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「村長様!大変だっ!」

声のした方を向くと走っている農夫の太助と、空に浮かぶ綺麗な月が見えた恐らく今は午前2時頃丑三つ時だ

「どうした?太助」

「い!今!宮子さんが子供を産んだ!」

なんとこの小さな村で2年ぶりの赤子が生まれたと言う、出産とは大変体力の要る儀式そこで死んでしまう者も少なくない、つい半年前も…

「それは素晴らしい!それを報告しにきてくれたのだな?」

「い、いや違うんだ」

大きく肩で息をしている太助をひとまず座敷にあげ茶を出した

「落ち着いたか?で、なにを言いにきてくれたのだ?」

「はい、宮子さんが出産すると言うことで隣家の私が扉前でお祈りしていて数時間経った頃赤子の泣き声が聞こえたんです、私は安堵と歓喜に身を震わせて居たんですが、突然助産婦の梅さんの悲鳴が聞こえたんです…」

「ほう…あの何事にも動じない梅さんが…」

「それで私は何事かと不躾ながら扉を開けましたすると布に包まれた男女の赤子が二人おりました」

「なんと!双子かそれはさらにうれ…いやその反応を見るに良きことばかりでは、ないらしい」

「その通りなんです…そして家に入った私に気がついた梅さんが片方の赤子を指差しました、恐る恐る覗き込むとその赤子は”人ではなかったんです”!」

「人では無い?どう言うことだ!詳しく話せ!」

「本当なんです!アレは人間じゃ無い!魑魅魍魎だ!灰燼が蘇ったんだ!」

その太助の様子は普通ではなかった怯え.恐怖.動揺が入り混じったような…

「太助私がその赤子を見る案内せよ」

「アレは!忌み子だ!俺は殺されるんだ…」

ガチガチと歯を鳴らして部屋の隅に縮こまって動かない、これでは案内は期待できないと判断し一人で年甲斐もなく走った

コンコン 宮子さんの家の扉を叩いた

「あ、そ、村長さん…宮子さんとんでも無い”物”を産んでしまった!」

「落ち着け!梅さんとりあえず儂にその子を見せてみろ」

「私はもう見れない…村長さんだけで家に入ってください…」

明かりは行灯が2つだけで薄暗く

赤子の泣き声と出産に疲れ眠る宮子さんの吐息が聞こえた

「この子か…」一呼吸しその赤子の姿を見た

妹は普通いや相当に整った顔をしこのまま育ったらさぞ美しくなるだろうと思った、だが…

問題は兄…その姿はもはや病という域を超えて居た肌は青黒く額からは角のような物が生え肩付近には太い棘が突き出ていた…まさに”魑魅魍魎”…私はただ固唾を飲むことしかできかった。

そして、この子達が呼び寄せるだろう村に来る厄災…私自身や村人の命が厄災によって奪われてしまう想像…心は恐怖一色に染められ私は村の大人を全員起こさせた

「なんじゃ村長様こんな朝っぱらから」

村の者は口々にそう言い目を擦っていた

「今日宮子さんが双子を産んだ」

「それは本当か!やったぞ!」

近くの者と抱き合ったり皆んな心から喜んでいるまるでつい少し前の私のように

「残念だがこれは朗報では無い悲報だ!」

「悲報?どう言うことだ?生まれてすぐ死んでしまったのか!?」

「村長!村長!宮子さんは無事なんですか?」

喜から一旦動揺した様子を見せる、私は一呼吸し言い放った

「兄の方が人では無かった!!!」

一瞬の静寂本当に一瞬…それが終わると様々な質問が津波にように押し寄せた

「どう言うことだ!?」「ちゃんと教えてくれ!どういう意味だ!?」「人では無い!?そんな説明じゃ分からない!」「ちょっと待ってくださいよ村長さん詳しく!」

「静まれ!!!口頭では何も分からん…今から私が二人を連れてくる」

一度姿を見たら次こそ死ぬのでは無いか…と恐怖包まれ足が重い…だが村の長としての責任感が恐怖を圧しゆっくりではあるが歩を進めさせていた。

赤子の前に辿り着き、決意を固め赤子達を乳母車に乗せて皆の元へと向かった

「あっ!村長様が戻ってきた!アレが例の赤子なのか?」

「全員聞け!この赤子を起こしては何かが起きるかもしれぬ起こさぬように姿を見ても悲鳴を上げず静かにするのだ!」

そう警告した後乳母車を止め見やすいようにした

「なっなんじゃ”コレ”」

「こんな”物”化け物じゃ」

「ひぃぃ呪われる…」

「魑魅魍魎だ…村長!灰屍(くべがら)狩りを呼ぼう!」

「そうだこんな怪物早く殺してもらわないと!」

たった一人の言葉が皆を焚きつけやがて巨大な塊と化した


「「「「「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!」」」」」


「そっ!そういえば!昨日宿を止めて欲しいと来た元灰屍狩りの方が家にいるよ!」

「なんと!仏様が招いてくれたのだ!我々を救ってくれるのだ!奇跡だ!」

「その方がきっと”コレ”を殺してくださる!」

ハッキリ言おう私は大人でありながら…村長という立場でありながら村の一員の赤子を殺せる者がいると聞き心から

“安堵した”

「私!起こしてくる!」

「皆んな集まってどうしたの?」

不意を突かれ全員が一瞬固まり、そして振り返る

そこには我々の声で起きた子供達が居た

「あっ…えっと…」

私を含めた大人達が解答に選ぶ言葉を迷っている内に子供達は乳母車を見つけてしまった

「あ!乳母車だ!宮子さん赤ちゃん産めたんだね!皆んな見に行こう!」

「どんな子だろう!」

「私赤ちゃん抱っこしてみたい!」

「私も私も!」

「男だったら俺達の少年侍隊に入れようぜ!」

「賛成!賛成!小さい頃から俺たちが剣を教えればきっと強くなるぞ!」

この光景を本来なら私達大人は微笑ましく見れたのだろう

「えっ?」

見てしまったか…人ではない者を見てわ子供達に心の傷を付けてしまうだろうと考え、この出来事に子供を巻き込みたく無かった。それは言葉にはしていないが大人全員がそう思っていたのだろう皆んな顔を俯いていた

「カッコいい!すげぇぞ!見ろよ!コイツめちゃめちゃ強そうだ!」

「本当だ角が生えてるじゃん!カッコいい!」

「お侍様の兜みたいだね!」

「ねぇ!見てよ!この娘凄く可愛いわ!」

我々大人とは正反対に子供達は傷を受けるどころか喜んでいた私は思わず問うてしまった

「お前たちその子が怖くないのか?恐ろしくないのか?」

「え?なんで?カッコいいじゃん!」

唖然それしか今の心情を表す言葉が無かった

「怪異狩りの人連れてきたよ!」

呼びに行った幸さんがその人を連れ戻ってきた

「んで、儂に殺して欲しいという怪異はどこじゃ?」

その老人は頭に笠を被り頭髪や髭は白く薄緑の袴を着ていた

「”コレ”です!」

幸さんが指差すは乳母車

「乳母車ぁ?儂にコレを退治しろと?」

「違います!乳母車に乗ってる”モノ”です!」

「赤子?ははっ確かに怪異と言われても仕方がない容姿はしているなだがコイツは、”まだ”人だ」

「そんなバカな!こんな人間はいませんよ!早く殺してください!」

「じゃあ見てろ、ごめんな坊主」

そう言って赤子の腕をほんの少し刀で切った傷口から血が滴り痛みで泣き始めた

「儂達と同じ赤色の血を流し普通の赤子のように泣いている、人間と何が違う?姿だけか?」

「でも…その子が将来災いを呼んだり村の者達を襲うかも知れないじゃないか!」

「そ、そうだ!早く殺せ!」

「あのさ俺がアイツと同じ姿してたらお父ちゃんとお母ちゃんに殺されてたの?」

「え…あ…それ…は…」

「っ……」

純粋な質問なんだろう…だがそれによって私達大人に深い罪悪感が生まれてしまった…産まれたばかりの赤子を殺すと叫び狂乱しまともな話し合いをしなかった事に

「じゃあこういうのはどうだ?」

「どんな案だね?灰屍狩りさん」

「この子達が本当に魑魅魍魎の類なのか、それともただ姿が違うだけの人間なのかそれが判断できるまでをこの村で暮らさせる、ただしその間儂がこの村に付いて守ってやる」

「それは本当か!」

「まぁ儂は現役じゃなくて元だがな、少なくともそんじょそこらの奴には遅れはとらないつもりだ」

「それなら…」

「うん…万が一の時は灰屍狩りさんに任せれば良いしね」

「生まれたばかりの善も悪も分からない赤子の生き死にを議論するなんてよく考えたら恐ろしいよ」

「あぁ…俺も万が一の時に任せられる人がいるなら賛成だ」

「任せてよ!俺たちも少年侍隊がコイツが悪さしないように教えるから!」

「ははっそれは頼もしいな」

人は臆病であり卑怯だ、自分が予想できないものを怖がり排除しようとする…だがそれに対処できる強さを手に入れれば優位に立てると感じ寛容になる…だがその怯えのおかげで人間は魑魅魍魎が跋扈する国で生き残ってきたのだ

「怪異狩りさん本当に感謝する!村の総意として私からお願いする!」

「決まりだな、これからよろしくな」

「こちらこそ怪異狩り殿」

「その呼び方も不便だな、儂の名前は蝮だ」

「では改めて、よろしく頼む蝮殿」

「そうと決まればご飯にしましょう!家から大鍋持ってくるわ!」

「そうね!」

「幸さんは、お粥作って宮子さんに食べさせてあげて、それで落ち着いたらもう一度今後について話し合いましょう」

やはり女衆には敵わんなと思いつつ、久しぶりの村人全員で食べる食事はいつもより私の心を温かくしてくれた、食事が終わり団欒し

良き風が吹いたのも束の間

「たっ!大変だ宮子さんが…宮子さんが亡くなってる…」

お粥を食べさせにいった幸さんの報告それは今の大人達には恐怖させるには十分な物だった

「嘘でしょ…やっぱりあの子達は忌み子…」

「お、おいやっぱり今からでも…」

「やめなさい!!」

怯える者達を一括したのは梅さんだった

「もうあの子を恐れるのはやめなさい、宮子さんが亡くなったんならそれは、呪いでもなんでもない私の責任だ!あの子達に怯えて出産後の体に適切な処置が出来なかった…」

だが人の恐怖が生み出す凶い風を他ならぬ人間が風向きを変えることもできる。恐怖に勝った時人は少し強くなれる

「それを言うなら私にも大いに責任が生じる!私は2度も宮子さんの家に入ったが、赤子に対する恐怖に支配されて母体の心配ができなかった。皆の者悪い事を全てこの赤子に押し付けようとするのはやめよう!この子達はもう我々の仲間なのだ!」

そうだ私に責任がある悔やんでも悔やみきれない恐怖に負けたせいで大切な村の民を失った…それも助けられたかもしれない者を

「そうだよ私もあの子達がどうのこうのって言い争う為にこの事を知らせに来たんじゃない、宮子さんは衰弱しながらあの子達に手紙で名前と言う最初で最後の贈り物を残したんだ!」

「もう怯えない俺は、弟分として銀次さんに宮子さんを任されたんだ!であればその子供も俺が守るいつまでも怖がってちゃ進まない!」

「銀次さんはオラ達み〜んな救ってくれたそんな男に今のオラ達の姿なんか恥ずかしくて見せられねぇ」

銀次…宮子の夫、灰屍狩りが居ないこの村に襲いかかってきた灰屍をたった一人勇敢に立ち向かい命と引き換えに倒した英雄…そんな彼の子供を殺したとなれば顔向けできないそう多くの者が思ってくれた、次こそこの村は未知に対する恐怖に勝ち一歩前に進める

「良いかい?よくお聞き宮子さんの手紙を読むよ!

私達の赤ちゃんへ

まずはごめんなさい貴方の姿を見て母親である私が一瞬怖がってしまった

私は多分貴方達が大きくなった姿を見れません

でも分かってほしい私と銀次さんは会えなくてもずっと貴方達を愛している。

でも安心して、きっと村の人達も貴方達を愛してくれるわ

困ったら村の皆んなに相談しなさい

悲しかったり辛いことがあったら抱え込まず相談しなさい

あの人達は必ず力になってくれますよ

最後に私から贈り物をします

兄には”無稜”(むりょう)

妹には”桃花”(とうか)

と言う名前を授けます

無綾という名前にはこの世の人にも又貴方自身にも容姿だけでなく心の形を認めて欲しいと思いを込めました

そして桃花貴方には私と銀次さんが初めて出会った場所に咲いていて、私達が一番好きな花の名前を授けます

どうか貴方達が幸せに育つ事を願います

沙知 宮子より

良いかい!私達皆んなが宮子さんと銀次さんの代わりになるんだよ!絶対にあの人達の信頼を裏切ってはいけない…」

宮子さんさっきまでの事を見てたんだろうか

本当に心から謝罪する。

でもコレからは私達もあの子達を愛する

きっと貴方達の元に子供達が来たら

幸せな思い出を沢山話してあげられるような人生を歩ませる

「へへっ村長も幸さんも泣いてんのかよ…」

「お前もだろ?太助」

「ばっかコレは汗だよ、銀次さんの弟分の俺が簡単に泣くかよ」

「よし!皆の者今から宮子さんを銀次さんの元に送ってやろう!」

皆んな顔中が涙や汗にまみれながらも宮子さんにコレからの事を心配させないように笑顔で火葬の準備を進めている

村人一人ずつ贈り物を火屋に置いた事を確認してから火を焚いた

バチバチ

煙が立ち込めり私達の祈りと共に宮子さんが旅立った

その後無稜と桃花は私の家に住まわせる事になり毎日村中の人がやってきて抱きかかえたり

子供達は歌を聴かせたりと村中でこの子達を育てている

気がついたら1年が経っていた二人は物に掴まりながら歩き始めていて、初めてじぃじと呼ばれた時は涙が出て大人気なく村中に触れ回ると

次の日には自分の名前を呼んでもらおうとたくさんな人が来た事もあった

その姿は人の赤子と何も変わらない可愛くて仕方がない、銀次さんも村に馴染み男衆と魚や獣を狩に行ったり一緒に酒を飲んだりしている

3歳

二人共会話ができるようになったり一人で厠(かわや)に行ったり着替えができるようになった

無稜はとても体が丈夫でそこら中走り回って毎日怪我をして帰ってきて

桃花はとても美人さんだと村の人からも言われ良く村の女の子達と遊んでいる

あぁ…宮子さんこの子達は今幸せだろうか

どうかこれからも見守ってあげて欲しい


補足

怪異(かいい)

人と共にこの世に生を受け人を襲う化け物。古来より人から恐れられている

灰屍(くべがら)

怪異とは違い灰燼と呼ばれる者が生み出した化け物怪異と違いその姿は燃え尽きた炭のように白く所々で赤い火が燃えている

魑魅魍魎(ちみもうりょう)

怪異.灰屍などの人を襲う化け物の総称

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