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私の瞳に映る彼。

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私の瞳に映る彼。

18 - 15.信じられない週末(Side百合)

♥

111

2024年08月11日

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やわらかな太陽の光が差し込む朝。


ふかふかの布団に身を包まれ、気持ちの良い眠りを貪っていた私は、日の光を感じ|微睡み《まどろ》ながら薄く目を開く。


もう少し眠っていたい‥‥と再び眠りに落ちていこうとした直後。


目に飛び込んできたのは、見たこともないダークカラーで統一された落ち着いた空間だ。


「ここどこ‥‥?」


私のマンションの部屋が丸ごとスポッと収まりそうなくらいの広さである。


よく見ると、私が寝転んでいるのも、人が何人も寝れそうなサイズのベッドだ。



すっかり意識が覚醒した私は、頭をフル回転して昨日のことを思い出そうとする。


確か昨夜は常務の友人のお店で飲んでいて、緊張してたからいつもより酔ってしまって、眠ってしまったような‥‥。


その後確かタクシーで常務に起こされて、何かすっごい高級そうな高層マンションの前で降りたような‥‥。


(えっ、もしかしてここ常務のマンション‥‥!?)


そう思い当たった瞬間、まるで石になったかのようにビシッと固まってしまった。



恐る恐るもう一度周囲を見回しながら状況を確認する。


とりあえず着衣は乱れておらず、着ている服は昨日のままだ。


致してしまったような痕跡もない。


(とりあえず良かった‥‥)


最悪の事態は避けられたようでホッとする。


もしそんなことが起こっていたら羞恥で私は正気じゃいられなかっただろう。



ただ、この部屋に常務はいない。


しかも広大なベッドの真ん中に私がいるから、このベッドを占領してしまっている。


(常務には多大なご迷惑をおかけしてしまったに違いない‥‥。申し訳なさすぎる‥‥!)


ほっとしたのから一転、今度は血の気が引いていくのを感じた。


身を起こしベッドから出ると、近くにあった鏡を見て簡単に髪と服を整える。


メイクしたまま眠ってしまっているから顔はぐちゃぐちゃだ。


こんなところを見られたくはないが、どうしようもなく私は項垂れる。


意を決して部屋を出ると、コーヒーのいい香りが鼻をかすめた。


その香りに引き寄せられるように、香りがする方へと足を向ける。


するとリビングルームだと思われる開放感あるゆったりした空間が広がっていて、そこにコーヒーを淹れている常務がいた。


程よくゆるっとした家着に身を包んだ常務を見た瞬間、私はまたしてもビシッと固まってしまう。


すると常務が私に気づいた。


「おはよう並木さん。コーヒー飲む?」


「‥‥おはようございます。そして大変大変大変申し訳ありませんでした‥‥!この失態のお詫びはきちんとさせていただきます。本当に本当にすみませんでした‥‥!」


口を開くなり、カバッと頭を下げ、私は矢継ぎ早に謝罪する。


もう本当に心から申し訳なさすぎて、それ以外の言葉が見つからなかった。


「ふっ、俺はコーヒー飲むかどうかを聞いただけなんだけど」


「申し訳ありません‥‥!」


「とりあえず、そんなところで突っ立ってないでこっち来なよ」


「申し訳ありません‥‥!」


「ふっ」


恐縮しながら謝罪の言葉を繰り返す私を、常務は笑いを噛み殺しながら実に楽しそうに見てくる。


(罪悪感と羞恥で居た堪れない‥‥)


促されてリビングのソファに座ると、コーヒーの入ったマグカップを差し出された。


「まぁとりあえずどうぞ」


「‥‥すみません、ありがとうございます」


「昨日のことってどれくらい覚えてる?」


「‥‥えっと、途中で眠ってしまって、常務にタクシーで連れて帰っていただいたのかなと」


「そう。並木さん酔うと寝てしまうんだね。全然目を覚まさないから家の住所も分からなかったし、俺のマンションに連れて来させてもらいました」


「‥‥ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした。あの、もしかして私はベッドを占領させて頂いたのではないでしょうか‥‥?常務はどうされたんですか‥‥?」


「広さ的にはベッドで寝れなくもなかったんだけど、一応俺はここのソファーで寝たよ」


「‥‥本当にすみません」


どんどん身が小さくなっていく。


せっかくいただいたコーヒーも手をつけられなかった。


しかし常務は特に気を悪くするでもなく、面白そうに私を眺めている。



「並木さん、今日予定は?」


「‥‥特にありませんが‥‥?」


「さっき俺にお詫びしたいって言ってたよね?」


「‥‥はい」


「じゃあ今日は1日俺に付き合ってね」


「えっ!?」


「お詫びしてくれるんだよね?」


「‥‥はい」


「決定ね」


「‥‥わかりました」


私がそう了承すると、常務は愉快そうに目を細めた。


(この展開、なんだか既視感があるのは気のせい‥‥?)


1日付き合うって何をするんだろうか。


有無を言わせない圧を受け、予期せず今日も常務と過ごすことになってしまった。


こんなことを会社の女性に知られたら大騒ぎどころじゃないだろうなぁと頭の片隅をよぎり、背筋が寒くなってしまう。


思わずぶるっと身を震わせる。


「もしかして寒い?そういえば並木さんは昨日は帰ってきてそのままベッドにダイブだったしね。シャワー浴びる?せっかくだしお風呂にも浸かってきたら?」


「えっ!?」


「大丈夫、そんなに警戒しないで。別に取って食おうっていうわけじゃないんだから」


「いえ、そんな警戒だなんて‥‥!じゃあすみません、お言葉に甘えてシャワーお借りします」


昨日からシャワーを浴びていなくて気になっていた私は、素直にその申し出を受け取ることにした。



浴室に案内され、バスタオルと着替えを手渡される。


「好きなように使って。ゆっくりどうぞ」


「ありがとうございます」


一歩足を踏み入れると、そこは寝室と同じくスタイリッシュな広々としたパウダールームと浴室だった。


大理石の浴槽は高級感があるし、何より窓から見渡せる眺望がすごい。


さながらどこかのラグジュアリーホテルのようだ。


(やっぱり常務は本当に御曹司なんだな‥‥。私なんかとは住む世界が違う人だってことを改めて感じちゃうな‥‥)


なんだかふいに寂しい気持ちになる。


そんな気持ちを拭い去るかのように、手早く服を脱ぐと浴室へ向かった。


(こんな贅沢なバスタイムはなかなか経験できることじゃないから、割り切って充分に堪能させてもらっちゃおう!)



ゆっくりとお湯にも浸からせてもらい、リラックスしていると、いつしか私はここが常務のマンションだということもすっかり忘れ、一人楽しんでいた。



トントントン


「並木さん大丈夫?のぼせて動けなくなってたりしない?」


ふいに浴室のドアがノックされ、常務の少し心配そうな声が聞こえる。


その声でハッと我にかえる。


(そうだった!常務のマンションなんだった‥‥!)


どうやら結構長く入ってしまっていたらしい。


「大丈夫です!動けます!」


慌てて返答してパウダールームに移動し、用意された着替えを手に取る。


着替えは、たぶん常務のものだろうと思われる長袖Tシャツとスエットパンツだった。


180cmを超える長身の常務の服は私にはサイズが大きくて、大人の服を着た子供みたいにブカブカだ。


(さすがにこれはカッコ悪いな‥‥。長袖Tシャツだけでワンピースみたいになるから、上だけ借りることにしよう)


鏡に向かって自分の姿を確認してみる。


そしてふと気づく。


(あ!そういえばメイク道具持ってない‥‥!うそ、スッピンを晒さなきゃいけないの!?)


予定外の状況だから、本当になにもかも持っていないのだ。


あんなに容姿端麗な人の前で、しかも会社の常務の前でスッピンになるのはものすごく抵抗感があった。


昨夜から数々の醜態をすでに晒してしまっていることも思い出し身を縮める。


心配されているだろうからこれ以上のんびりもしていられなくて、意を決してこのまま浴室の外に出た。




リビングに戻ると、常務はコーヒーを飲みながらパソコンを開き何かをチェックしているようだった。


「あの、バスルームお借りしてありがとうございました」


私は顔を隠すように少し俯きながら声をかけた。


スッピンを見られるのが本当に恥ずかしくて、頬が赤く染まる。


「‥‥いや、それは全然いいんだけど‥‥。ねぇ、それは俺のこと誘ってる?」


「えっ!?」


思いもよらないことを言われてビックリした。


(誘う?私が常務を!?)


驚いて固まっていると、常務がソファーから立ち上がり私の方へと近寄ってくる。


なんとなく後退すると、そのままジリジリと壁の方へ追い詰められた。


常務が私を囲い込むかのように壁に腕を押し付け、私は壁と常務に挟まれた。


触れてしまいそうな距離に心臓がドキドキと早くなる。


「誘ってないとしたら、かなり無防備だと思うんだけど。一応男の家だって分かってる?このまま簡単に襲えるよ?」


そう言いながら、色を含んだ艶かしい目で見つめられ、金縛りにあったように身動きがとれない。


私より20cm以上背が高い常務から見下ろされ、常務が言葉を発すると息が私の耳にかかる。


「んっ‥‥」


耳が弱い私はゾクっとして思わず小さく声を漏らしてしまった。


「ほらそうやって煽るし。並木さんって結構無自覚で危ないね。これは一度分からせてあげないといけないかもなぁ」


そういうと、常務の目が妖しく光ったーー。



「あ、あの、常務‥‥?」


突然の状況にいっぱいいっぱいだ。


この距離感は心臓に悪い。


さっきから外に音が漏れてしまいそなくらい脈打っている。



「そんなに無防備に男を煽ってると、こうなるよ?」


その言葉と同時に、ふいにふわりと常務に抱き締められた。


距離がまったくなくなり、お互いの身体が密着する。


爽やかなウッディ系の香りが鼻をかすめ、大人の男性を感じる。


(どうしよう‥‥!心臓が持たない‥‥!)


どうしたら良いのか分からず、混乱しながら常務に目を向ける。


「ほら、またそういう目で見る。そういう可愛い反応は俺の前でしか見せたらダメね」


そのまま今度は常務の大きな右手が私の頬を包み込む。


少し顔を上に向けさせられると、そのまま常務の顔が近付いてきた。


(えっ、私、常務とキスしちゃうの‥‥!?)


驚きで身を硬くし固まってしまう。


その端正な顔がどんどん近付いてきて唇と唇が触れ合いそうになった瞬間、常務はピタッと動きを止めた。


そして、唇ではなく頬にチュッと音を立ててキスを落とすと身体を離した。


「あんまり無自覚で無防備だと簡単に襲えるんだからね。分かった?」


「‥‥‥」


「分かった?返事は?」


「‥‥はい」


私の返事を確認すると、常務は何事もなかったかのようにソファーに戻ってパソコンを覗き込んだ。


私は呆然として立ち尽くしたままだ。


キスされた頬は火がついたかのように熱い。


ホッとしたのも束の間、次の瞬間には寂しいような感情に襲われる。


(もしかして常務とキスできなくて残念だったって感じてる‥‥?私、常務とキスしたかったってこと‥‥?)


自分の意外な気持ちに困惑する。


だってそれって、まるで私が常務を男性として好きだということではないか。


身の程を知らずにも程がある。


それに私は常務を春樹と重ねているかもしれないのに。


そうは反論してみるが、頭に思い浮かぶのは春樹ではなく常務の姿ばかりだったーー。

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