テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
次の日、早めに職場に行った。
「おはよう!今日は早いのね?」
同僚が話しかけてくる。
「うん、ちょっと用事があってね」
答えながら、同僚たちを見る。
みんな、だいたい同じくらいの年齢、同じような見た目。
で、どうなんだろ?
まさか、「してる?」とは聞けないけど、気になる。
「おはよう、どうしたの?こんなに早く」
「この前はどうもありがとうございました。チーフのおかげで娘のことは片付きました」
りんごを陳列しながらの洋子にお礼を言った。
「お礼を言われるようなことは、してないけどね」
「いえ、お金より浮気の方がマシかも?って聞いていたから、助かりました。で、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。ここってパートから正社員になれたりします?」
「正社員?もしかして小平さんが?」
洋子は、少し驚いた様子だ。
「正社員の採用条件は、30歳までなのよ。ごめんね」
「やっぱり?そうですよね。もう45ですもんね」
「まだ45、なんだけどね」
にっと笑う洋子。
やっぱり、無理だよなぁ、年齢制限にひっかかるか。
「仕事の邪魔しました、ごめんなさい」
ちょっと考えよう。
事務所に行き、着替えて仕事の準備をする。
今のままではあまり自由になるお金はない。
旦那の扶養の範囲内ということで、収入は月に8万円までに抑えている。
生活費は、食費とスマホ代以外はすべて旦那が払ってるから、私のお小遣いとしては3万くらい。
これじゃあ、ジムに行ったりお洒落をしたりするのには、絶対足りない。
パートを増やしても、中途半端な額だとよけいに損をしてしまう。
この際、新しい仕事を探してみるか。
年齢を不問にしてくれるところ、ないかなぁ。
今の私にできる仕事って、なんだろ?
玉ねぎとニンジンとじゃがいもを並べながら考える。
本日の特売品だ。
今夜の晩ごはん、あちこちでカレーの匂いがしそうだなと思った。
仕事が終わって、車で帰ろうとしたとき、エンジンのかかりが悪かった。
「えっ、もしかして、バッテリーが弱ってる?」
4、5回トライしてやっとなんとか、エンジンがスタートした。
次の点検は3ヶ月後だ。
帰り道にある車の整備工場に寄って帰ろう。
完璧にバッテリーが悪くなる前に。
「あの、車のバッテリーが弱ってると思うので、ちょっと見てもらえませんか?」
通勤路に以前から看板だけは見つけていたけど、店舗は角を曲がったところにあった。
車は念のため、エンジンをかけたままだ。
「いらっしゃいませ、いま、エンジニアを呼んで来ますね」
受付の女性がにこやかに対応してくれてほっとした。
もうすぐ閉店の時間だと思うのに、嫌な顔をされなくてよかった。
「お待たせしました、拝見しますね」
紺色のツナギの作業服を着た男性が出てきた。
ボンネットを開けてバッテリーを見る。
「すいません、ちょっと、エンジン切ってもらっていいですか?」
「あ、はい、いま」
運転席に座り、エンジンを切った。
「あ、キーをどうぞ」
「お預かりしますね」
何回かエンジンをかけたり切ったりしていた。
「やはりバッテリーのようですね、交換しますがいいですか?」
「お願いします」
パタパタと走り、新しいバッテリーと工具を持って来て作業にかかる。
テキパキと早い。
よく見ていると、工具入れの中は綺麗に整理整頓されて、工具もひとつひとつキレイに磨いてあった。
#離婚
鷹槻れん

182
84
swingout777
330
#シンママ
沙華やや子
126
バタンとボンネットが閉まる音。
「終わりましたよ、ちょっとエンジンをかけてみてもらえますか?」
「はい、やってみます」
キーを受け取り、エンジンをかけた。
軽くエンジンが始動する。
直った。
「あ、大丈夫みたいですね」
「ありがとうございました、よかった」
工具を片付けて、受付へと案内してくれる人。
こっそりネームプレートを見た。
【真島貴】
真島さん、か。
後ろからついていく。
肩くらいの長さの髪を、後ろでひとつに結んでいる。
少しの汗と香水が混ざった匂いがした。
おー、働く男のニオイだ、なんて思う。
受付カウンターで、女性が待っていた。
「バッテリー込みで8600円になります」
「カードでいいですか?」
「はい、お預かりしますね」
カードで精算中、真島が名刺を出してきた。
「また何かありましたら、こちらまでご連絡くださいね。いまのところ他に悪いところはないみたいですが」
「ありがとうございます、こんな遅くに駆け込んでしまって」
「いえ、いいんですよ。帰る前でよかったです」
「ホントに…」
ふと見上げた受付カウンターの後ろの壁に、一枚の大きな写真があった。
車のレースに参加したのだろうか?真島と数人の男性が車を囲んで写っている。
「ありがとうございました、カード支払いの明細と領収書です」
「どうも。あ、あのその写真って?」
気になって聞いてみた。
「これですか?これは去年レースに出たときのやつです、アマチュアですが」
真島が答えてくれた。
「カッコいいですね!写真見てるだけでも楽しそうなのがわかりますし」
「ありがとうございます、楽しいですよ。唯一の趣味なんです」
「レースが、ですか?」
「走るのもイジるのも」
「車も楽しそうですね、私、バイクなら少しやるんですけど」
「バイク、乗るんですか?カッコいいじゃないですか!」
しばらく、車とバイクの話が盛り上がった。
「あっ、ごめんなさい、仕事、いつまでも終われませんね」
「構いませんよ、話題が楽しかったので時間を忘れてました」
にっこりと笑う人。
そんなに大きくない目が、笑ったことでクシャッと見えなくなった。
ほんわかと笑う人だな。
「ん?」
その笑顔越しに、壁に貼られたチラシに目がいった。
「どうしました?」
「あの、あそこのチラシって…」
「チラシ?あー、求人の?なかなかいないんですよ」
「年齢制限とかありますか?」
「仕事ができる人なら、関係ありませんよ」
「ちゃんと資格がないとダメですよね?」
「資格がないなら、給料が下がりますが、働きながら資格をとってもらえば上がりますので」
ぴん!ときた。
これだ、この仕事がしたい。
「私、やりたいです!資格はないです、でも頑張って資格をとりますから」
「整備士ですか?」
「ちょっとだけやってたことがあるだけですが、興味があって。ダメですか?」
「俺の一存では決められないから、明日にでもまたきてくれますか?」
思いもよらない展開。
「じゃ、明日、履歴書を持ってきますので、社長に面接をお願いしておいてください」
「いいですよ、でも、女性にはキツイかも?」
「かまいません、勉強して資格を取れば給料も上がるんですよね?」
「はい、それは保証します」
「じゃ、また明日、来ます。ありがとうございました」
急いで車に乗って、コンビニへと急いだ。
履歴書とそのための写真を撮るために。
ワクワクしてきた。
なんでこんな気持ちになったのだろう?
あの人のおかげかな?
真島貴。
いい人みたいだし、どうせ仕事をするなら楽しそうな仕事がいい。
「頑張って資格を取って、給料アップだ!」
思わず声に出る。
コンビニでご褒美に、新製品のパイナップル酎ハイとイカピーを買った。
ご褒美が、すっかりオジサン化してるって思ったけど。