じいさんのサラッサラの髪を切ってツルっツルにした妖精(?)がどこに隠れているか分からないと、慎重に植木鉢を持ち上げ、葉の裏まで確かめる。
正直な思いを述べるとこれ以上新キャラはいらんわ、といった気持ちや。
そう、特に人間じゃないヤツはな。
アホの桃太郎にうらしま、法師にオキナ、かぐやちゃん。
お姉にワンちゃんでさえも手を焼いてるところへ、花阪Gの登場やろ。
このうえ妖精まで出てきたら、この話グチャグチャになるで?
て言うか、アタシが疲れる。だってみんなキャラ濃いんやもん。
「……まさか法師の仕業ちゃうよな?」
新たな弁当箱ハウスを快適環境にしようと、髪の毛を集め出した?
(何でアイツのカーペットは人毛なんやねん!)
いや、でもアイツは被害者を丸坊主にはしないからな。
多少の慈悲と常識は持ち合わせているらしい。
アタシも桃太郎も被害にあったけど、ここまで酷くなかったし。
「帰ったら念の為、法師に聞いてみるか。他に髪の毛集めてる妖精がいるかどうか」
ブツブツ言ってたらワンちゃんがソロソロ入ってきた。
「やややっぱり、このアパート何かいるんでしょうかね」
「やっぱりって何や? 怖いこと言わんといて」
結局1─3の幽霊騒動は近所のアホガキの仕業だったわけやし。
まぁ何かいるって言えばこのアパート、色々ややこしい人がいっぱい居るんやけどな。
「そそ捜査しましょう。いいですか、リカさん。このアアアパートは実は政府機関の特殊事務所だったんです」
「は?」
「しし心霊捜査専門です。そういうカカカテゴリーなんですぅ。あああたしたちで捜査チームをくみましょう。何ですか、リカさん。その目は」
「え? あ、いや……え? 特殊な事務所?」
アカン。ワンちゃんがヘンにノッてきた。
やっぱりこの子、ちょっと変。
「どう? ようせいはいた?」
そこへ今度は花阪Gが這ってきた。
「よ、妖精は見付からんかったけど……プッ!」
アカン。笑ったらアカン。
花阪Gの頭が、月光を受けてピカピカ光っている様がおかしくてたまらない。
Gさんは目敏くアタシの表情を見て、傷付いたように顔をしかめた。
大きな目でじっとこっちを見詰めてくる。
無言だ。怖いったらない。呪われそうや。
「な、何もいないから、今日はとにかくお休み。明日、一緒に妖精探そうな」
一緒に妖精を探す?
何を言ってるんや、アタシは。
ともかく上手いこと宥めようとしていたところへ、誰かがやって来た。
廊下で「ガーッ!」と叫び声がする。
怒っているらしい。
ワンちゃんと花阪Gの怯えた声に、その人物は怒鳴るのをピタッと止めた。
「失礼します」
入ってきたのは意外なことにカメさんだった。
ズン……と落ち込んでいるのが傍目にも分かる。
何とも鬱陶しい。
「ど、どうかしたん? カメさん、怪我してるやん?」
カメさんは頷く。
顔が真っ赤に腫れていて、髪の毛も乱れてる。
ゼェゼェ息を切らす様からは、いつもの穏やかさは微塵も感じられなかった。
「あぁぁぁぁ、このひとこわいぃ」
元気のない怪我したマフィアのオッサンを前に、花阪Gの恐怖は頂点に達した。
アタシとワンちゃんの背後に隠れてしまう。
「頭をどうされましたか?」
彼のピカッと光る頭を見てカメさん、何かを感じたらしい。
突然懐からナイフを取り出した。
「ひぃあああっ」
「カ、カメさん?」
「俺も……俺も出家します!」
カメさん、聞き慣れないセリフを口走った。
「しゅっけ?」
止める間もない。カメさんは自分の髪をナイフでジョリジョリ切り出した。
「ま、また急に何してんの! 出家ってアンタ……!」
「俺は煩悩の塊です。一瞬、欲に目が眩みました」
どうやら麻雀の点棒の配り方を巡って、かぐやちゃんと取っ組み合いの大ゲンカをしたらしい。
「でも、かぐやさんも良くない! あれは間違いなくイカサマです」
「いや、あの……カメさん?」
恨みがましくブツブツ言いながらも、ジョリジョリと手元は進んでいる。
「ひぃあぁぁ……」
目の前でイカついマフィアっぽいオッサンに出家されて、花阪Gは眼球をひん剥いてカメさんを凝視していた。
「で、でていけ! じぃのへやからでていけ」
「あっ、ちょっと! じいさん?」
脇腹を押され、アタシらはまとめて部屋から追い出された。
目の前でドアが閉まり、中からすすり泣くような声が響く。
「もぅいや。じぃはなにもみたくない。このよのなか、じぃにはつらすぎる」
「じいさん、アカン! 辛いけど、逃げたらアカン。これが現実なんや!」
ドンドンと扉を叩くと、中から陰気な声。
「じぃのことはほっといて。あと、じいさんってよぶな!」
こうして、花阪Gはますます引きこもるようになったのだった。
「28.リカ、ダウン!~その病の名こそ、不毛ワールド?」につづく
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