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舌に紋章 yrch
「失礼します」
そう言って、重くできた扉を押して入る。
すると目に入ってきたのは広い部屋の真ん中。真っ白な円卓を囲い、各々折り紙を折ったり爪に色を付けたり、本を読んだりと自由にしており一人の女が手を振る。
「久々李〜!こっちこっち!!隣空いてるよ〜」
俺の名を呼びながら、空いてる隣の席をトントンと叩く斗斗。その行動から、折り紙に目を向けていた昼彦が顔を上げる。
「久々李、遅刻じゃん。めっずらし」
「たまたまだ」
「ふ〜ん、そっ」
興味を失ったのか、昼彦は長い髪を流しながら折りかけの折り紙へと目を向ける。
「幽は?」
「まだ来てないよ、少し遅れるとは言ってたかな」
「そうか」
斗斗に招かれた席に座り、ぽっかりと空いてるこの部屋の一番奥の席へと目を向ける。
ここは、数ある隠されたアジトの中のひとつで、数日前に毘灼の要である人物から、突然招集が掛かった。
長年かけて計画した作戦も、大詰めまできている。何か次の指示でもあるのだろうかと思いながらやってきたのだが、呼んだ本人の到着はまだのようでそんな話をしていると遠くから足音が聞こえた。
キィィィと扉が開く。
皆がそちらに目を向けると、そこにはさっきまで話題に上がっていた幽が立っていた。
「遅れてすまない」
そう言って、革靴の音を鳴らしながら奥の空いた席に座り俺たちを見ては本題から入ろうと言う。
「今回集まってもらったのは、皆の承認を貰いたいからだ」
「承認?」
真っ先に聞き返したのは、先程まで折り紙を折っていた昼彦だ。
今は、何を承認するのかと緩く椅子に座って問いかける。そんな立場が上の人にするには失礼なことだが、当の本人は気にしていないのか目元を緩めそうだと頷く。
「皆のおかげで、目的を達成する為の計画は着実に進んでいる。そんな中、より確実にする為に戦力を増やそうと思ってな…」
そう言って幽は、長い指でトントンと机を叩くと。
「六番の封印を解く承認が欲しい」
「六番!?」
「まだあの子には早いんじゃない?」
「あいつをか!?」
幽が口にした言葉に、椅子から立ち上がって反応する斗斗や目を見開いて驚く昼彦。
俺は、あの子供の姿を思い出して叫んでしまった。
各々の反応を想定していたのか、あぁそうだと幽は言う。
「あの子も、そろそろ外の世界を知るべきだ。ずっと箱庭の中だけだと飽きてしまうだろ?」
昼彦もそう思わないかと問いかける幽に、ポンと掌を叩いて昼彦は笑う。
「そうだね〜!六番を外に出してもいいかもしれない。それに、俺も妖刀を手に入れたんだ。一緒に戦いたいな〜」
あっさりと承認した昼彦に、そうだな検討しようと言いながら次に斗斗の方へと目を向ける。
「斗斗は反対か?」
「反対だよぉ〜、あの子無理しないか心配だもん。それに神奈備に捕まっちゃうかもしれないよ?」
「今の妖刀契約者の護衛に力を入れて、全体的に戦力ダウンした神奈備は何も出来やしないさ」
「ふ〜ん、そっか。じゃあ私も承認するよ」
たまには私と一緒の任務を入れてねと付け加えた斗斗。
「あぁ、分かった。そのように検討しよう」
これで二つの承認を得られた訳だ。次は俺の番かと構えていると、幽がお前は何を求めると目で訴えてくる。
「俺は…彼奴の指導者だ。最初の頃と比べると良くなった。が、まだ完全な状態とは言えないだろう…」
師として、あの子に剣術とはと叩き込む日々を思い出す。突然連れてこられたあの日。幽の後ろで、なんの感情も移さない瞳で刀を握りしめ、じっと見つめてきたあの子。
最近は感情は出さないものの、自分の中に上手く落とし込んで剣術の腕を着々と上げている。
そろそろ、次の段階に行くべきか悩んでいた所でもあるからな。
うーんっと、顎に手をやり考える。そんな俺をじっと見ながら幽は待っていた。
「そんなに悩むならいいじゃん。六番を出そうよ」
「そうだよ、久々李がそんなに悩むなら私と同じように組んでもらえばいいじゃん」
昼彦や斗斗が承認したらと促す。
片目だけ開いて幽の方を見ると、コクリと頷いてそれも検討しようと言う。
近くで弟子の姿が見れるのであればと思うとありか。
「…………分かった。承認するッ」
渋々だが、俺は承認した。まだ、様子を見ていたいところではある。
机の上で白くなるまで絡ませ握った手を、見てはゆっくりと力を抜きつつ。剣士なのだから手に傷を作ってはと反省した。
「よし、これで全ての承認を得ることができた。ありがとう」
それではと、幽は結んだネクタイを締め直し次の指示を各々に下してその日は解散となった。
===
ここは、特殊な妖術で隠された部屋。
あの子の為にと作った世界。日本屋敷のような構造となっているこの空間で、慣れた足取りで奥へ奥へと足を進める。
長い廊下を歩く、あの子はどこにいるのかとまずはキッチンへと入ってみるが姿はなく。
ならばと、寝室へと向かってもそこにはいなかった。
さて、あの子はどこへと畳のある部屋へと障子を開けて入る。
すると目の前に広がる畳の奥、縁側に刀を抱えて座っているのを見つけた。どうやら、日向ぼっこをしながら外を見ているらしい。
(ここにいたか)
こちらに気がついていないのか、こちらに目を向けることはなかった。そんなあの子の元へと向かうべく、太陽の当たっていない少し冷たさを感じる畳を踏みながら近づく。
「チヒロ」
愛しさを込めてその名を呼ぶ。
すると、庭先へと向けていた瞳がくるりとこちらへと向いた。
「おとうさん」
感情がないまま、光のない瞳で俺を見る。
感情がないのは、六平千鉱は攫い時間をかけていらない情報を消し、洗脳を施した為の副作用からだろう。千鉱の隣に腰掛け俺の次の言葉を待っている。
するりと、千鉱の頬へと紋様のある手で撫でると擽ったいのか少し目を細め自分からスリスリと擦り寄ってくる。
「六番の契約を破棄する。そして、これからは外の世界で俺たちの手伝いをしてくれないか?」
何を言ってるのと言った目でじっと見つめ返してくる。
「いいの…?六番…淵天の使用許可をだして…」
「あぁ、淵天を使い思う存分暴れてくれると助かるのだが…どうかな?」
おとうさんを助けておくれと、千鉱の額と俺の額を合わせて言い聞かせる。
すると、千鉱はいいよぉと舌足らずな感じで頷き俺の唇にキスをする。
「千鉱…」
「見てて…俺。おとうさんの役に立ってみせるよ」
「そうか、父さんも嬉しいよ」
さっきまで肩の上に置いていた手を、頭や頬へとやり撫で回す。
この箱庭は作り物だ。
太陽だって、虫や動物植物に至るまで妖術で本物近くまで作り上げている。それを受け入れ過ごしているのだろう。
俺と千鉱以外存在しないこの世界に閉じ込めておきたいが。外の世界で、血に濡れ染まった千鉱の姿を目に焼き付けたい。
「千鉱…俺たちの印を見せてくれ」
そう言うと、少し考える素振りを見せてはべーっと舌を突き出した。
その舌には毘灼のメンバーが手に付けている紋章があり、印が舌の紅赤と唾液で濡れ黒色の印が際立つ。
「ひゃいじょうぶですか……?」
印を見せているのに、何も言わない俺にまだかと小首を傾げた。
「ひゃの…」
下から見上げる紅い瞳と目が合って、そんな瞳に吸い込まれそうになる。
そんな儚さと怖さを兼ね備えた千鉱の握っていた刀の柄当たりを掴んで封印していた紐を燃やす。
「千鉱…お前を愛しているよ」
そう言って小さくぷっくりとした唇に触るようなキスをした。
悪夢のその先 knch
またこの夢か。
ある日を境に、毎晩同じ夢を見るようになった。
それは必ず決まって、何も持たず素足で立っていて、周りに人気などなくただ青く澄み渡った空と周りには瓦礫や植物が生い茂っているだけの場所から始まる。
毎回自分の両手を見ると、現実とは違い小さくて身長も縮んだのか視線も低い。
なんとなく、意識ははっきりするどころかぼぉっとして力が抜ける。
(またこの夢だ…)
何回も繰り返し見るようになってから、ひとつ気がついたことがある。
それは、ある程度この空間で過ごさなければ夢から目覚めないということだ。
ただこの夢から覚めるには条件があるようで、寝転んで過ごしたり落ちてるモノを触って遊んだりしてるだけではダメだった。
必ず探索すること。これがこの世界の縛りだった。
とりあえず、いつもの通りこの夢から覚める為に散策しようと歩き出した。
この世界では声を出すことができない。ある時、俺は誰かいないのかと叫ぼうとした。
「……っ!?」
すると出てきたのは、言葉にもならない掠れた音だけ。驚いて自分の喉を触れたり、口を何回か開いては声を出そうとしたが無駄に終わった。
そこから声を出すことは出来ないけど、他のことはできるから木の枝振り回したり木下で座って休んだりと過ごす。
今日も淡々と歩みを進めては、新たな発見がないものかとくるくる廻り探す。
すると暫くして、今までにはなかった鋭い誰かの視線を感じた。
(誰だ…?)
キョロキョロと周りを見渡しても誰もいない
視線の先に目を向けても、そこはただの瓦礫の山で人らしき気配はない。
気味の悪さを覚えながら、俺はまた次の場所へと足を進めた。
奥へと進むと、そこは今まで行ったことがにない場所にたどり着いた。
まだそんなところがあったのかと、持っていた木の枝を地面に置いて近くから見ていく。
二人寄りかかった骸骨や、地面に転がる頭蓋骨。細い骨から、大腿骨と一部崩れ落ち砂と化しているものまで転がっている。
そして、その周りには草花が生え覆い隠している。
(この骸骨は、親子かな…)
突然、ひゅぅっと生ぬるい風が頬を撫で、今までに無い圧を感じるようになり背筋に冷や汗が流れる。そんな俺の目の前を黒い蝶がヒラヒラと横切った。
いつの間にか握りしめていた手は、真っ白になって爪が手の肉を切っていたようで赤い血が少し流れていた。
(ここは…嫌だッ…早く逃げないと)
そう思い、引き返そうと体の向きを変えようとしたときだ。
何故か、体がびくともせず体の向きを変えるどころか、糸で引っ張られているかのようにふらふらと前へと足が向かう。
(何故……!?)
止まれ止まれと思っていても止まることなく、ずっと頭の中で警報が流れている。
これ以上行くな、戻れなくなるぞ。危険だ、何があるか分からないと次々思考が埋まっていく。そんな、自分の意思を無視してどんなに足を止めようとしても、言うことを聞かず何かを掴もうとしても腕一つ動かない。
(何故だ…?前はこんなこと無かったのに…!?)
今までになかった事が、突然起こって不安と焦りで心が埋め尽くされる。
そうこうしていると、瓦礫の山をくぐり抜けた先にある開けた場所へとたどり着いた。
立ち止まり、正面を見ると誰か白い着物を着た人が座っているのが目に入った。
(誰だ…)
俺以外の人が現れることなんて今までなかった。
なのに、向こうにいる人は立て膝で地面に座っていて何処か宙を見ている。
それに俺には気がついていないようだ。ここは去った方がいい。そう思い、立ち止まっていた足を後ろに一歩だそうとしたその時だ。
パキッと地面にあった小枝を踏んで音を出してしまった。
(しまったッ…!!!)
俺は慌てて、向こうの人の方へ目を向けると座っていた人が俺の方へと顔を向ける。
少し離れた距離だというのに、その人は俺の目をジッと見ているような気がして。
やばい、逃げなきゃと思ったときにはもう遅く。足下には、蜘蛛の巣のような黒いのが現れ身動きがとれない。
(何故!?)
無理矢理動かそうとしても、びくともしないしいつの間にか座っていた人がゆっくりと俺の方へと向かってきている。
(動け動け動け動け動けっ!!動け!!!!!!)
どんなに願っても動くことが叶わず、奥歯をぎりっと噛みしめ力を更に入れる。
もう目の前まで来ていたその人は、肩まで髪を伸ばしていて表情は見えないが男のようだった。
(どうするっ…この地面にあるのは何かの妖術か…?!)
ということは、目の前の奴は妖術師…。いやそれだったら何かしら印を結ぶはず。
男の顔が逆光で影になっていて、表情が何一つ読めないから何を考えているのか分からず更に恐怖を感じ目線を地面へと向ける。
「…………お前国重の倅か」
やっと口を開いたかと思ったら、低い押しつけられたような声で父の名を言う。
はっと、目を上へと向けると影の中から渦巻いた目がジッと俺を見下ろす。
(なんで父さんの名前を…)
ぎゅっと自分の手を握りしめながら、足は動かないかと確認するといつの間に消えたのか地面の蜘蛛の巣がなくなっていた。
(今だっ!!)
これをチャンスとみた俺は、男の方を一切見ずに、体を来た道の方へと向けて走り出そうとした。
が、左腕を握られたかと思ったらぐいっと張られ男の胸に頬をぶつける。
「何処へ行く…」
さっきの時とは違い、俺の体は元に戻っていて少し上を向くだけで男の顔が見える。恐る恐るそちらに目を向けると、男はにやりと口元を歪ませ舐めるように俺を見ていた。
そして俺の腰に角張った手を回し、顎をくいっと掴むと目が合うように上を向かせた。
「はっ……離せっ!!」
やっと出せた声は、少し掠れていてはいたが男に向かって吠える。
「今更逃がすと思うか…?」
男がそう言うと、足下に生えている植物たちが俺の足首に絡みつく。まるで逃がさないと言うかのように。
傷のある左頬に手を伸ばすと、愛おしむように撫で乾燥してかさついた唇が俺の唇と重なる。
「んっっ……!!」
重なる唇が離れたかと思うと、べろりと舌が唇を舐めそのまま俺の首へと向かう。
男が俺の右側に顔を埋めると、生ぬるい舌が一円を描くように舐めるとジクりとした痛みが走った。
「っっっっっ!!!離せっ!!!」
目には涙の膜が張り、痛みと恐怖で体が震える。いいから、早くこんな夢から目覚めさせてくれ。早く早く終わってしまえと強く願う。
それが伝わったのか、徐々にこの夢の世界から意識が遠のいて行くような気がした。
(あぁ、やっとこの悪夢から解放される…)
痛む右側の首を押さえながら、ぼやけていく世界に瞼を閉じようとしたその時だ。
耳の近くに何か近寄ってきたかと思ったら、さっきまで話していた声が響いた。
「剣聖…この名だけ覚えておけ。またな」
その声を聞きながら、俺は暗い暗い闇のそこへと堕ちていった。
「はっ………はぁ…はぁ…」
飛び起きると、寝ていたところや寝間着が寝汗でびっちょり濡れていた。
震える手を見ながら、呼吸を整えようと自分の体を抱きしめて寝間着の袖を握り深呼吸をする。
剣聖…真打の契約者。確か今は神奈備に存在自体隠されているはずだ。それに俺とは面識がないはずなのに、何故奴が俺の夢の中に出てきたのか。それにあの時見た景色。楽座市でみた光景と似ているような気がする。
そんなことを考えていると、ジクりとした痛みが右側の首に走る。そっと手を添えると、何もついていない。
洗面台へと汗で重くなった寝間着を持って行く。ついでに鏡を見ると赤黒く痣のように腫脹していて、掴まれていた左腕にも手形のような痕がついていた。
まるで夢のことを忘れるなと言わんばかりに。
「剣聖……お前は何がしたいんだ」
あの時重なった、剣聖のひび割れた唇の感触を忘れるように俺は自分の指でなぞり目を背けた。
「惜しいことをした………が、まぁいつか巡り会うだろう」
またあの子供…国重の子には会えるだろう。それに、妖刀契約者共が動き出し、真打を狙う組織があり上は活発に動き出した。
俺が自由になるのもそう遠くないはずだ。
その時には、俺が迎えに行きこの地獄へと墜としてやる……。
円柱に囲まれ何もない部屋の中心で、剣聖は今までにないくらい笑い声を響かせたのだった。