夜、動画編集を終えてリビングに戻ると、ソファに座っていた初兎があくびをしていた。パーカーの袖を指先まで伸ばして、うさぎのぬいぐるみを抱えている姿が、やけにちんまりして見える。
「おつかれ、初兎。眠い?」
「ちょっと……。てか、まろちゃん、あれまだ食べてないの?」
初兎がちらりとキッチンのほうを見た。昼間、棚の上から取ってもらったお菓子だ。
「忘れてた。食う? 半分こしよ」
「……うん」
いふが袋を開けて、ひとつつまんで初兎に渡す。初兎は素直に受け取り、もぐもぐと口にする。そのとき、ふといふの視線に気づいて、目を合わせる。
「……なに」
「んー……かわいいな、って」
「またそれ……!」
「でもマジで思ってるから。ちっちゃいし、反応素直だし。俺がなんかするたび、顔に出るのも好き」
初兎は何か言いかけて、口をつぐむ。そしてふいに、いふの隣にごそごそと移動した。
「……じゃあ、まろちゃんがその身長差使って、なにかしてみせてよ」
「ん?」
「言ったやろ。15cmの差で、なにかできるって」
――挑発か、甘えか、はたまたその中間か。
いふはにやりと笑って、初兎の頭をぽん、と撫でた。そこから肩を抱いて、そっと引き寄せる。
「じゃあ、こうしても文句ないよな?」
「……っ、ないけど……」
肩にもたれる形で、初兎の頭がいふの胸元に落ち着いた。心臓の音が、やけに近く感じる。
「まろちゃん、ずるい……」
「初兎がそうさせてんだよ」
照れくささも、心地よさも、全部その15cmの差が運んできた。
距離があるほど、寄り添いたくなる。
そんな夜の、ささやかな幸福。
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