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翌朝。王立魔法学院の外廊下。
「ビビお姉さま! 昨夜はよく眠れましたか?」
「ええ。ぐっすりよ」
「良かったです! 私、夜中にお姉さまのすやすや可愛い寝息を聞いていたら、胸がいっぱいになって……とっても幸せな気持ちになりました……♡」
「…………」
(今、ナチュラルに重いこと言わなかった?)
まあ、いっか!
(私も朝から天使みたいに可愛いフローラを見られて、最高に幸せだし!)
「ビビお姉さまぁ♡」
フローラが私の腕へぎゅっと抱きつく。その時だった。
「……待て」
前方から、聞き覚えのある声。顔を上げると――。昨夜、不審者認定した男二人が立っていた。
アレクとレオンだ。身なりこそ綺麗に整えているものの、アレクの頬には茨の蔓で引っかかれたような小さな傷。レオンに至っては、鼻の頭が微かに赤い。
(……昨日の食虫植物、容赦なかったんでしょうね……)
「昨夜の件は、完全に誤解だ」
アレクが真剣な顔で言う。
「やあ……あはは」
レオンも、どこか引きつった笑みを浮かべた。
「昨日はちょっと、お互いに認識のズレがあったみたいだね?」
「認識のズレ?」
私は首を傾げ、二人へジト目を向ける。
「あなたたちが夜中に女子寮の壁をよじ登ってきた件の?」
「…………」
二人が同時に言葉を詰まらせ、気まずそうに視線を逸らした。
(ほら見なさい。客観的事実じゃないの)
「まあ、もう心配はいらないわ」
「……何がだ?」
「フローラが護身用の魔法植物ホイッスルを作ってくれたのよ」
私は制服のポケットから、手のひらサイズの緑色の笛型魔道具を取り出した。蔓や小さな葉を模した装飾が施された、可愛らしいデザインだ。
「何かあったら、これを吹くの」
得意げに掲げてみせる。
「大音量で周囲に危険を知らせてくれるうえに、精霊魔法で不審者を捕まえてくれるんですって!」
「…………」
なぜか二人の顔が、さらに険しくなった。
「……バイオレッタ。昨夜のあれは、純粋にお前の身を案じてのことで――」
「そうそう」
レオンも焦ったように割り込んでくる。
「僕たちはね、その特待生ちゃんが君に何か良くないことでも仕掛けてるんじゃないかって、心配でたまらなくて――」
「ビビお姉さま、危ないですっ!」
「え?」
フローラが自分のポケットから、私とお揃いの魔法植物ホイッスルを取り出した。
そして――。
「ピィィィィィィィ――ッ!!」
「「!?」」
耳をつんざくような甲高い警報音が、外廊下いっぱいに響き渡る。
世羅 鈴🎨🎤
269,850
ひより
5,242
#主人公最強
伊織
41
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
5,644
「なっ……!」
「うわっ!?」
石畳の隙間から、無数の緑の蔓が一斉に飛び出した。アレクとレオンの左右へ。背後へ。そして、頭上へ――。蔓同士が絡み合い、格子状に編み上がっていく。
ガシャンッ!!
男二人をすっぽり囲む、巨大な植物の檻が完成していた。
「すごい……!」
(大音量で助けを呼ぶだけじゃなく、不審者の捕獲機能までついてるの!?)
(フローラの防犯対策、本気すぎる!!)
「昨夜あれほど手酷く追い払われましたのに……」
フローラが私の前へ立ちはだかる。そして、檻の中の二人へ冷たい視線を向けた。
「まだ懲りていらっしゃらないのですか?」
「フローラ……!」
(昨日あんなに怯えていたのに、今日は私を守るために真っ先に立ち向かってくれるなんて……!!)
なんて勇敢で健気な推しなの!私は胸を熱くしながら、檻の向こうの二人へ氷点下の視線を向けた。
「……私、今すべてを確信したわ」
「な、何をだ……?」
アレクが眉をひそめる。
「あなたたち、朝からフローラの可愛い姿を見に来たんでしょう?」
「違う!!」
「昨日からずっとそこじゃないんだけどなあ……」
「気持ちは分からなくもないわよ?」
朝からこの天使を拝める。私だって、そりゃあ幸せだ。
「でも、やり方ってものがあるでしょう!」
「だから――」
「昨夜は女子寮へ不法侵入」
人差し指を一本立てる。
「今朝は廊下で待ち伏せ」
二本。
「次は何? 教室前にテントでも張って出待ちするつもり!?」
「さすがにそんなことしないよ!?」
レオンが悲鳴交じりに叫ぶ。
「だったら、いい加減大人しくしてなさい!」
「ビビお姉さま。そろそろ授業が始まってしまいますっ」
「あら、もうそんな時間? じゃあ急がなくちゃ!」
私は檻の中の二人に告げた。
「二人とも、反省したらちゃんと授業に出るのよ?」
(まあ、このくらい、自分たちでなんとかするでしょ!)
私はフローラと並んで、颯爽と歩き出した。
***
そして――。一瞬だけフローラがくるりと男二人を振り返った。
声には出さず、唇だけを動かす。
『ざ・ま・あ・み・ろ』
「…………っ!」
アレクの拳が、わなわなと震える。その背後では、赤黒い闇の魔力がゆらりと揺らめいた。
「……あいつ」
「あはは……」
レオンの顔も、ぴくりと引きつった。その背後では、黄金の光が不穏に煌めいている。
「僕、あの子とは絶対に仲良くなれそうにないな~」
少し先では――。
「ビビお姉さま♡」
「なあに?」
「今日も一日、ずーっと一緒にいてくださいねっ♡」
「もちろんよ!」
何も知らないバイオレッタの楽しげな声だけが、外廊下に響いていた。