朝の騒動︰
朝、凍はふと目を覚ました。
視界がぼんやりとする中で、隣に座っている紬が見えた。
「……?」
紬は何か話している。しかも、赤くなってあたふたしていた。
その相手は、同じ部屋の男の子と女の子だった。
起き上がると、紬と二人がこちらを向く。
「何の話してんの?」
凍は冷静に問いかけた。
すると、女の子が興味津々にズバズバと言ってくる。
「紬ちゃんと凍くんって恋人同士なの?」
凍は一瞬、眉をひそめた。
(……朝からこれか。)
完全に不機嫌になった凍は、短く毒舌を放った。
「お前嫌い。」
女の子は「ガーン!」とショックを受けた様子。
しかし、諦める気配はない。
「でっ、でも、そうなの?」
凍はため息をつくように言いながら、冷徹な目で答える。
「嫌いなやつの話は聞かなくていいんだけど……」
そして、紬を引き寄せる。
「そう見える?」
その瞬間、紬は一気に赤くなった。
男の子は「違うんだね!」と明るく言う。
凍は冷めた表情で淡々と答えた。
「そうだけど、引っかからないからお前もお前でつまんねー奴。」
しかし、男の子は気にすることなく、笑顔で自己紹介を始めた。
「僕の名前は温家宝 優太!おんかほう ゆうた!」
朝から予想外の会話が繰り広げられ、紬は混乱しながらも赤くなった顔を落ち着かせようとしていた。
温家宝 優太の自己紹介が終わると、紬はなんとなく落ち着きを取り戻していた。
しかし、凍はまだ少し不機嫌な様子で、腕を組みながらじっとこちらを見ている。
「……で?朝からくだらない話してたわけ?」
紬は「くだらない」と言われて、少しムッとする。
「別にくだらなくないよ!」
凍は少し挑発的な笑みを浮かべる。
「恋人同士かどうかなんて、どうでもいい話じゃね?」
優太はその言葉を聞くと、「えー、それが一番大事な話でしょ!」と元気に言った。
「いや、大事じゃねーよ。」
凍は冷めた口調で返す。
紬はこの会話が長引きそうな気がして、少しため息をついた。
「もういいじゃん。朝ごはん行こ。」
「紬ちゃんは恥ずかしいの?」
女の子がまだ興味津々で紬に問いかける。
「え、別に……!」
紬は赤くなりながらも否定する。
しかし、その様子を見て、凍がふっと笑う。
「顔赤いけど?」
紬は「もう!」と怒りながら、布団を整え始めた。
優太はニコニコしながら「とにかく、朝から楽しいね!」と明るくまとめる。
にぎやかな雰囲気の中で、女の子が遅れて自己紹介を始めた。
「遅れてしもたけど、うち浅香咲希だに!うち、島根の出身だけん、このしゃべり方でいくけんね!」
島根の方言がしっかりと響く。
紬は「わぁ、なんかいいな!」と嬉しそうに微笑んだ。
凍は特に驚いた様子もなく「ふーん」と静かに聞いている。
咲希はニコニコしながら、優太の方を見て「優太くんも自己紹介しとるし、うちも言っとこ思うたけんね!」と元気いっぱいに言う。
優太は「うんうん、それ大事!」と明るく返し、紬はそのやりとりを楽しそうに眺めていた。
凍は腕を組みながら「……別に誰がどこ出身でも変わらないけどな。」と冷静に言う。
すると咲希は「そげなこと言わんでー!」と軽くツッコみながら笑っていた。
自由練習︰
今日はリンクで自由に練習していい日だった。
紬、凍、優太、咲希の4人は一緒にリンクへ向かう。
「自由にって、どこまでいいん?」
咲希が興味津々に聞くと、優太が明るく答える。
「好きに滑っていいってことじゃない?」
紬は楽しそうに頷く。
「そうだね。でもせっかくだし、何かやる?」
凍はふとため息をついて、腕を組む。
「別に、俺は跳ぶだけだけど。」
紬は苦笑しながら、「凍くんはいつも通りだね」と言う。
4人はリンクの中心に集まり、練習のルールを決めた。
「じゃあ、一人ずつ滑って、その後みんなで鑑賞して良いところを言い合うってことでいい?」
紬が提案すると、優太が「それ、めっちゃいいね!」とノリよく賛成する。
「うちもそれでいいけんね!」咲希も楽しそうに同意。
凍は少し腕を組んで考えたあと、「まぁ、別にいいんじゃね?」と軽く言う。
こうして、**『スケート鑑賞』**の練習が始まった——。
どんな技が飛び出すのか、ワクワクしながら4人は順番に氷の上へ——。
最初は紬から。紬はゆっくりとリンクの中央へと滑り出す。
その動きは、まるで蓮の花が静かに水面に広がるような柔らかさを持っていた。
スピードこそ速くはない。 しかし、彼女の動きには人を惹きつける繊細な美しさがある。
観ている優太と咲希は、すぐにその優雅な雰囲気に引き込まれた。
「紬ちゃん、やっぱり綺麗やなぁ……!」
咲希が小さく感嘆の声を漏らす。
紬はその表現を保ったまま、滑らかに踏み切る。
2回転フリップ+サルコウ!
氷の上に舞うようなジャンプ。
紬の得意なコンビネーションが、静かに美しく決まった。
ルール的にジャンプの数は何回でもいい。
紬が終わって優太にバトンタッチ。
リンクの中央に立った優太は、真夏の太陽のようなエネルギーをまとっていた。
「見ててね!」
宣言すると同時に、一気に加速する。
スピードは速い。 勢いのあるスケーティングから、ジャンプの幅を大きく取って踏み切る——。
3回転サルコウ!
空中でしっかりと回転し、着氷した瞬間、流れるように次のジャンプへ。
3回転ルッツ!
リンクを広く使いながら、力強く跳ぶ。 その後も勢いを緩めることなく——。
2回転ループ!
スムーズな流れで、着氷する瞬間まで優雅なコントロールを保っていた。
「うわっ、ジャンプの幅すごっ!」
紬が思わず感嘆の声を漏らす。
咲希も「ほんまにダイナミックやなぁ!」と驚いている。
凍は顔をしかめて、一言。
「…面倒くさ。」
優太は息を整えながら、笑顔を見せる。
「僕、ジャンプよりスピンのほうが好きなんだよね。」
優太が軽く言うと、紬と咲希は少し驚く。
「え、ほんま?」
「さっきめっちゃ跳んでたのに?」
咲希と紬がそう言うと、優太はちょっと苦笑しながら答える。
「まぁ、跳ぶのはできるけど……やっぱりスピンのほうが楽しいかな!」
そう言いながら、優太はリンクの中央に進む。
スピンの準備に入ると、雰囲気が一変する。
彼の動きは一気に流れるようになり、スピンのポジションへ——。
キャメルスピン!
長い軌道を描くように優雅に回る。
シットスピン!
スピードを落とさず、コンパクトな形に移行。
優太のスピンは、まるで熱く燃える太陽が回転しているように見えた。
咲希と紬は思わず拍手する。
「めっちゃ綺麗やなぁ!」
紬も微笑んで「スピードも安定してるね!」と感心する。
凍は腕を組んで一言。
「……まぁ、そっちは得意なのか。」
優太は得意げに笑いながら、リンクの端へ戻る。
次に凍へバトンタッチ!
凍がリンクの中央に立った瞬間、空気が変わる。
漆黒の夜のような静寂。
今まで以上に圧が強く、ゾクッとするほどの緊張感が走る。
無駄な動きは一切ない。 ただ静かに、研ぎ澄まされた視線がリンクを捉える。
踏み切り——。
3回転アクセル!
完璧な高さ、ブレのない回転。 着氷した瞬間も、鋭く氷を切るような動きで止まらない。
そこからすぐに——。
3回転アクセル、連続4回!
圧倒的なジャンプの精度。 連続する大技に、優太は笑顔を絶やさずに見ているが紬も咲希も息を飲んでしまう。
最後の跳躍——。
4回転ルッツ!
鋭く踏み切り、空中で回転。 強靭な着氷とともに、静かに動きを止める。
凍は何事もなかったかのように氷を蹴り、リンクの端へ戻る。
「終わり。」
静かにそう言った。
しかし、その場にいた全員が、ただ圧倒されていた。
その瞬間、優太はぼそっと言った。
「……これ、俺ら褒めるとこある?」
紬が「あるよ!」とすぐに反応するが、優太は腕を組みながら首をかしげる。
「いや、もう凍くんのジャンプって、どこを褒めるとかじゃなくて完成形じゃない?」
咲希も「うちもそう思う!」と笑いながら同意。
凍はリンクの端で腕を組みながら、優太に向かって言った。
「……当たり前だろ。」
挑発的な口調。
しかし、優太はまるで何も気にしないように笑っていた。
「うん、凍くんはそう言うと思った!」
軽く流された。
凍は一瞬だけ眉をひそめるが、すぐにどうでもいいとばかりに視線を外す。
しかし——紬は違った。
挑発的な言葉を聞いた瞬間、紬の心は揺れる。
(……なんか、凍くんの言い方、ちょっとドキッとするんだけど。)
わかってはいる。 ただの凍の性格。 けれど、なぜか心が反応してしまう。
凍はふと紬を見て、口元にうっすらと笑みを浮かべた。
「紬、お前はどうなんだ?」
紬は突然の問いかけに戸惑い、思わず赤くなる。
「えっ、な、なにが……?」
「……まぁ、いいけど。」
凍はそれ以上何も言わず、リンクの冷たい空気の中で静かにスケート靴のエッジを整えていた。
次に咲希がバトンタッチ!咲希は野原を駆け回るうさぎのようなリズム感の良さがあった。
まるで、跳ねるうさぎのような動き。 氷の上でも、そのステップは心地よく弾みながら続く。
紬は「音楽とぴったり合ってるみたい!」と感心し、優太も「リズムに乗ってる感じがすごい!」と驚く。
凍は腕を組みながらやっぱり…
「跳びすぎじゃね?」
紬は凍の一言に対して苦笑いをしながら「凍くんに言われたくないけどね!」と言った。
咲希は笑いながら「うち、跳ぶの好きやけんね!」と元気よく言い、再び踏み切る——
3回転トウループ+2回転ループ!
リズムを崩さず、流れるように次の動きへ。
彼女のジャンプは足から氷上までの距離が近い。 しかし、それでもしっかりと跳び、空中でのコントロールを保っている。
2回転フリップ+2回転ループ!
軽やかに跳びながらも、リズムは崩れない。
紬は「すごい!ちゃんと跳べてる!」と目を輝かせる。
優太も「足の使い方がうまいね!」と感心する。
しかし、凍は腕を組みながら冷たい目を向けて、一言。
「……お前、跳んでるっていうより、氷にしがみついてね?」
挑発的な毒舌。
咲希は「えっ、なんで!?ちゃんと跳んでるやん!」と慌てて言い返す。
凍は口元をわずかに歪ませながら、さらに言葉を重ねる。
「……いや、まぁ飛んでるっちゃ飛んでるんだけどさ。」
「飛距離短すぎて、もう氷に未練あるみたいだよな。」
紬は「ひどい!」と言いつつも笑いをこらえ、優太は「凍くん、それ言い方!」とツッコむ。
咲希は「未練なんかないわ!」と真っ向から反論するが、凍はすでに視線を外していた——。
凍は腕を組みながら、静かに優太へ視線を向ける。
「優太。だっけ?」
優太は「うん!」と元気よく頷く。
すると、凍は冷静な声で続ける。
「……優太は7級、上がったばっかりだろ。」
それは嫌味もなく、ただ事実を確認するような口調だった。
優太は「そうだよ!」と素直に答える。
しかし、次に咲希へ向けられた言葉は違った。
凍は冷徹な目で咲希を見て、一言。
「お前は5級じゃない?」
咲希は驚いて「えっ、なんでわかったん!?」と声を上げる。
凍は淡々と答える。
「動きでわかる。」
紬はそれを聞いて、「……すごいね」と小さくつぶやく。
それはただの観察ではなく、正確な分析。 嫌味ではなく事実として言い切る凍の冷徹があった。
咲希が興味津々に聞いた。
「つむちゃんと凍くんはなんなん?」
紬は柔らかい笑顔を浮かべながら答える。
「6級。」
凍は少し面倒くさそうな表情をしながら、淡々と答えた。
「7級。」
その瞬間、咲希は「あー!」と残念そうな声を上げる。
「うち、この中で一番下の級だけんー!」
肩を落としながらも、すぐに元気な声で笑った。
しかし——そこで優太が勢いよく言う。
「やった!凍くんと同じ級ってことは……戦えるよね!」
挑発するような明るい声。
凍はちらりと優太を見た。
「……いや、お前と戦う気はないけど。」
あくまでも冷静な口調だったが、優太はそんなことは気にしない。
「でも試合になったら対戦するよね!負けないよ!」
凍は少し眉をひそめながら「勝手に言ってろ」と言い、氷の上を軽く蹴るように進んでいった——。
夜のリンクと意外な滑り︰
夜。
お風呂から上がったばかりの紬は、静かな廊下を歩いていた。
すると、どこからか微かな音が聞こえてくる——。
リンクの方からだ。
(こんな時間に……?)
不思議に思いながら、紬はそっとリンクの様子をのぞいた。
そこには、凍の姿があった。
一人。
冷たい氷の上で、ただ静かに滑っている。
スピードを上げるわけでもなく、淡々と跳んでいる。
夜の静けさの中に響く、スケート靴のエッジが氷を切る音。
紬は思わず息を飲んだ。
(なんだろう、この雰囲気……。)
昼間とは違う凍の姿。 まるで、誰にも見せるつもりのない動き。
紬は、ただその場でじっと見つめていた。
紬はリンクの端からじっと見つめていた。
夜の静けさの中、氷を刻む音だけが響く。
凍は淡々と滑っていた。
しかし——突然、動きを止め、紬の方へ視線を向ける。
「……入って良いぞ。」
静かにそう言った。
紬は驚いた。
(気づかれてた……。)
見つめていたことが、何もかもわかっていたかのような口調。
紬は少し躊躇う。
このまま入るべきか、それともただ見守るべきか。
夜のリンクで、凍の声だけが響く。
紬は一瞬だけ迷った。
しかし——すぐに決めた。
迷わずリンクに入る。
氷の冷たい空気が肌に触れる。 夜の静けさの中で、凍がじっとこちらを見ている。
「……なんでこんな時間に滑ってるの?」
紬はゆっくりと問いかける。
凍は一度視線を外し、淡々と答えた。
「別に。そうしたかっただけ。」
紬はその言葉を聞いて、リンクの中央へと進む。
夜のリンクに2人だけ。
凍の静かなスケートに、紬は何か感じながら——その場に立っていた。
静かなリンクの端。
凍は紬の横に座り、視線を落としていた。
「なんで優太ばっかりにかまうんだ。俺もいるじゃんよ。」
冷静な声。 しかし、その言葉はどこか誠実だった。
紬は思わず凍の顔を見た。
続けて——
「優太とかばっかりじゃなくて、俺も褒めてよ。」
凍はそう言いながら、ゆっくりと紬の方を向いた。
その顔は、ほんのり赤く染まっていた。
紬はその瞬間、一気に固まる。
(……ん?)
(どういうこと?)
(これって、友達として普通のこと……?)
そして——気づいてしまう。
(もしかして……嫉妬?!)
その考えが脳内を駆け巡った瞬間、紬の顔も一気に赤くなった。
凍の言葉が静かに響く。 夜のリンクで、2人の距離が少しだけ近づいた。
紬の無言が続いた。
凍はじっと紬を見つめ、静かに言う。
「……無言だと困るんだけど。」
その声は少しだけ不満げで、しかしどこか落ち着いていた。
そして——
キュッ。
紬の浴衣の袖を、凍はさりげなく握る。
その手の力は強くなく、ただ確かに存在を伝えるような感触だった。
紬は驚いて顔を上げた。
すると、凍はまっすぐに彼女を見つめながら言う。
「紬は『俺だけ』のライバルだろ。」
静かな声。 しかし、その言葉には強い意味が込められていた。
紬は息をのんだ。
「だから——今からのスケート、見てて。」
凍は浴衣の袖をそっと離し、リンクの中央へと進んでいく。
夜の静寂の中で、紬はその背中をただ見つめていた。
紬はじっとリンクの中央を見つめる。
凍は、いつもとは違う雰囲気をまとっていた。
ふんわりとしたポーズ。
氷上に立つその姿は、鋭さではなく、優しさを感じさせるものだった。
滑り出す。
2回転ルッツ。3回転ループ
アクセルは使わず、2回転や3回転だけ。
繊細な足取り。 ゆったりとしたスケーティング。
まるで——木漏れ日を見ているようだった。
紬は思わず息をのむ。
(……凍くんも、こんな綺麗な滑りをするんだ。)
昼間の鋭いジャンプとはまるで違う。
静かで、優しく、それでも確かに彼らしさが滲んでいる滑り。
紬はその姿に、ただただ見惚れていた——。
リンクから戻ってきた凍は息を切らしながら、紬に問いかける。
「どうなの。」
紬は焦って答えようとする。
「すごくゆったりとしてて、いいと思っ——」
その瞬間、凍の人差し指が紬の口元に当てられた。
「大丈夫。そんなに焦らなくていい。」
誠実な声。
紬は驚きながらも、落ち着きを取り戻す。
「……うん。すごく綺麗だった。繊細なエッジの使いが良かったと思う。誰よりも。」
凍は静かに紬の言葉を聞き、一言だけ答えた。
「うん。」
そして——優しく微笑んだ。
紬はその表情に、思わずドキッとする。
見たことのない、柔らかい笑顔。
しかし、凍はそれ以上何も言わず、そのまま部屋へ戻っていった——。
つづく
コメント
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時間大丈夫?もういかないとダメじゃない?
確かによっしーに賭けるのは私でも嫌だwww
ハチ公いなくなったらめっちゃ私も「😭」 もっとハチ公の面白い話聞きたかった〜🥺 でも、まだやめたかどうかはわからないよね。ポジティブ思考になろう!(まぁ私も悠ちゃんがト◯◯ボーンやめたら🥺だけどね。)