五歳
銀次さんとの契約期間その頃には二人を忌み子呼ばれていた事すら記憶から消えており、無稜は、ずっと村中を走り回っては木の枝で銀次さんの剣術を真似して振るっており桃花はそんな兄の後ろにずっと着いて行ってる。
この間なんか突然現れた毒蛇から桃花を守るために木の枝で退治したという
一方銀次さんの方もこの村が気に入ってくれたらしくここに住むと言ってくれた
八歳半成人の歳
無稜は一般的な成長期を凌駕するスピードで成長し身長は五尺四寸(162cm)になっていた、さらに筋力の発達も凄まじく今では村一番の健脚となり木こりでは大人の倍近い速度で木を倒すという
最近は銀次さんに直接剣術や体術を学びに行っており銀次さんが言うには剣に天賦の才があるのだという
桃花は料理に興味を持ったらしく女衆に毎日教えられている始めて食べた料理は涙が出るほど美味しかった
本当に二人は心優しい、いい子に育っている
最近は体調が優れなく咳もひどい…二人に移さないようにしなくては。
二人は10歳になった、だが私は病に負け今は外に出る事もできず床に伏せている、毎日姿を見に来てくれる二人に申し訳がない
早く病に勝ちたい。
「じいちゃん…」
「おじいちゃん…」
「まさか村長様が病で亡くなるだなんて…二人が大きくなった姿を一番見たかっただろうに、こんなに早く逝ってしまうなんて」
「無稜…桃花…辛いだろう泣いてもいいんだよ?」
「幸おばちゃん…」
「おれ!俺全然悲しくなんてない!じいちゃん、言ってたんだ例え離れ離れになっても俺達の中に想いが残るって!!」
本当は悲しい涙が溢れそうだ歯を食いしばって腕をつねって痛みで誤魔化さないと…溢れちゃう…じいちゃんに男は簡単に泣いちゃダメだって教えられたから
「だから俺にはお母さんにもらった名前が残ってるし!じいちゃんに教えてもらった色々なことが残ってる!だから…それを覚えていれば…見ててくれるから…」
「桃花はちょっと悲しいな…もうおじいちゃんに…あえないん…でしょ?」
妹が涙を流していた
「なくなよぉ…泣いたらじいちゃんが…みてて…くれ…なくなっちゃう!」
「いいんだよ無稜、大切な人が死んだ時は泣いていいんだ」
くそっ!くそっ!一度涙が出たら止まらないじゃいか…いくら袖で拭っても溢れて来る…くそっ!俺もっとじいちゃんと一緒にいたかったよぉ…
カーンカーン
その時見張り台から鐘と見張り役の太助さんの声が村中に響いた
「おーい!やばいぞ!灰屍だ!銀次さんを呼んでくれーーー!!!」
「灰屍だって!みんな!家に隠れなさい!急いで!」
村の危機だと一瞬で理解して、あれだけの悲しさが倒してやるという心意気に変わり涙が引っ込んだ
「う、梅さんじいちゃんはどうするの!?」
「村長さんもアンタが怪我する方が嫌に決まってるだろ!着いてなさい!」
俺と桃花は梅さんに腕を掴まれ家に隠れた
「幸さんどうしたんだい!?」
「梅さん早く二人を!私は足をやっちゃったよ…」
「何言ってんだい!今から助けに行くからね!」
ドタドタドタ
反射的にその音の方は視線を向ける
「幸おばちゃん!後ろぉぉぉ!!」
喉が切り裂けそうなくらい思い切り叫んだ
なぜなら後ろに灰屍がとてつもないスピードで迫ってきていたから
幸おばちゃんは後ろを見た後またこっちに優しい目を向けた
「無稜!桃花!元気に育つん
グシャッッ
ビチャッ
頬に何かが付いた。
赤い…何かが…。
「あぁあああぁああ、あぁぁぁあああ!!!」
ただ…無慈悲に石ころを蹴るように幸さんを殺した…食べるでもない…ただ…ただ殺してどこかへ行った
「皆んなの仇を取るぞぉぉ!」
「「「おぉぉぉおおおおぉぉおおおお!」」」
銀次さんを初めに男達の雄叫びが聞こえた、アイツを退治する気だ俺も行かないと
「どこへ行く気だい!?」
「皆んなと一緒にアイツを殺しに行くんだ!俺だって力はあるんだ!だから離してよ!」
「行かせないよ!大人達に任せるんだ!」
「いやだ!アイツは幸おばちゃんを殺したんだ!」
「アンタまでも死なせるわけにはいかないんだよ!!桃花も止めておくれ!」
「やだっ!兄様まで死ぬのはいやだ!」
「二人とも離して!
「今誰かがきっと近くの村に知らせに行ってる!応援が来るから!落ち着いて!」
「おーーい!逃げたぞ!追え!追え」
血に塗れた格子窓からアイツが睨んでる
ゾクッ
戦えると思っていた…だけど実際に自分が狙われると体が動かない…
「騒ぎすぎてこっちに寄ってきたのかい!」
「二人とも静かに床下に隠れなさい」
「梅おばちゃんは?」
「桃花…心配しないで後で行くから」
「無稜!お兄ちゃんだろ、ちゃんと守ってやるんだよ」
「誰かが迎えに来るまで、絶対に出ちゃダメだからね
俺にはなんとなく分かった幸おばちゃんが死ぬ瞬間の雰囲気に似てたから…梅さんがもう戻らないって事に、裏口の扉に手をかけ振り返って笑顔を見せて…外に
飛び出した
「こっちだよ!化け物!あの子達に指一本も触れさせる物か!来てみろ!化け物」
大声を出した事でアイツは梅さんを狙い追いかけていった
「遅いよ!私はこれでも若い頃は一番足が早かったんだからね!」
ドシンドシンドシン
どんどん足音と梅さんの声が遠くなっていく
「おい!梅さんが追われてるヤバいぞ!」
少年侍隊のリーダーだった飛馬の声だ…俺は戦えないのか…
しばらくの間掛け声や雄叫びが聞こえ続け
「銀次さんが奴の足を切ったぞ!勝てる!勝てるぞ!」
流石師匠であり憧れの人もう勝ったも同然だと、狭い床下を這って出て窓から覗こうとした時向こうから人のような何かが飛んできた
ソレは扉を突き破り床で倒れていた
「銀次さん!どうしたの!?大丈夫?!?」
焦った.動揺した.一気に怖さが増した
あんなに強い銀次さんが吹き飛ばされ片腕が欠損して…血が溢れている俺は
“どうにかしないと”
そう思って必死になった、じいちゃんや村のみんなが怪我した時にしてくれたように綺麗な布を巻いた。
でも全然血が止まらないその時ふと記憶が蘇った遠くの町に買い物に行った太助が帰りに襲われて大怪我をした時山の薬草を剃って傷口を覆った布の上に塗っていたこと、そしてじいちゃんが怪我をした時はその薬草を支えた教えてくれた事
それから俺は無我夢中で山に走った
俺が探してある薬草ニシギリソウそれは山の中枢に生えている全力で走っても20分は、かかる
「くそっ!くそっ!急がないと!もっと早く足を送れ!」
それから体感で1分ほど経つとニシギリソウが見えた
「な、なんでこんな浅いところに…いや、なんでもいい!急がないと」
銀次さんの元に帰ると桃花が泣きながら額に冷えた布で汗を拭いていた
「兄様!どうしよう!銀ちゃんが!」
「大丈夫だ兄ちゃんが今薬草をとってきた」
急いでお湯を沸かすその間にも戦っている音や悲鳴が聞こえる、でも今はこっちに集中しないと…
心の中で何度も何度も謝りながら沸騰するのを待った。
ゴポゴポ
薬草をお湯に10秒浸けてその後手で擦り液体が出てきたら傷に貼ってある布を剥がし新しいものに変えその上に薬草を貼った
もうこれで銀次さんに出来ることはない、俺は刀を拾った
「まって兄様私もいく!」
「お前は銀次さんを見てやっててくれ…もし誰の声も聞こえなくなったら逃げろお前は可愛いからな誰か優しい人が助けてくれるさ」
そう言って静止の声を無視して壊れた扉から飛び出した
ザッザッザッ
争いの音が近い!桜さんの家を曲がれば!
ズシャ
「え?」
そこに広がっていたのはたった今腹を鋭い爪で突き刺された飛馬と地に倒れる梅さん太助…吉おじさん…海…凛さん…総司さん……村のみんな…
「がはっ!無稜…にげ…ろ」
「ひ……ま……ひょ…ま!」
ビチャッ
腰が抜け声が出ない
あ…か…?ち?あか…い…
赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…赤い…
「う、うわあぁぁあああ!」
「バカっ!」
ザシュッ
俺は剣を掲げて芯のない情けない走り方をしながら奴に攻撃をしようと突進した
が…何かに首を掴まれて後ろに吹き飛ばされた
「おい…大丈夫か…ハァハァ…無稜」
奴を監視しながら話しかけてきたのは
「銀次…さん?どうして」
「目が覚めたらよ…桃花が泣いて兄様が死んじゃうって言ってたからよ体に鞭打って来たのさ」
「そうか…ごめんな桃花…」
「気にしないで…それより兄様が大丈夫?銀次見てあげて…」
「そういえば…前が見えにくい…」
「!!見せてみろ!?」
そう言って銀次は俺の顔を軽く触ったりし始めた
「これは…左目がやられてるな…一歩遅かったか…」
「どういう…こと?」
目がやられた?俺は恐怖に押され両手で顔に異常が無いか調べるようにベタベタと触わった…
結論を言おう左目の周りが抉れていた
視力の回復はあり得ないと言う
「すまんが手当てしている時間はない一刻も早く…くっ…逃げないと」
「えっ!?みんなは…置いてくの…?」
「いいか…ここでお前らまでもが生き絶えたら正真正銘この村は誰からの記憶も消えちまう…」
想いも…残らなく…なる…?
みんなから言われてきた…お兄ちゃんだから妹を守れと…
「分かったよ銀次さん…直ぐに逃げよう」
「あぁ、アイツは幸い家を壊して生き残りを探している俺達は死んだと思われているんだろう…行くぞ」
「「うん」」
できるだけ静かにできるだけ素早く移動を始めた
そしてその先々で見る家族の遺体…下は見ずにできるだけ空を見た…
地と違って空は青いから
「やばいが!走れーー!!!」
バレた!全員全身を使って走っただけど速度では敵わない桃花が追いつかれた
ビシュッ
ゆっくり…その光景が信じられないくらいゆっくり…正確に見えた。
奴の爪が幾人を殺したその爪で桃花の顔を切り付けた、そして目の前が
“真っ赤になった”
予想より早く見つかった囮になろうも、ここは身を隠す場所が壊されている万が一俺ではなくアッチを追い続けたら最悪だ
アイツらを逃すには、森に入った後多少の怪我はさせてでも下に突き落とし自分が時間を稼ぐ
それ以外は生還率が低い
走りながら後ろを振り返ると桃花が切られた
ダメだ無稜だけでも逃さなければ…心を鬼にしろ
「無稜ダメだ!お前だけでも生き
「グガァァアァァアアァアァアァアアアアアアアァァァァァァァア」
咆哮…奴のでは無い…それは
無稜の物だった
そして…これは誰に話しても信じてもらえないだろう
十歳の子供が体長十四尺(4m超)を超える灰屍を文字通り一刀両断した
技術では無い…力だ人にはあり得ない力で真っ二つに切られ…いや言い直そう真っ二つに断たれた
灰屍を殺した後コチラを向いたその体は返り血に染められ…
綺麗な碧眼ではなく…あるはずのない
左眼が紅く光っていた……
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