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五限目、数学の自習。飛倉の涙については、考えてみたものの、まだ過ごした時間が浅すぎて結局分からなかった。隣の席とペア、となっているため、雪とペアだ。
「ねえ、凛くん、ここ分かる?」
小声で喋る雪。頼られるのは嬉しい。
「ああ、ここは円周率と方程式だよ、でも、」
これくらいの問題は雪なら解けるはずだが、と言おうとした矢先。
「、、、、、あと、何か悩んでる?」
「ぅ、なるほど、、、、バレバレか」
「うん、で、どうしたの」
「実は、、、、」
「なるほど、飛倉さんにバレちゃったと」
「まあ、心配することはないと思う」
「そうだね、バラすつもりもないんでしょ?、いい人で助かったよ~」
雪に起こったことについて話した。
「それで、別れるときに目尻に涙、ね、」
「なにか分かるか?」
「うーん、相談に乗るとは言ったけど、、、よくわかんない、ごめん」
「そうだよな、」
仕方がない、。まだ出会って日が浅すぎる。
「ぁ、、、役に立つかわからないけどさ、私、飛倉さんと目が合わないんだよね」
「?、目?」
「ごめん、多分関係ない、」
とにかく、この放課後の奢りを最大限活かし、観察するしかない。そう意気込んで自習を再開するのだった。
演じることが好きだった。
最初は単純で、適当にやったら天童だ、と言われ、嬉しかった。演技が好きになっていった。加えて、そのときは向いてると思っていた。しかし、中学一年生になる頃。何故かキッパリとオーディションに受からなくなった。周りがそれを仕事にしようと努力する人たちに変わっていったのだ。最初は才能はボクの方に傾いていると思って。認めたくなくて。意地になって努力もした。だが、届かなかった。それでも、上がいることを認めたくなかった。ボクは、何が足りないのか、周りを「観る」ことで、自分を強くしようとした。
午後、近くのカフェにて。俺は飛倉に昼のお礼をしていた。
「コーヒーって結構種類あるな、、高いのと安いの、差は何だよコレ」
「種類、焙煎方法、香りや鮮度かな、」
「うわ、やっぱあるんだな差、、、、、詳しいな」
「うん、コーヒー好きでね」
オシャレなメニューに向けて指を指す。
「コレで、お願いするよ」
「おう、、、割とするな、」
「悪いけど、奢りだから、遠慮は期待しないでくれ♪」
どこか上機嫌な彼女は、少し儚げに髪をいじる。少しでも支出を抑えるべく、違いのわからない俺は一番安いのを注文しといた。ゆったりと流れる時間の中で、俺は飛倉を観察する。まず目が行くのは、大きな胸。彼女がいながら欲求に逆らえない自分が忌々しい。なんとか目線を上げ、ティーカップを持つ白い手が。彼女の飲むコーヒーの黒さとの対照的なカラーリングが彼女の魅力を引き出す。更に見上げると、整った顔が視界に入る。その蠱惑的碧眼に魅せられて、、、と、そこであることに気づく。飛倉は一度も。
「美味しいか?」
「うん、香り高くて深みのある味だよ、、、、、あの、、」
「?」
「、、、お菓子も、いいかな// 」
「一個な」
注文する飛倉の目をじっくりと見つめる。やはり。
「なあ、飛倉」
「、どうかしたかい?」
「どうして、人を視界に入れようとしないんだ?」
「!」
そうだ。飛倉は、人を見ようとしない。むしろ、見るのを避けている。コレはあの涙に関係すると、俺は確信した。
「西宮君、、少し、外で話さないか?」
注文をキャンセルして、飛倉は言った。
ボクと同世代の天才と呼ばれる男の子が稽古場に通い始めた。その子は、綺麗だった。外見もだが、美しさの本質はその演技にあった。同性ですら、虜にするほどの没入感。どんな役も演じきる。そんなところに惹かれた。だからこそ、その子を好きになり、同時に演技の道を続けることを選んだ。ある日、ボクは、想いを告げた。結果は惨敗だった。その時、何か大きな栓が抜けた。ボクは演技を辞めた。
「ボクは、演技をやっていたんだ。下手だったけど、辞めたくなかった」
近くの公園だ。人は居ない。二人で話せる場所がいいのだろう。
「演者をしてたってこと?、すごいな。俺はからっきしだわ」
「うん、、、、止まっ てしまった成長のため、ボクは洞察力をつけた。人から学ぼうと必死だったからね。それでも、分かったのは自分の無力だけだった」
「、、、」
辛い。重すぎる。
「ある時、好きな人が出来たんだ。演技の上手な人でね、、、この人を振り向かせたくて、もう少し演技を続けることを決めたんだ、、、でも、駄目だった。ジロジロと無神経に見てくるのが気持ち悪い、って。そう言われたんだ」
「、、、、だから、なのか?、、、」
「、、うん、その時から、人をしっかり見れない。男の子を、好きになれない」
飛倉は好きな人を追いかけるため、努力をした。だからこそ、自分の想いと努力、その両方を踏みにじられる苦しみは大きかっただろう。
そして、一生懸命なやつに限って、すべて。
「いつまでも引きずって立ち直れない、そんな自分が嫌だ。立ち直っている自分が、一番見えない」
すべて、自分に溜め込んでしまう。
飛倉は泣いていた。ごめん、と謝りながら、まだ止まらない涙を拭って、言う。
「重い空気になってしまったね、」
「飛倉」
「?」
「お前は凄いし、優しい。俺は努力するの苦手だし、自分を攻めるのも嫌いだ。だって苦しいし、辛い。お前は目標に向かってすごく努力して、その目標に否定されて。散々だ。キレてもいい。それなのに、自分にトラウマの枷を付けて次に起こらないための対策を無意識にしてる。要は人に当たらないんだよ」
「、、」
俺は続ける。
「現場に居合わせたわけじゃないし、お前を完全に理解してるわけでもなんでもない。でも、お前が変わりたいのは分かた。お前だけじゃ変われないのも、分かった。だから、克服出来るまで手伝うよ」
「っ」
「しっかり人の目を見れるようになって、いつか好きな人ができたら、教えてくれ。そいつがまた悪く言うようなやつなら、そのときは俺がしばくから」
すべて、本心からの言葉だ。
「まあ、、、なんか頼れってことだ」
カッコつけ過ぎたか、と反省する。変な間も生まれてしまった。飛倉も俯いていて、表情が読めない。
「、、、西宮君っ、、」
不意に、飛倉は前を向く。驚いたが、その表情に更に驚く。
飛倉はまた泣いていた。主観だが、嬉し泣きだろう。そうであってくれ。
「ごめん、、無責任だったか?」
「いや、嬉しいよ、、というか、ずるい」
ん?なんか不穏だな。そう思ったのも束の間。飛倉は一歩前に出る 。俺の目を、しっかりと”見て”言った。
「君に彼女がいるのは、百も承知だ、それでも、言うよ、、、、、その好きな人は、君じゃ、だめかい?////」
「、、、、!?!?」
彼女ができて早々、関係の危機が迫ってしまったのだった。
第六話 《完》