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陽が少し傾きはじめた頃、みことがふと真剣な表情で言った。
「いるまくんの家、行きたいな」
すちは驚いて眉を上げる。
「えっ、なんで急に?」
「ちゃんと…仲直りできたのか、確認したくて」
みことの声は穏やかだけど、その目には強い意志があった。
すちは一瞬迷ったが、すぐに「じゃあ、一緒に行こ」とうなずいた。
インターホンの音に、いるまはベランダで洗濯物を干していた手を止めた。
「なつー、代わりに出てくれるか」
「うん」
ひまなつが軽く返事をして玄関へ向かう。
扉を開けると、そこにはみこととすちの姿。
「あ、みこと…と、すち。びっくりした」
少しかすれた自分の声に驚き、すぐにみことの声もどこか掠れているのに気づいた。
目が合い、互いに「あ…」と口にして、気まずそうに微笑む。
「とりあえず中入って」
2人をリビングに通しながら、ひまなつはベランダの方へ向かい、
「いるまー、みこととすちが来たよ」と声をかけた。
いるまがタオルで手を拭きながらリビングに入ってくる。
「どした?急に」
みことは少し真面目な顔で、ひまなつに向き直った。
「…ちゃんと仲直り、できた?」
ひまなつは少し目を伏せて、でも頬がぽっと赤くなりながら小さくうなずいた。
「うん。…喧嘩してたの、バカみたいだったなって思った」
みことは、ふっと安心したように笑う。
すちが肩をすくめながら「良かった」と言うと、ひまなつが気まずそうにみことを見る。
「…その、ありがとな」
「うん、良かった」
みことは穏やかに微笑んだ。
みことはちょこんと座ったまま、隣のひまなつに顔を向ける。まだ頬が少し赤いままの彼を見て、首を傾げながら聞いた。
「ちなみに……どうやって仲直りしたの?」
その問いかけに、ひまなつはぴくりと肩を揺らす。
「えっ、え、な、仲直り? そ、それはまあ……普通に?」
言葉とは裏腹に、みるみるうちに顔が赤く染まっていく。
「ふつうに……?」
みことは素直に首をかしげたまま、少しだけ体を傾けて、じっとひまなつを見つめる。
「……えっと、あの、話して、……そんで……」
ひまなつは視線を泳がせ、うつむいたままごにょごにょと口を動かした。
その横顔を見て、すちがクスリと笑いを漏らす。
「わかりやすいな、顔に出すぎ」
「う、うるさい!すちだって!なぁ!?」
勢いよくすちを指差すひまなつ。だがその視線はすぐに泳ぎ、ちらとみことの顔を見て――
「……はぁ……昨日のこと思い出すと、まだ体あっついんだけど……」
と、ぽつり呟いた。
みことはぽかんとしていたが、すぐに意味を察したのか、頬をほんのり赤く染めてうつむいた。
「……そっか……なるほどね…!」
それを聞いたすちはそっとみことの手を握り、指を絡めて柔らかく笑った。
「俺たちも、ちゃんと仲直りできたもんな」
「……うん」
甘く、照れくさく、だけどどこか優しい空気が流れていた。
「みこと、昨日の怪我って…大丈夫?」
ひまなつが心配そうに声をかける。
「え?あ、うん……大丈夫……かな?」
みことは曖昧に笑ってごまかすが、ひまなつの目は鋭い。
「……ちょっと見せて」
「え、ちょ、待って……!」
みことの制止も間に合わず、ひまなつがそっと服の裾をめくる。現れたのは――
「…なにこれ、痕だらけじゃん!!」
ぽかんとしたひまなつが振り返る。
「すち、やりすぎじゃね……?」
すちは「あー……」と目をそらすも、すぐにみことの肩をそっと抱き、「ごめん、気をつけるね」と申し訳なさそうに微笑む。
「ほんとにな、みことの体は大事にしなきゃ」
ひまなつが頷くと、
「……そ、そうだよ、すち……優しく……して……」
みことは耳まで真っ赤になって、声がどんどん小さくなっていった。
そんなやりとりに、いるまはソファで腕を組んで、
「……お前ら、うちで堂々と何言ってんだ」
と呆れた声を漏らすのだった。
場は一瞬の沈黙ののち、なぜか全員、笑ってしまった。
すっかり空気が和らいだ部屋の中。
ふと、みことのまぶたが重たくなってくる。さっきまで賑やかだった声も、今では遠く霞むようで──
「…なんか、あんしん…した…」
ぽそりと、みことが言葉をこぼす。
すちはその小さな呟きを聞き逃さず、そっと微笑んだ。
「よかった…なら、もうちょっとだけ甘えていいよ」
みことはすちの腕の中でまどろみ始める。
その細い肩をそっと包むように、すちは優しく抱きしめた。
「寝ちゃった…かわいいな」
すちはそのまま、ふわりとみことの体を抱きかかえる。眠る恋人を起こさないように慎重に足を運び、ドアの前でふたりを見送ろうとするいるまとひまなつに向かって、柔らかく言った。
「また今度ね。今日はありがと」
そのまま、静かに、でもどこか誇らしげに。
すちは眠るみことを抱いたまま、帰路についた。