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支援計画案青柳凛。三歳七ヶ月。
自閉スペクトラム症。中度知的障害。
課題①興味関心の幅が狭い
本児の意思を尊重しつつ、声掛けや身振り手振りにより、他の物に意識が向くように働きかける。
課題②癇癪を起こしやすい
パニックを起こしている間は見守り、落ち着いた頃に声掛けを行う。本児が癇癪を起こした理由、気持ち、切り替えの言葉。保育士はそれらを言葉を伝え、感情を言葉に出すように促していく。
課題③こだわりが強い
こだわりの対象である母親と離し、こだわりの軽減。
療育日誌
十一月五日(水)
母子分離一日目。
一分ほどで、母親の不在に気付く。砂を投げる。大声で泣く。分離時間五分。母の姿を視認後、砂遊びに戻る。
次回目標は十分。
十一月七日(金)
母子分離二日目。
また一分ほどで、母親の不在に気付く。大声で泣く。分離時間十分。
次回目標、十分。
十二月二十六日(金)
母子分離二十二回目。
五分ほどで、「いないこともある」と自ら声に出す。精神安定を図る為か、自ら砂遊びを始める。
次回目標、完全母子分離。
一月五日(月)
完全母子分離、一日目。
うさぎのぬいぐるみを投げ、頭を叩く。一時間ほど続く。母親不在の時間が違うことに、パニックを起こした様子。活動は不参加。窓より外の景色を眺めている。三回ほど声をかけるも再度パニックを起こし泣く為、三歩ほど離れ様子を伺う。
昼食 安全の為、他の園児と時間を変え対応。お弁当の白米ただ眺め、スプーンを投げる。一時間ほど床で寝転び泣く。
食事を促すと食べ始め、一時間ほどで完食。
母親の迎え時間まで、個室でうさぎのぬいぐるみを抱き締めて過ごす。
三月二十七日(金)
母子分離三十四回目。
登園後。自ら母親の手を離し、おもちゃ箱に入っていたうさぎのぬいぐるみを抱き締める。母親の呼びかけに反応はないも、帰っていく背中をただ眺めていた。
朝の会での名前呼びに、目を逸らしながら手を上げる。
体操の時間、保育士の動きを観察する。
園庭遊び、砂を遊びをする。
自由遊びで、うさぎのぬいぐるみに布をかけ、寝かせるようにトントンと叩く。
母親の声に顔を向け、眺めている時間が増えた。
私が療育日誌を閉じると、ヒラっと落ちていく一枚の紙。拾い上げるその紙は希望調査表。次回の支援計画を立てる為に保護者に記入してもらっていて、そこには綺麗な字で書かれた母親の願いが記入されていた。
お子さんには、どのように成長して欲しいですか?(例 相手の話が聞けるようになって欲しい 偏食を減らして欲しい)
・父親と過ごせるようになって欲しい
・来年度の保育園に入園出来るように、少しでも集団生活を学んで欲しい
・心穏やかに過ごして欲しい
・楽しいと思える時間を増やして欲しい
それを見つめた私は療育日誌の書類入れの中に仕舞い、そっと日誌を閉じる。
ここからは私ではなく、新たな担当の先生へと引き継がれていく。
三月三十一日。園の周囲に植えられている桜の木枝より蕾が見え、新たな出会いを運んでくる季節となった。
療育園のクラスは固定ではなく、一年に一回見直しをされる。子供の年齢や発達段階、保護者の就労関係もある為に利用曜日や利用日数を配慮しクラス分けする。
保育士のグループも一年で入れ替えをしていて、こだわりが出やすい子供達に同じ環境を与え過ぎないようにしている。それだけでなく、保育士一人一人により支援のやり方が違うこと、色々な人がいると子供達に知ってもらう為でもある。
だから、四月にパニックを起こす子は多い。しかし、それも大切な勉強。ずっと同じ環境で、居られることなんてないのだから。
静まり返る職員室に、私の意識はパチリと戻る。
周囲を見渡すと先程まで横を座っていた先生方は居なくなっていた。
また、やってしまった。
年度末は療育教室はお休みとなり、来年度の準備期間へと移行する。
担当した子供達の記録に抜けがないかを確認し、出来た人から全体清掃に入る。他の先生方は終わらせて清掃活動をしている。私も早く行かないと。
まとめた支援記録を棚に戻していく。おそらく私がもう記入することのない記録を。
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