テラーノベル
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「菜々。会いたかった」
彼が言った。
今思えばあの日から始まっていたのかもしれない。
「私もだよ奏多」
顔を見合せ目を細めた。
頬が微かに上がるのを感じる。
─馬鹿だな。
彼に会うと胸が苦しい。
でもやけに暖かい。
─私。
この日会ったのは私の家。
賃貸で安っぽい狭い部屋。でも彼と私のひそかな日々がいっぱいに詰まっている。
私の好きと彼の好きが合わさった幸せな家。
─さようなら。
ソファに座り頬擦りをする。
肌触りの良いブランケットを2人の膝に乗せる。
あぁ。暖かいな。
私の母が死んだ。
今より少し昔の話。
その時彼、いや奏多が言った言葉。
「大丈夫だよ。僕がいるから。」
大好きな彼氏の暖かな言葉は胸を優しく包み込んだ。
ねぇ。奏多愛しているわ。
少し気恥ずかしくて飲み込んだ言葉。
─ありがと。
そう胸の中で唱えた。
彼の父が亡くなった時。
彼は泣いた。凄く凄く泣いた。
大丈夫。
私はそんな言葉を飲み込んだ。
彼の肩に手を置いた。
─あなたの笑顔をまたみたいよ。
私の友達の結婚式に行った時。
彼氏のあなたも式に呼んだわ。
私の友人もぜひ連れてきてと言っていたから。
でもあなたは行かないといった。
身内だけで楽しんで。と
仕方ないか。私はひとりで思いっきり楽しんだわ。
でも私の隣には空いた席があった。
友人に謝った。
ごめん。ごめん。ってね
─大っ嫌い。
こんな日もあったわ。
あなたが入院した日。
もう死ねばいいのにって思ったわ。
でもあんたは生き延びたわね。
神を恨んだ。結局神も私より彼が好きなのね。
私は彼に言ったの。
「明日世界が終わるならどうするの」って。
あなたは言ったわね。
「菜々と居るよ。」
そのあと慌てて言い直したわね。あなた。
「菜々が望むなら。」
私は彼の手に優しく手を被せたわ。
爪を立てるのを我慢して。
─ずっとずっと嘘ばっか。
奏多。別れよう。
今日ね。彼に言ったのよ。
あの人。凄く焦っていたの。見ものだったわ。
でもね嫌だ。なんて言わなかった。
菜々が望むなら。
そう言って仕方がないな。みたいな我儘を聞くみたいな笑顔を作ったの。
彼が私に心からの笑顔を見せたのは一体いつが最後だったかな。
ねぇ。奏多。あなた浮気してるでしょ。
なぁんて。言おうと思ってたけど言えなかった。
ねえ。ここまで聞いてどう思った。
あいつと私の恋話。
結婚式凄く綺麗で素敵だったわよ。
私みたいにならないようにね。
ほんと私の運命はいつになったら現れるのかしらね。
いつものカフェで愚痴をこぼした。
大好きなケーキとコーヒー。
大好きな友人と適度な室温。
でもどこかで思うところあった。
彼の笑顔が見てみたい。なんて。
ほんと馬鹿みたい。
コメント
1件
うわあ…読み終わってしばらく動けませんでした。最初の「馬鹿だな」ってところから胸がぎゅっとなって、最後の「彼の笑顔が見てみたい」で完全にやられました。好きだった人のことを「大っ嫌い」って思う瞬間と「愛している」が混ざってる、この複雑な感情の描き方がすごくリアルで…。語り手の「私」が友達に話すふりしてるけど、本当は自分に言い聞かせてるみたいな距離感が切なかったです。第1話からこんなに深い余韻を残すなんて、とーとさんの筆力に脱帽です。続き、すごく気になります。