テラーノベル
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それは、僕が義兄の行きつけだというバーに連れて行ってもらった、2度目の出来事だった。
「……あれ」
ふと目を引かれたその席は、カウンターにポツンと、何かのカクテルが入ったグラスだけが置かれているのだ。
「どったの、はるちゃん」
「いえ……」
僕の視線の先にあるその席を見ても、義兄は何も言わずナッツを食べている。
「あの、義兄さん」
「なぁに、はーるちゃん」
子ども扱いはもう慣れた。僕は苦い顔をしながらも、頼んだカクテルを舐めながら囁く。
「あの席、前回来た時も『グラスが置かれた空席』だった気がしたんですけど」
「そだっけ」
「義兄さんここの常連でしょ、カウンターにグラス置きっぱなしなんてあるんですかここ」
問いかけても、曖昧な笑顔だけが返ってくる。僕はふと思い当たることがあって、身を乗り出して聞いた。
「もしかして、イギリスなんかによくある『幽霊の席』だったり——」
「はるちゃん」
ぼそっと義兄は僕の言葉を遮って、それから続けた。
「そーいうのはね、口にして認知した瞬間、お客さんが一人減っちゃうから言わないものなの」
「えっとそれは、神隠し的な——」
んなわけないでしょ、とケラケラ義兄は笑う。
「他のお客さんの顔や素性をチラチラ伺うのはマナー違反でしょ。見えなくたって『そういう扱い』を受けてる時点で、そこにいるのは『お客さん』。はるちゃん、マナーは守んなきゃ」
「そういう、ものですか」
そーいうもんです、と義兄はビールを煽る。それから運ばれてきたポテトフライに塩をかけて食べ、顔を顰めた。
「しまった、塩かけすぎた」
コメント
1件
うわ、義兄さんの「口にした瞬間お客さんが一人減る」って台詞、めっちゃゾクッときた……! あの空気感、何も言わずにただグラスがあるだけで成立してる不気味さが好き。で、最後に塩かけすぎて顔顰めるギャップがまたたまらない。日常と非日常の境界をふわふわ行ったり来たりする感じ、すごく丁寧に書かれてて引き込まれました。続きも楽しみにしてますね🌙