓になったような感覚を覚えながら海は掴まれた手を一度解き、しっかりと繋ぎ直すと深く息を吸った。
(こんなに、勇気のいることだったっけ)
セーラー服の胸の辺りを掴み、深呼吸をする。
「嫌なら、別に…」
「ナツ…!」
四季の顔をしっかりと見据え、勇気を振り絞って呼ぶ。
「ナツ、ナツ、ナツ!」
何度も目の前にいる人の名前を呼ぶ。
自分の顔も赤く染まっているのを感じながら呼ぶ。
「ナツ、真っ赤じゃないか」
少し笑って言うと、「お前もだろ」とうりうりと頬を押される。
どこか可笑しくてほぼ同時に笑い出し、笑い止む頃にはもう時間もさらに遅くなっていた。
「…帰っか!」
「あぁ」
先程よりもより固く手を繋ぎ直し、二人は帰路に着いた。
まだ海にはこの鼓動の速さの正体は分からない分からないのだが。
(今はまだ、分からないままで良いや)
同時刻、ホテル内。
スマホで占いサイトを見ている守がいた。
「へぇ、海、『二つの始まり』かぁ」
「守先生、何を見ているので?」
「ミョリンパって人の占いサイト。当たるんだよねぇ」
「ま、面白半分だけど」と傍らにスマホを置く守に遊摺部は「そんなもんですか」と桃華を撫でながら返す。
「案外、恋だったりして」
悪戯っぽく言う守に遊摺部は呪いそうなほどに妬ましげな顔をして「だとしたら許しませんよ」と苦虫を噛み潰したように言う。
「占いだってば。本気にしないの」
そう笑う守のスマホにはこのような文字が浮かんでいた。
『理性の崩壊』
と。