翌日、それぞれの部隊の訓練や見学をした四季達はぐったりと疲れ果てていた。
その中には桃華も含まれており、桃華も手加減無しの訓練に無尽蔵であるはずの体力を無にされたようであった。
「ナツとミオ、ハナ。採血に行け。レオ、付いて行ってやれ」
「はいはい、クソ兄貴」
「クソは余計だろ」
「行ってきまーす」
四人で歩き、辿り着いたのはある団地。
チャイムを押すと、足音と共に家主_メアリー亜紀が顔を出した。
「あれ、マモちゃん」
「よっす、メアリーさん」
「後ろは鬼神の子と妹ちゃん達?可愛いじゃーん」
「あざっす」
ぽんぽんと軽い調子で交わされる二人の会話に戸惑いながらも案内されるまま四季が始めに椅子に座る。
怖々と目を瞑っていると、いつの間にか終わっていた。
目を開けると 四季の目の前にあるのは人生稀に見るたわわに実った二つのブツ。
「見たいなら見ていーぞ?」
色気と茶目っ気を十二分に含んだ声でそう言いながら人目を気にすること無く服を捲り上げ、音が鳴りそうな程大きなそのブツを四季の眼前で弾ませる。
あまりの衝撃に椅子から落ちた四季は男子高校生らしい反応をしている。
海は「見ちゃダメ」と桃華の目を押さえ、桃華は自分自身の耳を押さえている。
守は自分の胸がある筈の場所を見下ろして動かない。
つまり、助けを求められない。
「君、童貞だろ?私が卒業させてやろーか?」
多感な時期の男子高校生には甘美すぎる誘惑に戸惑っていると「ま、今生理だからまた今度だけどね」と茶化された。
四季の言葉はスルーされ、次に桃華が椅子にちょこんと座った。
桃華は恐怖のせいだろうか、心なしか微振動を起こしている。守の腕にしがみついて大きな瞳に涙を一杯に溜めて怖々とメアリーに聞いた。
「ちゅうしゃ、いたい…?」
「お姉さんは注射上手いから。だいじょーぶ!」
「ほんと…?」
「うん。目瞑ってな」
ぎゅっと目を瞑り、「痛い痛い」と言われるほど全力で顔を守の腹にめり込ませて耐えていると「はい、終わったよ」と優しく声がかかった。
「…いたく、ない」
「でしょ?」
桃華に笑顔を向けながらそろりと海の後ろに行こうとしていた守の腕を掴み、注射器を構えてメアリーは言う。
「次はマモちゃんね」
「うげっ」
苦虫を噛み潰したような凄い顔をして座る守に無慈悲に注射器を挿し、血を抜き取っていく。
「はい終わり」
「やっぱ注射嫌いだわ」
「大人でしょ~?我慢しなよ」
「うっわ、そーゆーこと言います?」
「次海ちゃんだよ~!」
ぶつくさと文句を言いながら腕を擦っている守を無視して海を座らせ、注射器を挿していく。
海はずっと静かにしていたので難なく終わり、椅子から立ち上がってぺこりと一礼する。
「ほら、一ノ瀬帰るぞ」
そう言って呆けた四季を引きずって部屋を出ていく海を追って守と桃華も部屋を出ようとする。
メアリーは守の肩を掴み、耳元で何かを呟いた。
「…わかってんだよ。メアリーさん」
少し俯いてそう言うといつも通りの守に戻って妹達を追っていく。
階段を降り、団地から出ると海は四季の肩を担いで守達と別れた。
団地のベランダではメアリーが海と四季を眺めながら独り言を言っている。
「いたいけな少年少女には言いづらいよなぁ…」
その瞳には憐れみと悲しみが籠っており、唇からは溜め息が零れた。
「鬼神の子は長生きできない…。良い思いしても良いんだぜ?少年少女…」
メッセージで言われた待ち合わせ場所に行くと、もう神門が待っていた。
「こんばんは、神門さん。お待たせしてしまってすみません」
「大丈夫だよ。…ねぇ、ミオさん、ナツ、目イってない?」
「少々事情がありまして…。どこに行きます?」
「映画とかどうかな?」
心ここにあらずの四季を強めにひっぱたいてから連れていく。
映画を選ぼうとすると、あるポスターが目に映った。
「これとか、どうでしょう」
「それにしよっか。アクション系かな」
ワクワクしながら入っていった海達だったが、アクション系だったのは見た目だけ。中身は戦争の最中で幼馴染みと戦うことになってしまうという涙必至の物語だった。
ファミレスに三人で行くと四季はえぐえぐとテーブルに突っ伏して「聞いてねぇよ~」と大泣き、隣では海もパンフレットを抱き締めて静かに涙を流している。
神門はそんな二人にとある質問を投げ掛けた。
「ねぇ、もし戦場で会ったらどうする?」
冗談だとしても、あるかもしれない話ではあるので考えたくはない。
海が答えるのを躊躇っていると、四季は「好きじゃねぇな。冗談でも」と神門に言った。
「架空の話だからさ。言ってみてよ」
「そうだなぁ…」
四季が語ったのは「争わずに、互いの上司をどうにかする」という夢物語。案の定神門に「架空が過ぎない?」と言われていたが「質問が架空なら答えも架空で良い」と言い返す。
「けど」と四季は少し身を乗り出して言った。
「もし許せねぇ奴がいたら、そいつは…殺る」
背中をぞくりと何かが走っていくような感覚が海を襲う。スカートを握りしめ、隣の四季を少し見上げる。
(一ノ瀬、いつもと違う?)
神門はそんな様子の海に「ミオさんは?」と聞いてきた。
「わた、しは…」
友人は大切だ。殺したくない。けれど、海にとってそれよりも大切なものは『家族』だった。
あの人達を傷つけられたら、きっと、その時は。
「よほどじゃない限り、ナツと一緒です。…でも」
胸の辺りを握りしめて言葉を絞り出す。
「家族を傷つけたら、許すことはきっとできません」
海の答えに神門が「…そっか」と返した直後、神門のスマートフォンが音を立てた。
上司に呼ばれたらしく、慌ただしく出る準備をしている。
「ファイトです。神門さん」
「頑張れー!」
「うん、ありがとう。またね」
神門が出ていくとすぐに海のスマートフォンが鳴り出した。画面には『姉さん』と書かれており、海は慌てて通話ボタンを押した。
「兄さん、今帰るとこ…」
『緊急事態発生。桃が動く。ナツもいる?』
「あぁ、いるが…」
『すぐに帰ってきて』
姉の声音は焦りと心配を孕んで海の耳に届いた。
四季にもその旨を伝え、二人でファミレスを出た。
海は走りながらスマートフォンを握りしめているしか無かった。
こんにちは。作者です。
やっとアニメに追い付きそうです。
リクエストが来なくてコメント欄が閑古鳥鳴いてます。ください。リクエスト。何でも良いので。
いつもブックマーク、いいね、ありがとうございます。これからも読んでくださると嬉しいです。
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