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「夜永……郁斗?」
すると、樹奈の口から出た郁斗の名前に迅は反応を示す。
「どうしたんすか? その郁斗って人、迅さんの知り合いなんすか?」
「……ああ、ちょっとな。そうか、郁斗か……。情報ありがとな、泰」
「いえ、どういたしまして」
「早速、挨拶でもしてくるかぁ、おい、行くぞ」
ソファーから立ち上がると、樹奈の手を掴んだ迅。
「え? い、行くって、何処へ……?」
「決まってんだろ? 郁斗を呼び出せ」
「え? 郁斗さんを?」
「ああ、すぐに連絡しろ」
「で、でも……」
「でも、じゃねぇんだよ。俺が言ったら口ごたえすんな。やれと言ったらやれ。それとも、痛い目見ねぇと分からねぇか?」
「…………っ、わ、かりました……」
迅は青色短髪ジェットモヒカンスタイルで、首から鎖骨にかけてと右手に蛇の刺青があり、更には角度のついた眉と睨むような鋭い目力から威圧的に感じ、逆らえない雰囲気を醸し出している。
「あー、俺だ。これから出掛けるから車回してくれよ。ああ、いつもの店だ」
樹奈に郁斗を呼び出させた迅は誰かに電話を掛けると店まで車を回すよう頼み、樹奈が電話を掛け終えると再び彼女の腕を掴み、共に階段を上がって店の外へ出た。
時同じく帰宅したばかりの郁斗は、
「郁斗さん、どうかなさったんですか?」
美澄を見送ろうとしたタイミングで樹奈からの電話を受けた彼は、彼女の切羽詰まった声を聞いてただ事ではないと感じていた。
「……悪い、もう一度出て来る」
「え?」
「何か問題あったんすか?」
「……ああ、恐らく……樹奈が誰かに脅されてる」
「え? そんな……」
「もしかして、黛組の奴らですかね?」
「何とも言えないね。それを確かめる為にも、行くしかない」
「いやでも、郁斗さん一人は危険すよ」
「小竹を連れてくから平気だよ」
「いや、相手は何人居るか分からないっすから、俺も行きますよ」
「美澄は駄目だ。詩歌ちゃんの傍に居てくれないと困る」
「けど……」
樹奈が何か危険な目に遭ってると知った詩歌は、彼女の身を案じて不安そうな表情を浮かべながら何かを考え、
「あの、郁斗さん。私も樹奈さんの所へ連れて行ってください」
怒られる事を覚悟でそう口にする。
「詩歌ちゃん、キミ、自分の立場、分かってる?」
「はい」
「いや、分かってないね。分かってたら今みたいな言葉は出て来ない」
「でも、もしかしたら樹奈さんが脅されているのは、私絡みかもしれませんよね? それなら私、彼女を放ってはおけません」
「いや、まだ詩歌ちゃん絡みとは決まってない。樹奈自身、結構ヤバい連中と繋がりもあるようだから、そこから何かあって俺に連絡をして来ただけかもしれないし」
「でもっ!」
「いい加減にしろよ!」
一歩も引かない詩歌に苛立ちを感じた郁斗は彼女を一喝する。
「……仮にお前絡みだったとしても、何も出来ないお前が来て何になる? 足手まといになるだけだろ? いいから大人しくここで待ってろ。美澄、後は頼むぞ」
「は、はい……」
そして、詩歌に背を向けたまま素っ気ない言葉を放った郁斗は、美澄に彼女を託して一人部屋を出て行った。